ラインナップが充実してきたSUV界の王様「ディフェンダー」。もし自分が買うならば、V8を買うべきか、それともディーゼルか? 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)の金子浩久がハムレットのように悩み楽しんだ難問の解をご紹介します。お値段もちょっと手が出ないくらいエクスクルーシブなんですが、公式ホームページでは自分だけの1台を受注生産できるシミュレータがあって、「もし買うなら」という仮定で自分仕様のディフェンダーをバーチャル製造するだけでも楽しいですよ!
ボディとエンジンは各3タイプから選べる
2020年に日本に導入されたランドローバー・ディフェンダーは、すこしづつバリエーションを増やし続けてきました。
最初は「90」と「110」の長短2種類のボディに、エンジンもガソリンとディーゼルが各1種類ぐらいだったのではと記憶しています。次に、ガソリンにもディーゼルにも新開発されたMHEV(マイルドハイブリッド)化された「P300」と「D300」の3リッター6気筒が選べるようになりました。
やがて装備品の違いによるグレードも増えて、「130」という最も長いボディが追加。3列8人乗り仕様です。ちなみに、これら「90」「110」「130」という数字は先代のディフェンダーでは3種類のホイールベースを表すインチ数でしたが、現行モデルではホイールベースは反映されていません。「110」と「130」のホイールベースは3020ミリと共通で、ボディの全長が4945ミリ(110)と5275ミリ(130)と違っています。
そして、2023年12月には525馬力のV8ガソリンエンジンが初搭載された「P525」モデルが追加され、「130」には2列5人乗りの「OUTBOUND」が追加されました。これで、3種類のボディ、3種類のエンジン、16ものグレードが揃ったことになります。今後は、ここにPHEV(プラグインハイブリッド)やEV(電気自動車)などが加わっていくのでしょう。
「110 V8」と「130 OUTBOUND D300」を乗り比べてみた
2024モデルとして新たに追加されたV8ガソリンエンジンを「110」ボディに搭載した「110 V8」と、「130」ボディに「D300」3リッターディーゼルエンジンを搭載した「130 OUTBOUND D300」を東京都内で試乗しました。
V8エンジンは強烈な加速がすばらしい!
「110 V8」の第一の魅力は、V8エンジンらしいリッチな加速感覚でした。アクセルペダルの微細な踏み込みに対して、パワーと排気音で反応してきます。スーパーチャージャーで過給され、最高出力525馬力と最大トルク625Nmを発生し、最高速度は240km/h。0-100km/h加速は5.4秒。
較べると、「130 OUTBOUND D300」のそれは最高速度191km/hと0-100km/h加速7.5秒。V8の速さが際立っています。
舗装路での速さはデータだけでなく、体感でも強く感じます。強烈な加速は、ディフェンダーをひとまわり小さく感じさせるほどです。短い全長の「90」モデル(0-100km/h加速5.2秒)だったらより一層とオンロードでの速さを感じたことでしょう。
速さとともに印象付けられたのが、排気音でした。最近のエンジンにしては珍しく、アクセルペダルに反応する音の表情が豊かです。キャラクターの濃厚なエンジンは、スポーツカーでも少なくなりました。
ただし、燃費は厳しくて、都内での試乗中の燃費モニターでは5km/lから9km/lの間の値を行き来しながら、5km/lに近いほうを示していたことが多かったです。
ディーゼルエンジンは静かで振動皆無、滑らかで力強い
次に乗った「130 OUTBOUND D300」は、全長5275ミリもある「130」ボディの車内を3列ではなく2列シートとした分、1329lもの広大なトランクスペースを実現しています。
「130」ボディともなると、3列シートでも十分に広いトランクスペースを有しています。5人までしか乗せないか(OUTBOUNDグレード)、8人乗せることもあるのか(ノーマルグレード)の違いです。もちろん、8人乗りでも3列目のシートをたためば、そのぶんトランクスペースを拡大することはできます。
日本で発売されて以来、130ボディはディフェンダー全体の2パーセントしか販売されていないことからも、「2列か、3列か?」は、ごくごく特別な乗り方を考えている人の悩みです。でも、そんな悩みほど楽しいものはないでしょう。
他のランドローバー各車にも搭載されている、MHEV(マイルドハイブリッド)化された「D300」3リッター直6ターボディーゼルエンジンは、静かで振動も皆無な上に滑らかで力強く現代的です。V8のような強大なパワーや官能性のようなものとは正反対の、優秀な“黒子”的なエンジンです。「130」ボディに人と荷物をたくさん乗せて遠くに出かけるのには、このディーゼルユニットこそがふさわしいでしょう。
なぜならば、「V8」はV8が搭載されたクルマあるいはエンジンそのものが“目的”になってしまうからです。オフロードを走らなくても、街中を流しているだけでも楽しく、満足感も高いですから、それで完結してしまうのです。
一方、「D300」ディーゼルエンジンを搭載した「130 OUTBOUND D300」は、旅や長距離移動という目的を実現するための“手段”です。オフロードを含めた過酷な条件下を走り抜くための機能がたくさん盛り込まれたディフェンダーの能力をフルに発揮させるような乗り方こそがふさわしい。
アウトドア好きならどのディフェンダーを選ぶべきか?
では、ここまでラインナップが充実して、モデルが揃ってきたディフェンダーの中から、何を選ぶべきでしょうか?
もし自分が買うとすれば、第一目的は街中を流すのではなく、旅とアウトドアアクティビティになります。それを想定して、考えてみました。
ボディとエンジン
まずは、ボディです。「90」は短くて、2ドアなので僕は選びません。「110」か「130」です。 パワートレインはMHEV化された3リッター6気筒ディーゼルの「D300」一択です。
「130」が長過ぎるとしたら、「110」でもアウトドアで良い仕事をするでしょう。ボディカラーや装備、アクセサリーなどの好みは後から選ぶとして、機能と装備から決めていきましょう。
ちなみに、2024年モデルではインテリアの操作系統も一新されました。走行モードを選ぶためのテレインレスポンスも専用のダイヤルが廃止され、モニター画面の中で設定するようになりました。走行モードを選ぶ最後のプロセスをエアコンのダイヤルを兼用している辺りは賢いですね。
サスペンション
大事な選択として、サスペンションがあります。エアサスペンションと金属製のコイルサスペンションが用意されていますが、自分ならエアサスペンションの快適性と路面追従性の高さを選びたい。
タイヤサイズ
さらに、タイヤサイズ。19インチ、20インチ、22インチと3つから選ぶことができますが、19インチを選びます。V8エンジンの強大なパワーを活かすのならば、20インチや22インチなどの大きなタイヤが必要ですが、デメリットもあります。転がり抵抗の小ささ、燃費、ノイズの少なさ、そして出先での入手しやすさなどを考慮して19インチを選ぶでしょう。
ディーゼル仕様の19インチタイヤ、エアサスモデルは存在しない
ランドローバーのwebサイトで確認すると、19インチタイヤを装着するディフェンダーは最もベーシックな856万円からの「S」グレードしかありません。その次の「SE」から上位グレードはすべて20インチタイヤが標準で装備されてしまいます。
エアサスペンションはというと、最上位の「X」(1265万円~)でないと標準装備されません。400万円もの価格差があるのはタイヤとサスペンションの違いだけではありません。ここには書き切れないほどの、さまざまな快適装備や豪華アクセサリーなども一緒に付いてきてしまうのです。
「110」ボディにD300エンジンを載せ、19インチタイヤを履いたエアサスペンション装着のグレードは存在しないのです。
ちなみに、「130」ボディにD300エンジンを載せたグレードは4つありますが、すべて20インチタイヤを履いてエアサスペンションが付いています。
自分だけの1台をカスタマイズしてみた
でも、諦めるのは早い。宛てがい扶持の既成グレードから選ぶのではなく、カスタマイズ・コンフィギュレーター(完全受注生産シミュレーター)を使って、必要な装備とアクセサリーをひとつづつ「S」グレードに付け加えていって、「自分だけの1台」をシミュレートしてみることにしました。この作業はランドローバーのホームページから誰でも可能です。
ずいぶんと長い間、モニター画面を前にしてカチカチッとクリックを繰り返してしまいました。自分がディフェンダーを購入することになる時を想像しながらコンフィギュレーターを操作して、仕様を決めていくのは簡単ではありません。良さそうに見えるものでも、使わないかもしれない、汎用品を検討してからでも遅くはないだろうと、まだ想像の段階なのにもかかわらず、真剣に選んでしまったからです。
その結果、選んだのはエアサスペンションだけではありませんでした。もっと高価なオプションもあり、合計金額はなんと1112万3220円。選択した15ものオプションの合計金額が256万3220円だからです。
以下に列記します。
- スライディングパノラミックルーフ
- プライバシーガラス
- MERIDIANサウンドシステム
- オフロードパック(ルーフレール、家庭用電源ソケット、トルクベクタリングバイブレーキ付き電子制御アクティブディファレンシャル、オールテレインタイヤ)
- エアサスペンションパック
- アドバンストオフロードケーパビリティパック(オールテレインプログレスコントロール、テレインレスポンス2、コンフィギュラブルテレインレスポンス)
- ホイールロックナット
- 3ゾーンクライメートコントロール
- エアクオリティセンサ、PM2.5フィルター付き空気清浄システムプラス
- ClearSightインテリアリアビューミラー
- セキュアトラッカー
- フロントエクスペディションプロテクションシステム
- ロードスペースパーティション・フルハイト
- エクスペディションルーフラック
これらの中には確認を要するものもありますが、どれも必要なオプションだと考えた結果です。それぞれの価格は書きませんが、エアサスペンション以上に高価だったのが、フロントエクスペディションプロテクションシステムで44万8470円します。フロント部分を保護強化し、ロードクリアランスも改善するものです。
コンフィギュレーター画面に表示されたオプション一覧と合計金額を眺めて、ため息を吐きました。1000万円を軽く超えるクルマになりますから、本当にそれが必要だと思えなければ買う気にもなりません。
そして、このクルマは高い機能性と走破能力の塊ですから、十分に活用しなければ宝の持ち腐れとなってしまいます。それが旅なのか、頻繁な長距離移動なのかはわかりませんが、その体験はディフェンダーとともに忘れられないものとなるでしょう。正月休み中に、そんなことを夢想していました。
ランドローバー公式サイト https://www.landrover.co.jp/index.html