降雪に対する相変わらずの脆弱さを露呈しましたが、そんな緊急時に、お役立ちツールとして注目されたのが「布製滑り止め」。雪道で立ち往生するクルマの駆動輪にJAFの隊員が手早く装着していく様子は、布製滑り止めに抱いていた「本当に使えるの?」という疑問への、ひとつの答えになったかもしれません。
そこで今回は、雪道で実際に試した自動車ライターの佐藤篤司が、その使い心地をレポートします。
手軽に装着できることから人気上昇中
降雪時の滑り止めと言えば金属や非金属(ゴム、プラスチック)のタイヤチェーンを思い浮かべます。ところが最近注目されているのが、被せるだけの“手軽な装着性”と場所を取らない“収納性の良さ”、そして“滑らかな乗り心地”が売りの「布製滑り止め」です。先駆けとなったのは、2000年にヨーロッパで発売が始まったノルウェー製の「AutoSock(以下、オートソック)」です。日本でも一部の輸入車オーナーを中心に使用する人たちが増えました。
その後、2018年には国土交通省によって、「布製滑り止め」が金属&非金属製チェーン同様に、チェーン規制時の装着が認められたのです。性能について一種のお墨付きを得たわけですが、そんな流れに合わせて日本へと上陸してきたのが、スペイン製の「ISSEスノーソックス(以下、イッセ・スノーソックス)」です。これにより、布製滑り止めの認知度はさらに上がりました。
慣れればものの3分で装着完了!
チェーン規制に対応可能という評価を得て以降も、「本当に使えるの?」という疑問を抱く人は多いと思います。雪面や凍結路面に、突起物が直接食い込んでトラクション(駆動力)を発揮する金属&非金属製チェーンは、構造的にも効力を理解しやすい存在です。
一方で、「特殊繊維で編み上げられた布が雪面にしっかりと密着してタイヤのグリップ力を高める」と、布製滑り止めを説明されても、すんなりと信じられないのは当然かもしれません。そこでこの冬、実際に「イッセ・スノーソックス」を試したインプレッションをレポートしたいと思います。
※今回のテスト車両には「日産・ノートオーラe-power 4WD」を使用。
【装着の手順】
コンパクトで携帯性のいいソフトケースの中には、長さ1メートル弱、幅30センチほどの、少し厚手の布が2枚入っています。これまでのタイヤチェーンに比べればずいぶんとコンパクトで扱いも楽。さっそく左右の駆動タイヤの上半分に被せていきますが、ゴツゴツした感触もないため、作業は楽です。
左右のタイヤに同じように被せたところで、クルマを前進かあるいは後退させて、タイヤを180度回転させます。これでまだスノーソックスが被っていない面が上にくるので、同じようにタイヤに被せれば装着完了です。多少ずれていても走行することで正しい位置にセットされるので、心配は要りません。装着までには多少のコツが必要とはいえ、慣れれば「約3分」というメーカーの説明に近い装着時間も可能です。
いざというときに備え、試し装着をしておこう
とはいえ、初めて収納袋から取り出して説明書を読みながら装着すると、寒さに震えながらコツを掴んだり、やり直しに悪戦苦闘し、それなりに時間がかかると思います。そんなストレスを回避するためにも、購入したらドライ路面での試し装着をぜひおすすめします。
さらに装着時は、汚れたフェンダー内に手を差し込んだり、タイヤのトレッド面に触れることになります。スノーソックスには小さな手袋が同封されていますが、これでは不十分。できればキッチン手袋のような少し長め、あるいは肘まであるような作業用軍手と、さらに汚れてもいいアウターやひざを雪面に着くときに役立つビニールシートなどを用意しておくと、作業は楽になります。
装着時の推奨速度は40km/h
装着が完了したら100mほど走行したところで一旦クルマを止めて、正しく装着されているか確認します。装着後の走行感覚は実にスムーズで、金属やプラスチックチェーンのような騒音やガタガタとした振動とも無縁です。ここで守るべきことは、注意書きにもあるように40km/h以下での使用を心がけること。布製滑り止めチェーン本来の性能を発揮し、摩耗を極力防ぐためにも、この制限速度は守りましょう。
推奨速度を守れば耐久性も高まる
肝心のグリップ力ですが、圧雪路での発進、加速、ブレーキング、そしてコーナリングでは不安を感じることなく走ることができました。ただし、圧雪路になる前のアスファルト路面とシャーベット路面が混在するような状況では、試しに推奨速度を超えて走行すると少し滑るような感覚があり、不安を感じました。これは金属製&非金属チェーンでも感じる感覚なのですが、本来の性能を発揮するためには、しつこいですが推奨速度の厳守が必要です。降雪時には自然と交通量全体の速度が落ちるので、40km/h以下でも流れに乗れるはずです。仮に後ろからスタッドレスタイヤを装着した車両などが迫ってきたら、道を譲るぐらいのゆとりがほしいところです。
制限速度以内であれば雪道や凍結路でも安心感はかなり高いと思います。カーブで外側に膨らんでいくような動き(アンダーステア)もありません(ただし駆動方式によって挙動の特性は異なる)。上り坂もよほどの急坂路でない限り、タイヤの空転は少しありますが確実にグリップしていきます。もっとも注意が必要な下り坂のブレーキングでは、ABS(アンチロック・ブレーキシステム)は時折作動しますが、グリップを得ながら下ることができました。
1シーズンで使い切るつもりで
今回は圧雪路や凍結路を中心に片道10kmほどの走行を行いました。途中、アスファルトだけの路面もありましたが、その距離は2~3キロほど。走行後に破れなどがないか確認しましたが、毛羽立ちや布目のよれはあるものの穴の空いた箇所はありませんでした。
なお、布チェーンはアスファルトで使用するほど寿命が短くなる弱点があります。砂利道や路面が荒れた状態での走行を行えば、さらに短命となります。一方で、メーカーがスペインで行ったドライ路面でのテストによれば、40km/hで約80km走行した後でも使用不可能になるような破れはないという結果が出ています。路面に雪が積もる前や滑り出す前に装着することで安心感は高まるので、早めの装着を心がけましょう。使い方にもよりますが、「ひと冬に1セット」と考えてもいいかもしれません。
アウトドアでは春になっても備えは必要
今回テストしたイッセ・スノーソックスの価格は、標準モデルが1万3,530円から、テストに使用した「スーパー」は1万9800円から、そしてトラックなどの大型車両向けが3万5,574円からとなっています。亀甲形の金属製チェーンが3,000円ほどから用意されていることを考えると、少し高価だと思います。しかし、ひと冬に2~3回利用する場合、携帯性の良さ、簡単な装着という作業性の良さ、そして静かな乗り心地など、多くの利点を考慮すれば、その価格差は数字ほど大きくはないと思います。
首都圏の交通網がマヒした2月の降雪以降も、各地で雪による交通障害のニュースは毎週のように流れてきます。箱根や富士五湖周辺など標高の高いリゾート、さらには日本海側や東北方面だけでなく、首都圏の山間部でもまだまだ油断できない日々が続きます。アウトドアフィールドでの降雪という緊急時に備え、小さな布製滑り止めをラゲッジに準備しておきましょう。