僕の住むカナダ、ユーコン準州にはパタゴニアがある。はて何を訳のわからないことを言っているのだろう? と思った人もいるかもしれない。パタゴニアは南米に決まっているでしょ!
正しくは「北米のパタゴニア」と形容される場所がユーコン準州には存在する。今回は今年の秋にここへ紅葉を見に行った時の様子をお伝えしたいと思う。
カナダにあるパタゴニア?
トゥームストーン準州立公園
1970年代に北極圏へ向買う道、デンプスターハイウェイの建設が計画された。この地で先祖代々暮らしてきた先住民族が、開発から自然を守るためにここを準州立公園にしようということになった。道路が北極海まで繋がるようなった今でも、道の両側には果てしなく続く手付かずの大自然が広がる。
ユーコン準州で2番目に大きい街であるドーソンシティー。そこから車で約1時間半北上すると、トゥームストーン準州立公園に到着する。東京都全域とほぼ同じ面積の公園内には、切り立った形をした山々が連なっていて、墓標のように見えることからトゥームストーン(墓石)準州立公園と名付けられた。
この公園内には、カナダを代表するユーコン川とマッケンジー川へと続く分水嶺があったり、クマやヘラジカやヒツジなどの大型哺乳動物以外にも約150種類の野鳥も確認されるなど、ユーコンらしいユニークな自然豊かな場所だ。
代表的なトレイル
公園内には整備されたトレイルがいくつか存在する。その中でも人気が高いのが、グリズリーレイクトレイル。このトレイルの行き着く先にある湖の名前が付いている。そしてそこからその先に続くトレイルを歩いていくと着くのが、タラスレイク。
ハイウェイ沿いからも雄大なユーコンの風景が見られるけれど、パタゴニアにも似たトゥームストーンな風景を堪能するには、これらのトレイルを歩いて行けるところまで行く以外に方法はない。だいたい平均して、ハイウェイからトレイルの終着点のタラスレイクまで片道6〜8時間かかるから、テント泊がどうしても必要になる。しかしこの公園内では、ツンドラに生える繊細な植生の地衣類などを傷つけないようにと、決められた場所以外でのテント泊が許されていない。
テント泊する人は予めキャンプサイトの予約が必要。もともと小さなキャンプサイトに張れるテントの数が制限されているから、そもそもの人気が高い。特に紅葉の時期は世界中のハイカーからも人気が上がっていて、年々難しくなってきている。
フライイン!
そんな秋の絶景を写真に収めようというフォトグラファーが、アメリカから来ていた。絶景の場所までは片道2日は歩かなければ行けないというところを、彼らはカメラ機材との兼ね合いもあって、タラスレイクまでヘリコプターで飛ぶという。幸運にもそこに同行させてもらうことになった!
正直にいうと、僕はこのグリズリーレイクトレイルを歩いたことはあったけど、行ったことのある時期が春と早い時期だった。まだテント場が雪に埋もれている時期で泊まることができなくて、途中で引き返したことしかなかった。
フライイン当日は天候不良で、ドーソンシティーからトレイル入り口で待機している僕たちを迎えにくるはずのヘリコプターがなかなかやってこない。それでも午後には天気が回復してくれたおかげで、なんとか飛ぶことができた。
歩いたら片道1日かかる距離をわずか30分で飛んでしまった。実際にパタゴニアには行ったことはないのだけれど、そこにあった絶景は写真で見たパタゴニア山々に確かに似ている。ミニパタゴニアといった感じかな?
紅葉は始まりかけていたけれど、まだ少し早い感じも。確かに世界中から人々がやってくるのが分かる。是非とも次回は歩いて行きたいと思った。
ビデオグラファー
杉本淳(すぎもとあつし)
2008年にユーコン川下りで訪れて以来、ユーコン準州に通い始める。2011年に移住後も、ユーコンに生きる野生動物、風景、自然と共に生きる人々を引き続き撮影中。2019年First Light Image Festivalにて最優秀賞受。雑誌Canadian Geographic、カナダのテレビ番組、イギリスBBCなどに作品を提供。ユーコンから色々なトピックをお届けします!