道端&林床のスプリングエフェメラル、樹上を賑わす重要文化財のサクラ…楽しみがいっぱい
案内人:写真家 柳澤牧嘉さん(下の写真左)
大のキノコ好きで著書に『新訂日本のキノコ 275』(文一総合出版)。植物にも造詣が深い。
道連れ:小池耕太郎さん& 糸ちゃん(下の写真右、中央)
林業家でブッシュクラフトスクールも開講。常に山にいることが多いが、娘との植物観察は初。
柳澤さんの観察道具
カメラはバリアングルモニターつき一眼レフ。光を起こすレフ板や白い傘も撮影に不可欠。キノコを掃除するカッターや自作のミニハケ、下草を切るハサミも必需品。指示棒は秘密兵器のクモの巣払い。
小池父娘のハイキングギア
お弁当、水筒&カップのほか、濡れたときのための着替えや雨具も持参。ミニハイクとはいえ、常備薬などのファーストエイドにおやつになる携行食、マルチツールと、お父さん抜かりなし!
ROUTE
風穴のある氷集落を出発し、なだらかな林道を歩く。布引観音・釈尊寺の道標を右折。片道約2㎞。
ACCESS
JR小海線もしくはしなの鉄道小諸駅下車。タクシーで約10分(¥1,800程度)。徒歩約1時間。車の場合、小諸ICより約10分。
春のお花、見つけたい!
「僕が春一番に花見を楽しむのは、カタクリやアズマイチゲ、ニリンソウ、ヒトリシズカなどのいわゆるスプリングエフェメラル。林床にひっそり咲いている姿を見つけると、いよいよ春が来たな、って思います」
と話すのは、写真家でありキノコ採り名人の柳澤牧嘉さん。春はお目当てのキノコが生えていないので、野草観察を楽しんでいるのだとか。今回はそんなスプリングエフェメラルを観察できる、標高700mの浅間・八ヶ岳パノラマトレイルを案内してもらった。一緒に春一番探しの旅に出かけるのは、同じ長野県内在住の小池耕太郎さんと、4歳半の娘、糸ちゃん。普段は樹木のツリーケアや間伐材のリユースなどを仕事にしており、森歩きには慣れているが……。
「スプリングエフェメラルってどんな花のことですか?」
「まだ競争相手が少ない春先のうちに地表に現われて花を咲かせて、ほかの植物に隠れてしまうころには茎葉など地上部を枯らし、地下で球根や地下茎の姿で休んでいる植物なんです」
「春のお花、見つけたい!」
糸ちゃんが道端にしゃがみ込む。まだ落ち葉が積もった地面を覗き込むと、小さな緑の葉があちらこちらにのぞいている。
「普段は木ばかり見上げてるから、見過ごしちゃいますね」
「そう。僕も車だと一瞬で通り過ぎちゃうんだけど、歩いてみると、林縁の傾斜地とか側溝の脇とかに結構咲いているんです。群生地を見つけたときの感動は、言葉もないですよ」
その年によって、見つけられる時期がずれることもある。
「寒い冬がずっと続いて急に暖かくなると一挙に咲くし、ゆっくり暖かくなると花も徐々に咲いていく。それを探しながら歩くのが楽しいんです」
同じ場所でも毎年のように新たな花を見つけるので、春一番探しがすっかり恒例になった。
「ご近所の畦道や裏山でも、一週間おきに歩いてみるといい。春は日を追うごとに変化するので、いろんな発見があります。スプリングエフェメラル以外にもスミレ類やイカリソウ、樹上にもキブシ、コブシ、ヤマザクラといろいろ楽しめますよ」
START!
森の小径で春の野草探しに出発!
浅間・八ヶ岳パノラマトレイルは全部で4コース。今回は山野草が多く見られる浅間・森林コースの一部を闊歩。なだらかな道が続く。
見るだけではなく探すことで子供の興味は広がる!
そこで見られる花の写真を見て解説し、実際に探してみる。糸ちゃんが見つけたのは立ち枯れたヨモギの葉と、スミレのロゼット。
見どころポイント1
春の訪れを告げるニリンソウ
春山を代表する花のひとつ。沢沿いや湿った林床に群落を作って生えるので見つけやすい。キバナノアマナ、アズマイチゲなども見られる。
見どころポイント2
希少な紫の姿が美しいカタクリ
コース脇の傾斜地の山林全域に群生しているカタクリ。花が咲くのに7年以上かかり、寒い地方でしか見られないので感激ひとしお。
道中、地図と道標を見比べて、枝道にそれないよう注意。子供にも持たせ責任感を養う。
お腹空きすぎた!
お昼ご飯は、お寺の境内でお母さんの手作り弁当をいただきます。小池家では午前中に出発してお弁当がゴールというパターンが多い。
見どころポイント3
重要文化財とコラボする樹齢100年以上のシダレザクラ
断崖に立つ観音堂の岩屋の中にある宮殿が重要文化財になっている。本堂前にそびえ立つシダレザクラやソメイヨシノは圧巻。浅間連峰も望める。
FINISH!
観音堂の対岸の崖にもサクラが咲き誇る。見ごろは、例年4月中旬〜下旬。千曲川のほとりから参道を上ってくることもできる。
見つかったのはこんな花!
ルイヨウボタン
黄緑色の花が珍しい。ボタンの葉に似ていることからついた名。花期4〜6月。メギ科。
タチツボスミレ
日本に60種ほどあるスミレ科の中で、全国でもっとも身近に見られる。花期3〜6月。
コブシ
種まきや田植えを知らせる花として、田打桜、種蒔桜と呼ばれる。花期4月。モクレン科。
イカリソウ
落葉樹の下など半日陰で育つ。花形がイカリのようで特徴的。白もある。花期4〜5月。メギ科。
アズマイチゲ
スプリングエフェメラルの代表格。葉が垂れるのが特徴。花期3〜5月。キンポウゲ科。
キブシ
早春、ほかの花木に先立って咲く、黄色いブドウのような花。花期3〜4月。キブシ科。
※構成/大石裕美 撮影/小倉雄一郎、柳澤牧嘉(花の写真)
(BE-PAL 2024年4月号より)