BOOK 01
糀のルーツを探して
ローカル発酵食発掘の旅
『アジア発酵紀行』
小倉ヒラク著
文藝春秋
¥1,760
もうすぐ味噌を仕込む大寒が訪れる。年間で最も寒いこの時季が適しているのだとか。味噌、醬油、日本酒、ぬか漬け、日本食には欠かせない発酵食品の数々。だが発酵食は日本独特の食文化ではなく、起源は大陸アジアにあるという。日本ではメジャーな存在の糀(米由来の発酵の素)のルーツを探るべく、著者が目指したのは茶馬古道。
茶馬古道は、中国・四川省から雲南省を経てチベット、ミャンマー、インドに続く千年以上の歴史を持つ交易路だ。旅の始まりチベットの入り口シャングリラ(香格里拉)では高地の洗礼を受け、部族衝突が続き不安定な情勢のインド北東部マニプルにも足を踏み入れて土着の発酵食を掘り起こしていく著者。発酵食の多くは風土に根ざしたいわば「ケ(褻)」の食べ物。レストランの「ハレ」の場所ではありつけないものも。ゆえに発酵食への嗅覚を働かせ、20代のころはバックパッカーだった素養を活かして地道なフィールドワークを展開する。「これは納豆」「まさになれずし」、遠い辺境の地で日本の伝統的な味とのうれしい巡り逢わせに、食文化の背景にある土地の共通点を見出す。「発酵はアナーキー」、その言葉を実感する旅の記録だ。
BOOK 02
生き様と死に様を探す
孤独な山の男の物語
『ともぐい』
河﨑秋子著
新潮社
¥1,925
日露戦争の足音が近づく、明治後期の北海道。人里離れた山奥で一匹の犬を相棒にひとり暮らす熊爪は、自然と共に生きていた。親の顔を知らず、狩猟採集が糧。他人との交流は獲物を売りに里へ下りるときぐらい。あるとき余所から穴持たず(冬眠しないヒグマ)がやってきたことによって、熊爪の人生は大きく動きだしていく。熊との死闘の中で自らの生と死を確かめようとするのだった。第170回直木賞受賞作!
※構成/須藤ナオミ
(BE-PAL 2024年2月号より)