CINEMA 01
ヴェネツィア国際映画祭 銀獅子賞受賞の注目株!
『悪は存在しない』
(配給:Incline)
●監督・脚本/濱口竜介
●出演/大美賀均、西川 玲、小坂竜士、渋谷采郁ほか
●4/26~Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開
見上げる空をデザインするような木々の枝。移動するカメラがえんえん映し出す複雑な曲線に導かれ、長野県水挽町の森へ。薪を割り、川に水を汲みにいき、幼い娘に鹿の水場を教える。そんな暮らしをする父娘だったが、村に突然グランピング場建設の話が。しかも森の環境や水源を汚しかねない計画だった……。
『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー賞国際長編映画賞を受賞した監督が、音楽家の石橋英子からのオファーを受けて生まれた本作。元スタッフを主役に据えて説明的なセリフを排除、音楽と映像の心地よい化学反応と、静かで洗練された語り口で観る者を映画に引き込む。森の美しさ、それを求めて移住した人びとの戸惑い、門外漢ながらグランピング場建設に携わる側の事情。簡単に善悪と分けられないごく普通の人びとそれぞれの状況を記録。観る側も日常の延長上のようにのめり込むうち、恐るべき結末へ導かれる。そのすべてが、圧倒的に映画的。
CINEMA 02
変わらない山里に暮らす、ある家族の変化の予感
『霧の淵』
(配給:ナカチカピクチャーズ)
●監督・脚本/村瀬大智
●出演/三宅朱莉、三浦誠己、堀田眞三、杉原亜実、中山慎悟、宮本伊織、大友至恩、水川あさみほか
●ユーロスペースにて先行上映中、4/19~ TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
奈良県南東部、かつては登山客でにぎわった山間の集落で代々旅館を営む家に生まれた12歳のイヒカ。父とは離れて暮らし、母の咲が、義理の父シゲと旅館を切り盛りしていた。ある日、シゲが姿を消す──。
監督は、初作が2019年カンヌ国際映画祭ショートフィルムコーナーで上映された新人で、本作で商業映画デビュー。自ら奈良県川上村に腰を据え、地元の人びとと交流しながら紡いだ家族のドラマ。深い山にかかる霧、ガラス戸が風に震える美しい日本家屋、竈で炊くご飯。人と人とのつながりの気配に、ラジカセから流れる懐かしい音楽が彩りを添える。歩みを止めた山里の静かで豊潤な時間に身をゆだねる贅沢な体験。
※構成/浅見祥子
(BE-PAL 2024年5月号より)