BE-PAL9月号(2017年8月10日発売)の「Craft BEER-PAL」で連載第2回目に登場したのが岩手県一関市にある「世嬉の一酒造」の「いわて蔵ビール」です。本誌では紹介しきれなかった、いわて蔵ビールの魅力をWEBでも紹介していきたいと思います!
訪れた日の外気温は、30度近く。しかし、それが涼しく感じるほどに工場内は暑い! 湿度100%では!? と思うほどじっとりとした空間で「パッションエール」の仕込みが行なわれていました。
「スタッフ5人でビールを作っています。ここで発酵から瓶詰め作業まですべて行なうんですよ」とは、醸造長の後藤孝紀さん。
ビール作りを初めて、14年の後藤さんは「いわて蔵ビール」に入社してビールづくりを学んだそうです。
「秋田の大学から、地元である一関に戻ってきて、なにかおもしろいことやりたいなって。そんなときに、醸造所の募集を見たんですよ。アルコールも好きだし、携わりたいと思って応募しました」
現社長である、佐藤航さん(世嬉の一酒造 四代目蔵元)は後藤さんの1年前に蔵元を継ぎ、茨城の「常陸野ネストビール」で修行。1年後に入社した後藤さんは、社長から醸造を教えてもらいました。
「広島の酒類総合研究所にも勉強をしに行って、こちらに戻ってきてからは山梨の「アウトサイダーブルーイング」を手がけている、丹羽智さんから野生酵母などを教えていただきました」
いわて蔵ビールの特徴は、その独創性にあります。人気商品である「ジャパニーズ スパイスエール山椒」のほか、「牡蠣のスタウト」、干し柿から採取した天然酵母で発酵させた「自然発酵ビール」、季節限定のものには「パンプキンエール」まで! 聞いただけだと、え!? と思ってしまうような驚きの素材が使われているのです。
「どうも『蔵ビールさんなら、作ってくれるよね?』って思われているみたいで(笑)。社長もどんどん新しいビールを作ろうとしている人なんですよね。以前『味噌のヴァイツェンを作ってくれ』と言われて、作ったこともありますよ。ホヤでもビールを作っていますが、それはホヤをパウダーにして使っていて。あとは殻と煮汁も入れます。ホヤと聞くと、ギョッとされるかもしれないけど、生臭いなんてことはなくていいあんばいにコクとなってくれるんです。『やってほしい』と言われたら、とりあえずやってみます。社長も『挑戦しなさい』派なので(笑)。私としては、次は金木犀にチャレンジしてみたいですね」
一関の素材を使うというのも、後藤さんのこだわり。できるだけ、地元産を目指してビールを作っているそう。
「地元の人に喜ばれるお酒をつくるというのも、私たちの願いなんです。地場のものを使って、一関を外に発信していきたいと思っています。例えば、小春二条大麦という品種を作っている農家さんがいて、それをうちでは麦芽にしてもらっているんです。地元の農家さんも年々仕事が少なくなっているそうで、社長が積極的にそういうことに取り組んでいるんですよ。量がそれほど作れるものではないから、すべてに使えるわけではないんですけどね。いまは、旬の時期になったときに「小春ホワイト」というホワイトエールを作っています。他県の方が飲んだときには『一関らしさ』を感じてもらえたらいいですよね」
ビールづくりでいちばん楽しいときは? と伺うと「ビールをつくることが楽しいから、いつでもですね(笑)」という後藤さん。お客さんが飲んで「おいしい」と言ってくれるときが最高の瞬間だとも。
地元愛、そしてビール愛。さらには、お客さんへの愛情もいっぱいに詰め込んだビールは、ほろ苦さの中にほっこりとあたたまる、隠し味が入っているように感じました。
世嬉の一「いわて蔵ビール」
岩手県一関市田村町5-42
0191-21-1144
http://sekinoichi.co.jp/
文=中山夏美 撮影=猪俣慎吾