スピティから西、ヒマーチャル・プラデーシュ州のマナリという街の方面に向かうと、途中で標高4500メートルに達する峠、クンザム・ラを越えます。その峠から北に約20キロほどの場所に、「月の湖」という意味の名を持つチャンドラタールという湖があります。今回、その湖まで泊まりがけで行ってみることにしました。
チャンドラタールでは、湖畔付近への車での進入や幕営は最近は禁止されていて、泊まりがけで湖を訪れる人々は、数キロ手前にあるキャンプ村に宿泊します。
キャンプ村からトレイルを歩いて、いざ、チャンドラタールに行こうとしたのですが……この日は日没間近だったこともあり、あまりゆっくりと湖のほとりで過ごすことができませんでした。
これはチャンドラタールではなく、その手前にあるごく小さな湖です。日が暮れる直前、西からの光をほのかに反射していました。思いがけない、美しい一瞬でした。
翌朝、早起きして訪れた、チャンドラタール。チャンドラタール(月の湖)というのはヒンディー語の名称で、地元のスピティ語(チベット語の方言の一種)では何と呼ばれているのか地元の人に聞くと、「パルデン・ラモ・ツォ」。パルデン・ラモというのはチベット仏教ではよく知られた忿怒の姿をした女性の護法尊。標高4200メートルに達する険しい山の中で、神秘的な色の湖水を湛えたその姿を目にすると、納得のいく名前でした。
◎文/写真=山本高樹 Takaki Yamamoto
著述家・編集者・写真家。インド北部のラダック地方の取材がライフワーク。著書『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々[新装版]』(雷鳥社)ほか多数。
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