ナコの村は、区域的にはキナウル地方に含まれていますが、文化や宗教の面では、キナウルとスピティのちょうど狭間に位置する村と考えてもいいでしょう。村には由緒のある仏教僧院、ナコ・ゴンパがあります。
村の中で出会った小さな男の子。空気が乾燥していて埃っぽいこともあって、このあたりの小さな子供たちの鼻水のたらしっぷりは豪快です(笑)
村はずれの高台の上から見渡した、ナコの村の全景。こんな険しい山の中に、こんなに美しい佇まいの湖と村がある。じんわりと胸に沁み入ってくるような光景でした。
翌日、ナコを発ち、さらに北へ。道路の東側、ほんの数十キロ先には国境があるはずです。至るところにインド軍の駐屯地がありました。
やがて車は、スピティ地方へと入りました。ヒンドゥー教徒の多かったキナウルと違って、ほとんどの住民はチベット系の仏教徒、スピティ人です。途中で街道を少し離れ、ギゥという村に寄り道。この村ではほんの十数年前、風化した古いチョルテン(仏塔)の中から、ミイラ化した僧侶の即身仏が発見されました。12〜13世紀頃の僧侶ではないかと推測されているその即身仏を祀るため、村には新しい寺院が建てられました。即身仏は現在、その境内にある小さな建物内に安置されていて、そう遠くない将来、本堂に移されるそうです。
スピティの東部にあるやや大きな村、タボに到着しました。この村には、996年に創建されたと伝えられる僧院、タボ・ゴンパがあります。外観は写真のように分厚い土壁に覆われていますが、本堂の内部には、32体の仏像と壁面にびっしり描かれた美しい壁画が今も鮮やかに残されています(内部は特別な許可がないかぎり撮影禁止)。スピティに来る旅行者が必ずといっていいほど訪れる名刹です。
タボ・ゴンパの新館の境内で、僧侶たちが二人一組になって問答修行を行っていました。このゴンパに属する僧侶は約50名ほど。彼らが手のひらを打ち鳴らす音が、澄んだ空気の中に響き渡っていました。
◎文/写真=山本高樹 Takaki Yamamoto
著述家・編集者・写真家。インド北部のラダック地方の取材がライフワーク。著書『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々[新装版]』(雷鳥社)ほか多数。
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