東京23区内、特に山手線の内側はビル街や飲食店街、住宅街ばかり。そう思っている人が多いかもしれません。でも、目を凝らせば東京都心にも「山」はあります。そんな東京の山の世界を、日本で唯一のプロハイカーである斉藤正史さんが案内します。第30座目は、豊島区の庭園で幻の築山をめぐります。
これまでの記事はこちら
第30座目「旧古河庭園」
今回の登山口(最寄り駅)は、JR駒込駅北口です。駅の脇にはかわいいポストがあります。
実は、駒込駅の北口を出て直ぐの公園は、染井吉野桜記念公園という名前なんです。そこには、記念碑が立っています。そう、ここ駒込はソメイヨシノの発祥の地。江戸末期から明治期に、染井(現在の豊島区駒込)の植木屋が「吉野桜」の名で全国各地に売り出し、のちに「染井吉野」と名付けたといわれているのです。
和洋の趣が一度に味わえる庭園
ソメイヨシノの由来に感心しつつ、今回の目的地である「旧古河庭園」を目指して本郷通りを進んでいきます。すると、「霜降銀座商店街」に差し掛かりました。興味を惹かれるお店がたくさんありましたが、後ろ髪を引かれる思いを振り切り、旧古河庭園へ急ぎます。予想外の面白い登山道に遭遇するのも都心の山登りならでは、ですね。
旧古河庭園は、1919年に古河財閥の古河虎之助男爵の邸宅としてつくられました。洋館と洋風庭園の設計者は、イギリス人のジョサイア・コンドル博士。日本庭園の作庭者は、京都の庭師・七代目植治こと小川治兵衛さん。
大正初期の庭園の原型を今に留める貴重なお庭で、和洋が見事に調和した代表的な庭園といわれています。戦後は国の財産となり、現在は東京都が国より無償で借りて一般に公開しています。
※旧古河庭園の入園料などの詳細は、公式サイトを参照してください。
庭園の中に進むと、すぐに洋館の大谷美術館が目の前に見えてきました。洋館の周りには色々な種類のバラが咲いていました。ラッキーなことに、僕が旧古河庭園に行ったときは、ちょうどバラが見ごろだと看板が出ていました。綺麗な洋風庭園を進んでいくと、一変して日本庭園になっています。
実は、旧古河庭園の地図を見て少し焦りました。地図上に山が無かったからです。この連載で何度も実証されてきた「日本庭園に築山あり」ですが、今回は成立しなかったか…。そう思い、パンフレットを読みながら休憩していると、なんと心字池(しんじいけ)の説明文に「背後に築山があります」と書いてありました。地図で確認すると公園の一番奥、見晴台辺りが築山のようです。良かったぁと安堵し、あらためてゆっくりと庭園を巡りました。
今まで巡った庭園とは違い、和風の庭に洋館のある姿は非常に新鮮でした。しかも、旧古河庭園は築山だけでなく大滝なども配されており、場所によっては深山幽谷に分け入っていくような趣も堪能できます。
旧古河庭園は、JR駒込駅北口から徒歩10数分の場所にありますが、情報量(見どころ)の多い山行です。駆け足で巡るのはもったいないので、半日くらいかけてゆっくり上るのがオススメです。
次回は「西日暮里周辺に点在する山」を予定しています。
なお、今回紹介したルートを登った様子は、動画でご覧いただけます。