チョコレートってスゴイ! 知られざる真実と、カカオに魅せられた人びと
「わ~お、大きいね! 30センチ以上あるよ」
人里離れた奥地に広がるワイルドな農園。その一画に分け入った女性が、木に実をつけた大きなカカオを見つけて大きな声を上げる。続いて、「カカオって、フルーツだって知っていますか?」と語りかけるナレーション。観ているこちらは思わず、えっそうなの!?と驚いて前のめりになる――。
ドキュメンタリー映画『巡る、カカオ~神のフルーツに魅せられた日本人~』はそんなふうに始まります。
例の板チョコの見慣れたパッケージで、カカオの実がどんなものかはもちろん知っていました。でもそれが、オレンジに紫に黄緑に…とカラフルに色を変えるフルーツだったとは!
そして、なんとなくアーモンドくらいの大きさかと思っていましたが、1㎏を超えるような重量になるとも知らず、木に実がなっているところも初めて目にしました。
その実をむいてなかの種を取り出し、発酵させ、乾燥し、焙煎して香りを引き出す。これがチョコレートの原料であるカカオなのか……。この映画では、チョコレートの製造方法やカカオの歴史をアニメーションなども挟んで紹介されます。
チャレンジし続ける二人の女性を追って
メインとなるのは二人の女性です。
まずは、カカオハンターの小方真弓さん。チョコレートメーカー勤務を経て、単身でカカオ生産国を巡る旅へ。コロンビアのカカオに魅了されて活動拠点を移し、研究開発ディレクターとしてカカオ豆の品質向上や生産指導、生産農家の発展に努めています。
もうひとりは田口愛さん。19歳のときに訪れたガーナで、カカオ農家の抱える課題を目の当たりにし、新たなチョコレートブランドを立ち上げたという、まだ二十代の女性です。映画はそんな彼女たちの、楽しそうな奮闘を追いかけていきます。
彼女たちは、驚くほどにしなやかです。田口さんは大学で周囲の友達が確たる自分を持ち、夢を語るキラキラした姿に気圧され、そこから日常生活の中で自分の心が動く瞬間、心臓の音に気を付けるようになったそう。
そうして好奇心の芽をたどり、チョコレートに行きつき、まずはやってみよう!とクラウドファンディングで資金を調達して現地にチョコレート工場を建設。新たなチョコレートブランドを立ち上げます。
そうした過程をニコニコしながら語るこの女性が、それだけのことを成し遂げたという事実に驚かされます。それでいて「いまの時代、挑戦のハードルが低くなっているから、私がやっていることは決して特別なことじゃない」とあくまでさらりとしているのです。
小方さんは、一見してパワフルな女性です。現地の言葉を駆使し、ものすごいコミュニケーション能力で、ずんずん人々の中に分け入っていきます。しかもそのさまはとても自然で、不思議と押しつけがましくないのです。
彼女は1990年代後半~2000年代初頭の会社員時代、カカオ産地に行ってチョコレートの源流を見てみたいと思っても、女性ではなかなか難しかったと語ります。そこから会社を飛び出し、自分の足で見に行こう!と決意。その理由を問われて、「こうしなきゃいけない、ああしなきゃいけない、は、ほぼほぼ考えたことがないんですよ。これが、出来る。あれが出来る、で動いてます」と即答します。
彼女たちはいずれも自分の心が踊ることに耳を傾け、その世界に飛び込み、高い志を持って自らの道を切り開いています。こんなふうに仕事をしている人が現実にいるのか!なんて格好いいのだろう……と観ているこちらもワクワクしました。
それでいて、素朴な道具でチョコレートづくりをする田口さんを観て、現地の子どもたちに混じって、わいわいとその様子を観ているような気にも。
出来立てのチョコレートって、どんな味がするのでしょう?食べてみたくなりました。
『巡る、カカオ ~神のフルーツに魅せられた日本人~』
(配給:ナカチカピクチャーズ)
●監督/和田萌 ●ナレーション/堀ちえみ ●2024/1/12~シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
©HEARTTREE
文/浅見祥子