「心身の疲れを残さず、毎日を快活に生きていられていますか?」
この問いに自信を持ってYesと答えられる方は少ないのではないでしょうか。
“過労死”という言葉の発祥の地であり、ストレス社会とも言われる日本(過労死は、英語でも「karoshi」として英字辞書にも登録されています)。
そんな国に生きる私たちにとって、心身の健康を守ることはとても重要なトピックです。
その手段として、現在、国内外で注目されているのが「森や山などの自然との触れ合い」。特筆すべきは、レジャーというレベルではなく、一歩進んで医学的な検証が進んでいるという点です。
今回、「自然に触れること」の健康効果を実際に体感し、その知識も学ぶことができる「森deリトリート 特別編」というプログラムに参加してきました。
会場である八ヶ岳の麓、清泉寮(山梨県北杜市)にて1泊2日の滞在。
この記事では、「自然がもたらす心身への医学的健康効果」を簡潔に紹介するとともに、清泉寮の森deリトリートで体験できる「森の癒し体験」の様子をご紹介します。
国内外の医学会や、国家レベルで注目を集める森林浴
アウトドアへの関心が高いBE-PAL読者の皆さんは、自然によって「癒し」を感じたり、心身の疲れがリフレッシュすることを感覚的には認識されているかと思います。
こういった癒し効果は、科学的にもはっきりと認められています。私も以前からその効果には注目しており、過去に執筆したBE-PALの記事の中でも紹介してきました。
例えば森林浴。1982年に林野庁にて提唱され、日本が発祥の概念です。それもあってか、この分野の研究は日本の研究機関が世界的にもリードしています。
例えば、千葉大学の研究によると、森の中でたった15分間静かに座っているだけで、ストレスホルモン(コルチゾール)の量が減少し、血圧も下がり、副交感神経の活動(リラックス度の指標)が55%も高まります*1。加えて主観的な評価でも、気分が良くなり、日常の不安な気持ちが治まったという結果が出ています。慢性的にコルチゾールの値が高く、血圧も高い人は、うつ病、認知症、心臓病、代謝疾患に罹患しやすいことがわかっています*2。
その他の国内外の研究でも、自然の中で過ごすことによる免疫機能の改善(NK細胞の増加)*3、睡眠の質の改善*4など、さまざまな健康効果が確認済み。
さらには、記憶力が上がり*5、注意力が回復し*6、創造性まで向上する*7という、効果も期待できるとされます。。
日本では予防医学としての側面が強い森林浴ですが、ドイツでは国が認めた医療行為として実施されています。また、フィンランドや韓国のように国費を投入して研究を進めている国もあります。日本発祥の「Shinrin-Yoku」は、その健康効果にいまや国内外から脚光を浴びているのです。
近年ではこうした自然を利用したプログラムを、企業での研修や、福利厚生として取り入れられる動きも広がっています。実際、今回の参加者の中には、こうしたプログラムの自社への導入を見越して参加されている方も複数人いらっしゃいました。
参照文献
*1 『Effect of the forest environment on physiological relaxation-the re- sults of field tests at 35 sites throughout Japan』Park Bum-Jin et al.
*2『Social strain and cortisol regulation in midlife in the US』Esther M. Friedman et al.
*3『Visiting a forest, but not a city, increases human natural killer activity and expression of ant-cancer proteins』Li Q et al.
*4『Circadian Entrainment to the Natural Light-Dark Cycle across Seasons and the Weekend』Ellen R. Stothard et al.
*5 『NATURE FIX』Florence Williams
*6『The Cognitive Benefits of Interacting with Nature』Marc G Berman et al.
*7『Creativity in the Wild:Improving Creative Reasoning Through Immersion in Natural Settings』Ruth Ann Atchley et al.
森での癒され方、楽しみ方を学べる「森deリトリート」
前段までで、森林には客観的な健康効果があることをご紹介しました。
そこまでご理解いただけたら、あとは実際にそれを体感して頂くだけ。
そして、その森の癒し効果を最大限引き出す手段のひとつが、今回紹介する「森deリトリート」(https://www.seisenryo.jp/experience_retreat.html)です。
「森deリトリート」は環境教育に取り組む公益財団法人キープ協会が、医療や健康に関わる専門家(医学博士や薬学博士など)を招いて実施する、感覚と科学の両方のアプローチで組み立てられた森林療法プログラム。
会場となる山梨県北杜市の清泉寮は八ヶ岳の麓に位置し、富士山を一望することもできます。
※注釈
今回、参加したのは森deリトリートの「特別編」というプログラムです。これは特に「森林体験の普及・啓蒙」を目的としており、主に報道関係者や事業者などを対象にしている点が、通常版の森deリトリートと異なります。主催はJEEF(日本環境教育フォーラム)で、森林プログラムの実施を担うキープ協会との共催事業となっています。森林プログラムの内容自体は、一般向けに開催されている(いわゆる通常版の)森deリトリートと同等のものです。
公益社団法人 日本環境教育フォーラム(JEEF : Japan Environmental Education Forum):https://www.jeef.or.jp/
森deリトリートでは、キープ協会のプロのレンジャーの方々をガイドに、清泉寮の周囲の森の中へと足を踏み入れます。
都会の喧騒を離れ、草木の緑や、小鳥のさえずりの中に包まれるだけでも、すぐに心地よさを感じられます。それだけでも充分なほど心身は癒されるのですが、それだけにとどまらないのがこのプログラムです。
ガイドの方々のアテンドによって、森を楽しむための様々な視点を与えてくださいます。
つまり、久しく自然に触れておらず、森の中に入っても「何をどうすればいいのか?」と戸惑ってしまう方でも、安心して森の中の散策を楽しめるようになっています。あるいは、日頃からキャンプなどを趣味にして自然に触れている人にとっても、プロのレンジャーの視点からは多くの新しい気付きが得られます。
日々のデスクワークに埋没し、五感の使い方や、自然との対話の仕方をすっかり忘れてしまった私たち現代人に、森の歩き方や楽しみ方をレクチャーし、森でのリトリートをアシストしてくださるというわけです。
印象的だったのが、森の中を散策中に突如として始まるネイチャーゲーム。
「森の中からこの葉っぱより大きい葉を探して」「落ちてる植物から、1番フワフワしてるものと、1番ゴツゴツしてるものを探して」など、会社ではおよそ聞くことのない「身体の感覚を使ったタスク」を言い渡されます。
現代人代表として参加した私たちの埃かぶった五感では、なかなか条件に合うものが見つけられません。ですが、普段から自然の中で感性を研ぎ澄ましておられるレンジャーの方たちは、獲物をしとめる鷹のような俊敏さで、目的にかなうものを探し当てていました。日頃のデスクワークで、私たちの五感がどれだけ鈍くなっているのかを思い知らされます。
森の中でのゲーム中は、身体の中の普段は使っていない機能を使ってるなという感覚が確かにありました。ここまで五感をフルに使うのは久しく、思うようにゲームをこなせないもどかしさもありました。ですが、普段使ってない感覚を駆使しているがゆえの新鮮さや、充足感を得られました。
何より感じたのは、レンジャーの方たちのアテンド無くしては、私を含めた参加者たちがここまで童心に帰って自然を楽しむことは、間違いなくなかっただろうということでした。
現代人が失った自然との交流を今も継続している、自然のプロの着眼点と楽しみ方を教われる。
そこに、このプログラムの1番の価値があると感じました。
森から帰ると、すっかり頭の中も、気分もクリアになっていました。
それに呼応するように私の血圧と心拍数は、森に入る前と比べ、入った後には減少。私の身体でも、学術論文で謳われていた「癒し効果」が表われました。
自然を身近に。1ヶ月に5時間だけでも効果が得られる
ご自身の心身の健康を守るためにも、ぜひ緑の癒しを日常生活に取り入れてみてください。
では、都市に住む私たちは、どのくらいの時間・頻度で自然と触れ合えばいいのでしょうか?
フィンランド国立自然資源研究所が行なった、都会に住む3000人を対象にした研究によると、1ヶ月に5時間以上を自然の中で過ごすと、日常のストレスの軽減と気分の改善の効果が得られるという結果が出ています*8。
休日を使えば実践できそうな時間ですよね。まずはこの数値を最低ラインに、自然との触れ合いを始めてみてください。
そして、「自然の楽しみ方を知りたい」「せっかくなら素晴らしい自然の中でリトリートしたい」という方は、今回紹介した「森deリトリート」のようなプログラムに参加されるといいでしょう。
参照文献
*8『NATURE FIX』Florence Williams
今回の会場・宿泊場所である八ヶ岳の麓・清泉寮(山梨県北杜市)では、「森の癒し」だけでなく、富士山を望むロケーションや、それを眺めながら食べる牧場ソフトクリーム、地元食材をふんだんに使ったディナーなど、たくさんの魅力に溢れています。今回は紹介しきれなかった、ヘルスケアの専門家の方に学ぶ森林健康プログラムも含んだ、1泊2日のリトリートとなっています。
森林の癒しによるセルフケアを始めたい方が、旅行も兼ねて参加するスターター・プログラムとして非常におすすめです。
気になった方はぜひチェックしてみてください。
お問い合わせ
■森deリトリート(一般向け)
運営:公益財団法人キープ協会(https://www.keep.or.jp/)
会場:清泉寮(https://seisenryo.jp/)山梨県北杜市高根町清里3545
HP:https://www.seisenryo.jp/experience_foresters-school_shinryo.html
■森deリトリート 特別編
企画・運営:公益社団法人 日本環境教育フォーラム(https://www.jeef.or.jp/)
プログラム運営:公益財団法人キープ協会
会場:清泉寮 山梨県北杜市高根町清里3545
HP:https://www.jeef.or.jp/activities/retreat/