14歳のころって、なにを考えていたっけ? 多くの大人は、正直いって忘れている。仕事に家事に育児に親の介護、大人はいろいろと忙しいのだ。日本でいえばちょうど中学2年生。いわゆる思春期まっただなかで、自分は何者か?なんてまだ考えもせず、社会的価値はゼロのくせに口ばかりが達者で、心と体のバランスが悪く、いろんな妄想が暴走して泣きたいくらいにどうにもならない――遠い記憶のなかの自分も、そういえば〝中2病”だった気がする。
ドイツ映画『50年後のボクたちは』はまさにそんな14歳、マイクの物語。母親はペットボトルにウォッカを仕込んでテニスの試合に出るようなアル中で、父親はビッチな若い恋人と不倫中。クラスメイトからは変人扱いされ、高嶺の花のタチアナからはホームパーティにも呼んでもらえないけど、自分から「行っていい?」なんてとても言えないまさにへなちょこ。俺の人生、マジでクソ。
そんなある日、チックという風変わりな転校生がやってくる。ぬぼっと背が高くてチョウ・ユンファに似てなくもない顔つきだが、焼きノリを頭のてっぺんに張りつけたようなヘンテコな髪型をしていて妙な貫禄がある、どこか読めないヤツ。そうして始まった夏休み、両親はそれぞれの理由で不在。永遠に思える時間をどうしよう? そこへチックが、盗んだおんぼろディーゼル車に乗ってやってくる。「ドライブ行こうぜ!」、マイクとチックの行き当たりばったりの旅が始まる……。
車中の会話は全編〝中2”。缶詰は持ってきたけど缶切りはなく、冷凍ピザを持ってきて温め方に頭をひねる。それでトウモロコシ畑に車でつっこんで「グーグルアースなら読める」と名前を書いてみたり、テントなんて用意がないから地面にそのままマットと寝袋をしき、星空を見上げながらくだらない話をして眠る。なんて楽しそうなのだろう? そんな旅では、気合いを入れて誰かと出会おうとしなくても自然な出会いが散りばめられる。犯罪ぎりぎり(アウト?)の悪さをして警官から逃げたり、離れ離れになった二人がまた再会したり、予想もしない小さな大冒険がつぎつぎ降りかかる。孤独な少女との出会いもあって、ここで中2男子のドキドキは最高潮に達する。
旅に出る前に二人が設定した目的地は、ドイツ語で未開の地を表す「ワラキア」。それって結局どこなのだろう? 正直二人はこの旅で、大したことはしていない。でも親や社会を遠く離れ、なんだかんだいって自力で旅を終え、自分の人生を切り開くことの悦びにチラっと触れてしまった。まだまだ本当の目的地は先だし、それがどこかのかはっきり見えない。でも「ワラキア」はあるのだと本能的に
理解した旅。そんなマイクが旅を終え、顔つきがすっかり変わったのは当然のこと。なんてまぶしい旅だろう?
(作品データ)
『50年後のボクたちは』(ビターズ・エンド)
http://www.bitters.co.jp/50nengo/
(予告編)
●監督:ファティ・アキン ●原作:ヴォルフガング・ヘレンドルフ(「14歳、ぼくらの疾走」小峰書店) ●出演:トリスタン・ゲーベル、アナンド・バトビレグ・チョローンバータルほか
●9月16日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか
2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH
文/浅見祥子