キー・ゴンパから北上し、標高4000メートルを越える高原地帯に登ったところに、キッバルという村があります。かつてこの村は、「自動車が通行可能な道路が通じている中で、世界でもっとも高い場所にある村」というキャッチコピーで有名でした。しばらく前から、同じスピティ内でもう少し高い場所にあるコミックという村に道路が通じてしまったため、キッバルはこのキャッチコピーを使えなくなってしまったそうです(笑)。
キッバルから少し西にはチッチムという村があるのですが、両者の間は高低差100メートル以上はありそうな深い断崖に隔てられています。2017年になって、断崖の間にようやくまともな橋がかかり、仕上げの工事が急ピッチで行われていました。
では、橋がかかる以前はどうしていたかというと、片道2時間以上かけて北へ大回りして移動するか、断崖の間にかけられた、写真のような超簡素なロープウェイで行き来していました。何年か前に僕もこのロープウェイに乗ったことがあるのですが……生きた心地がしませんでした(苦笑)。
その断崖を渡った先のチッチムは、小さいながらもとても美しい村です。通り雨が過ぎた後、畑や家々はみずみずしい光に包まれていました。
2頭のゾ(ヤクと牛の混血種)の間に鋤をくくりつけ、畑を耕していく村の男たち。トラクターも何もなかった時代からの伝統的な農法です。
チッチムの民家でホームステイをさせてもらった時に撮った1枚。泊まった家の子供だけでなく、近所の子たちも集まってきて、大撮影大会になったのでした。
◎文/写真=山本高樹 Takaki Yamamoto
著述家・編集者・写真家。インド北部のラダック地方の取材がライフワーク。著書『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々[新装版]』(雷鳥社)ほか多数。
http://ymtk.jp/ladakh/