レグルス以外の小惑星食は観測史上初
日本時間12月12日の朝10時過ぎ、オリオン座の1等星ベテルギウスが、地球から見てレオーナという小惑星と重なって隠される「ベテルギウス食」が起こります。
ただ、はじめにお断りしておくと、日本から見える現象ではありません。トルコ、南ヨーロッパ、そして大西洋を越えてフロリダ半島などの狭い範囲でしか観測できないと予想されています。それでも、1等星が小惑星に隠されるという現象は超がつくほど珍しく、この機を逃すと、もうお知らせする機会がないかもしれないので、ぜひお知らせしたいと思います。しし座のレグルス以外では観測史上初になる記念すべき現象です。
2023年の9月には、さそり座アンタレスが上弦の月に隠される「アンタレス食」がありました。2022年11月の月食時には天王星が隠される「天王星食」もありました。このように恒星や惑星が月に隠される食は、それほど珍しいことではありません。しかし、恒星が「小惑星」に隠される食はケタ違いに珍しく、観測史上わずかに4回、しかもすべてしし座のレグルスで起きています。黄道(天の見かけ上の太陽の通り道)にもっとも近い1等星であることから、レグルスに多いのではないかと考えられます。今回のオリオン座のベテルギウスは黄道からは離れていることを考えても激レアです。
超巨星ベテルギウスだからこそ起きる現象も
観察はできずとも、ベテルギウス食が大きな話題になる理由は他にもあります。
小惑星によるベテルギウス食が注目されるもうひとつの理由は、ベテルギウスの「大きさ」にあります。恒星はとても遠くにありますから、どんなに明るくても、ふつうはただの点にしか見えません。そのため小惑星に隠される瞬間は、明るい点が消えるだけです。
ところが、ベテルギウスは赤色超巨星です。直径は太陽の700~1000倍もあり、太陽をベテルギウスに置き換えたら火星とその外側の小惑星帯はすっぽり飲み込み、さらにその外に木星軌道まで達するほどです。これほど巨体のため、400光年以上の彼方にありながら、見た目でも他の恒星にはない“大きさ”を持っているのです。
一方、小惑星レオーナは直径約70キロメートルと推定されています。距離は地球から約3億キロメートルの所を回っています。ちなみに1光年は約9兆キロメートルです。
この小さな天体レオーナを地球から見たとき、見かけの大きさはベテルギウスと誤差の範囲内で一致します。そうすると、レオーナがベテルギウスを横切る時、星の光が瞬間的に消えるのではなく、緩やかな減光と増光が起きるかもしれません。さらにベテルギウスのキッカリ正面を横切れば、その瞬間、レオーナの周りにベテルギウスの光が金環日食のように光るのではないか、という予想も成り立ちます。日本から観察できないのが残念ですが、翌日13日のニュースを楽しみにしたいところです。
構成/佐藤恵菜