「アルプスの少女ハイジ」がスイスで実写映画化される!と聞き、いろんな意味で心がザワつくのはきっとアラフォー&アラフィフ世代。1974年に放送されたアニメはあの宮崎駿、高畑勲が制作に参加した伝説の作品で繰り返し再放送され、それを観た人間は自由で陽気で優しい心を持つハイジを愛し、アルプスの山での暮らしに憧れた記憶があるから。でも子ども向けの教育映画っぽくただ生真面目な映画になっていたらイヤだな…、アニメ作品を愛するが故の心配が勝手に頭をもたげる。
映画の舞台も、もちろんアルプスの山。両親と死別して母方の叔母と暮らしていたハイジは、叔母さんの就職を機に山小屋で暮らすおんじの元へ預けられる。頑固で不愛想、でも奥底に優しさを秘めたおんじと打ち解けたハイジはヤギ飼いのペーターという友達もでき、裸足で野山を駆ける日々になじんでいく。ところがある日、お金持ちのお嬢様で足が不自由なクララの遊び相手としてフランクフルトへ連れていかれるハイジ。クララとすぐに仲良くなるも大都会になじめず、山にいたころの輝きを失っていく…。
物語はまさに記憶通り。さらにリアル干し草のベッド! リアルとろ~りチーズ! リアル白パン! とアニメで心を躍らせたあれやこれやが実写で登場。ブルーノ・ガンツ演じるおんじなんてそのまんまじゃん! といちいち心の中でびっくりマークが踊る。もちろんスイスで撮影された大自然の風景はなんとも美しく、その真ん中でヤギや牛と一緒にケラケラ笑いながらゴロリと大の字になるハイジを見て、そこでの暮らしを心から愛する彼女の気持ちに深く感情移入することに。
一方、ハイジってこんな物語だったの⁉ という驚きも。噂で人を判断して真実を見ようとしない村の人から疎まれるおんじを見て、人嫌いになって山奥に一人、自然の中で暮らしたくもなるよなと共感したり。クララの教育係で堅苦しいだけの人に見えたロッテンマイヤーさんは淡い恋心を胸に秘め、プロとして職を全うする職業婦人であったのだなとハッとしたりする。そしてなによりクララのおばあさまがステキなのだ。明るくキュートで、モノのわかった懐の深い女性。ハイジの本質を瞬時に見抜き、その幸せを願って後押しする。「心から楽しいと思うことは、誰がなんと言おうとやらなきゃダメよ!」、そんなセリフが心に残る。黙ってじっと人を見て無意識にその本質を見極めてしまう
ようなおんじと、とても気が合いそうだ。
映画を観る自分が年齢を重ね、大人たちが抱える事情に気づけるようになったせいだけではない。この物語はただの子ども向けではなかった。自分自身がイキイキと、充分に自分でいられる場所は必ずある。それを見つける道は簡単ではないけれど、探す価値はある。そんな普遍的な物語だったのだ。
(作品データ)
『ハイジ アルプスの物語』(キノフィルムズ)
http://heidimovie.jp/
(予告編)
●原作:ヨハンナ・シュピリ「アルプスの少女ハイジ」(講談社青い鳥文庫) ●監督:アラン・グスポーナー ●出演:アヌーク・シュテフェン、ブルーノ・ガンツ、イザベル・オットマンほか
●8月26日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
©2015 Zodiac Pictures Ltd / Claussen+Putz Filmproduktion GmbH / Studiocanal
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文/浅見祥子