3月下旬からポン・ブルックス彗星が肉眼で見える?
2024年の天文現象のトピックは彗星です。3月下旬からのポン・ブルックス彗星、10月の紫金山・アトラス彗星と、肉眼でも観測できそうな彗星がふたつも接近します。肉眼で見える彗星は滅多に現われません。今年はそれが2つも見られるかもしれないレアな年です。
彗星は、恒星とも惑星とも、すばるなどの星団やオリオン座大星雲のような星雲とも違う、なんともいえない姿をした天体です。尾を引いている姿から、日本では「ほうき星」とも呼ばれます。突然現われ、やがて消えていく彗星を昔の人は不吉なものと見なすこともありました。実際に見て、どんな姿に見えるか、ぜひ確かめてほしいと思います。
彗星観察のむずかしさとおもしろさは、予測が立てにくいところです。遠くから飛んでくる彗星は、いつ明るくなるのか、どれくらい明るさを増すのか、予測するのがとてもむずかしい。彗星は太陽に近づくほど明るく見えるようになります。ところが、太陽に近づく途中で彗星の核が分裂してしまったり、消滅してしまったりすることもあります。見えるまでわからない。そんな直前までドキドキさせられる天体です。
まず春に、ポン・ブルックス彗星が接近します。4月21日に太陽に0.78天文単位まで近づきます。1天文単位とは約1億5000万キロメートルです。
ポン・ブルックス彗星の周期は約71年。この彗星には「12P」という記号がついています。この記号は周期性であると認定された12番目の彗星であることを意味します。ちなみに1P、つまり初めて周期性が発見された彗星はハレー彗星です。周期は約76年です。
ポン・ブルックス彗星は1812年に初めて発見され、今年で4周期目ということになります。きちんと帰って来る「実績のある彗星」と言っていいでしょう。
予想では3月下旬から4月にかけて、夕方の西の空低いところで見られます。明るさは4等級くらい。おひつじ座に近く、木星が目印になるでしょう。
1等級まで明るくなる?期待高まる「紫金山・アトラス彗星」
2024年最大の天文ショーになりそうなのが、10月の紫金山・アトラス彗星です。昨年の1月9日に発見されたばかりの新彗星です。
9月28日には、太陽に水星と同じくらいの距離まで近づき、1等級ほどまで明るくなると予測されています。この前後の時期は日が昇る直前の東の空低くで見えます。10月中旬になると、少し暗くなってしまいますが、夕方の西の空に現われるようになると予想されます。
肉眼で十分見られる明るさですが、東京からだと地平線にかなり近い位置になるので、今のうちから東や西の方角が十分開けている場所を探しておきましょう。
紫金山・アトラス彗星は、太陽系の一番外側に広がる氷の世界「オールトの雲」から飛んできたと考えられています。今回初めて太陽に近づいている可能性もあり、今後軌道がどうなるかは予測が困難です。少なくともポン・ブルックス彗星のようにはっきりとした周期性の彗星ではないということです。
どんな姿が見られるか、とても楽しみです。肉眼で見えることが期待されますが、彗星観察には双眼鏡がおすすめです。滅多に見られない天体ですから、双眼鏡を向けてじっくり見てほしいと思います。ほうき星と呼ばれる彗星の尾っぽも見られる可能性が高まります。
私自身が最後に彗星を肉眼で観測できたのは、2007年に3等級まで急増光したホームズ彗星まで遡ります。1996年の百武彗星、1997年のヘール・ボック彗星と、90年代後半には大きな彗星が続いたのですが、それ以降はホームズ彗星の他、肉眼で見える機会はありませんでした。それくらい肉眼で見える彗星は珍しい現象であり、貴重な体験になると思います。
12月8日、土星が月に食べられる
2024年、もうひとつ注目の天文現象として12月8日の夕方、「土星食」があります。北海道と九州の一部を除いて、土星が上弦の月に隠される現象が見られます。
東京ではギリギリですが、土星が上弦の月の陰の部分に隠れ、明るい部分から出現するのが見られるはずです。暗い部分に土星がジワッと消えていく瞬間が見られると思います。肉眼でも見られますが、双眼鏡を据えて観察すれば感動ひとしおでしょう。
2024年の星空も話題が尽きません。彗星イヤーとして記憶に残る一年になるかもしれません。天文現象は一期一会。しっかり見届けていきましょう。
構成/佐藤恵菜