万が一の際にアウトドア体験が必ず役に立つ!
災害時の生き残りの鍵は“自助”と“共助”。日頃の備えと近隣との関係性が役に立つ。
「’11年の東日本大震災のときは、宮城県・仙台市の精肉所で働いていました。この揺れヤバイ、と思ってとにかく家に帰りましたが、停電していて、翌朝の河北新報で津波災害を知りました」
と話すのは、エンスタイルの川村峻介さん。普段は挨拶するだけの間柄だったマンションの住人が集まり、ひとつの部屋に毛布と灯油を持ち寄り、1か月共同生活をしていたそうだ。
「被災して、まず必要性を感じたのがラジオ。停電で携帯もテレビも使えなくなり、情報を得る手段がそれしかなかった。次に明かり。停電中の夜は、避難所のトイレに行くことすら困難になります。両手があくヘッドランプや、充電不要のLEDランタンが役立つと思います」
ほかにも、冷えを防げる防水靴下やスリーピングマット、雨を防ぐポンチョなどもあるといい。
「アウトドアギアが防災に役立つことをつくづく実感しました」
アウトドア防災ガイドの、あんどうりすさんも話す。
「アウトドア体験は、とっさにどこに逃げたらいいか判断できる力や、臨機応変な行動、その場にあるもので工夫できる知恵を培ってくれるんです」
そんなアウトドアのプロたちの知恵をご紹介しよう。
DIY術
アウトドアプロデューサー 長谷部雅一さん
アウトドア、環境教育に関するイベントを企画、実施する会社、ビーコン代表。応急救護の講演なども行なっている。廃材DIYが得意。
廃材を使ったリメイク術。明かり、コンロ、トイレはこれでOK!
断水して明かりもない、という状況下で、必要不可欠な3点を廃材で手作り。身近にある材料が、アイデア次第で生まれ変わる。
サラダ油を使った空き缶ランプ
材料
アルミの空き缶…1個
キッチンペーパー…1枚
アルミホイル…5㎝
サラダ油…適量
1)点線部を、缶の半分くらいまでカットする。下側の両端はⅤ字に切り込む。
2)カット部を開き、プルタブを上げる。プルタブは針金をつけると吊るせる。
3)キッチンペーパーを12㎝くらいで切り、細くきつく巻く。ヒモ状にしたホイルを捻って巻きつける。
4)③を空き缶に入れ、ホイルをV字に引っかける。余ったキッチンペーパーはトグロを巻くように缶に入れる。
5)できた!
キャンプ用BOXトイレ
材料
キャンプ用BOX…1個
木の枝or板など…60~70㎝×2本
ロープ…1.5mほど
タオル…2枚
ガムテープ
ゴミ袋
1)木の枝(もしくは板など)を60㎝らいに切り、V字になるように交差させロープで結ぶ。
2)①にタオル(不要な衣料でもOK)を巻きつける。巻きはじめと終わりはテープで留める。
3)BOXの蓋をはずし、ゴミ袋を本体にセットして、②を上に配置すれば完成。
4)完成
座って排泄したら、土などを多めにかぶせる。使わないときは蓋をしておく。袋が一杯になったら取り替える。
缶詰めコンロ
材料
缶詰めの空き缶…1個
*高さ7〜10㎝ぐらいで蓋が取れるものがいい
1)缶詰めの底部に<型の印をつける。一周ぐるりと、間隔は適当でOK。
2)缶切りやナイフなどで印に沿って切り目を入れる。手を切らないよう注意。
3)切った部分を内側に倒せば完成。これに固形燃料や小枝を入れて使う。
4)空き缶の鍋をのせるときは、コンロの口から少しずらし、空気の逃げ道を作る。
ギア活用術
ENstyle店主 川村峻介さん
’11年の被災経験を糧に、’15年に宮城県仙台市にアウトドアショップをオープン。"NO DOOR"をコンセプトにこだわりのギアを販売。
キャンプ道具を厳選。防災に役立つ神ギアはこれ!
被災経験から、アウトドアギアが本当に災害に役立つことを実感。数多いギアの中でも、とくに用意しておくといいものを紹介する。
手回し充電ができるラジオは、情報を得るのに必須。電池切れの心配もなく、ライト兼用。スマホの充電も可能。
防水ソックスは、急な雨によって足元を濡らすことなくはけ、足元の冷えによる体力の低下を防げる。
日中、ソーラーパネルで充電できるLEDライト。たたむと厚さ1.5㎝になり、どこにでも携行できる。
料理術
防災クッキングアドバイザー 鈴木佳世子さん
野菜ソムリエの資格を持つ料理研究家で、ダッチオーブン料理を得意とする。熊本地震の際は、現地で被災者に調理指導を行なった。
ポリ袋式調理術&防災フードを美味しくいただきます!
少ない資源で調理でき、洗い物も極力出さない防災クッキングを伝授。アルファ化米や冷凍技は、キャンプでも活用できるので、楽しみながら試してみるといい。身近にあるものを工夫して作ろう。
鶏胸肉の甘辛しょう油漬け
材料
鶏胸肉…1枚
A
しょう油…大さじ2
砂糖…大さじ1
みりん…大さじ2
酒…大さじ1
ニンニク(チューブ)…3㎝
*湯煎ができるポリ袋…1枚
1)鶏胸肉は皮を取り除き、フォークで数か所穴をあけ、ポリ袋に入れる。Aを入れてよくもみ込み、ポリ袋の空気を抜き、口を縛り冷凍する。
2)鍋に湯を沸かし、沸騰したら冷凍肉をポリ袋のまま入れる。再沸騰したら中火で約7分加熱し、火を止めて蓋をし、完全に冷めるまでおく。
3)ポリ袋から取り出し、スライスして器に盛り、袋の中のタレをかけていただきます!
アルファ化米のドライカレー
材料
アルファ化米…1個
タマネギ…30g
ニンジン…10g
ウインナー…2本
A
カレー粉…大さじ1/2
中濃ソース…小さじ1
塩…小さじ1/4
コショウ…少々
オリーブ
オイル…大さじ1/2
水…150cc
パセリ(乾燥でもOK)…少々
1)タマネギとニンジンはみじん切り、ウインナーは輪切りにする。
2)アルファ化米を開封し、脱酸素剤とスプーンを取り出し注水線まで水を入れる。
3)メスティンを加熱しオリーブオイルを入れ、具材を軽く炒める。アルファ化米を水ごと入れ、さらにAを加えて混ぜ、蓋をして弱火で約5分加熱すれば完成。
山のスキルが役に立つ!
『登山式DE防災習慣』著者 鈴木みきさん
イラストレーターであり、防災士。著書にイラストでわかりやすい『キャンプ気分ではじめる おうち防災チャレンジBOOK』もある。
登山経験が避難生活の役に立ったと実感したのは、北海道胆振東部地震で全道ブラックアウトとなり、自宅で約3日間の停電と断水になったとき。登山道具が役に立つのは想像に易いと思いますが、市内のアウトドアをしない友人たちと連絡をとっているなかで、自分が被災している状況に抵抗がないことが多いと気づきました。
真っ暗な部屋、冷蔵されていない食料、不安定なスマホの電波、流れないトイレ……。「山だと思えば……」と考えられる私と違って、友人たちはかけ離れた日常だとうろたえて絶望していました。私が「水がないから川で汲んできた」と伝えたときのみんなの驚きぶりといったら……。防災食だって、実は結構美味しいから進んで備蓄。とは言え、それを真似した人はいなかったですけどね。
子育てスキルを活用しよう!
アウトドア防災ガイド あんどうりすさん
阪神・淡路大震災被災体験とアウトドアの知識を生かし、’03年より全国で講演活動を展開。乳幼児の親向け講座や企業研修も行なう。
最近は、防災専門グッズがアウトドア寄りになってきていて、アウトドアグッズの重要性が浸透してきています。とはいえ、なかなかアウトドアグッズには追いつけません。たとえば、ナノタオル。ハンドタオルサイズで水1ℓ分の吸水力があり、浴用タオルや急な雨対策とさまざまな用途に使えます。ヘッドライトは両手が使えるし、耳掃除や影絵遊びにも大活躍。座布団は赤ちゃんのおむつ替えシートに活用したり、避難所の床の冷気対策にも。
防水バッグは使用済みのおむつを入れたり水着入れに。レインウェアは、大人用と子供用をファスナーで連結すれば赤ちゃんを抱っこしながら雨を防げます。ライフジャケットの使い方も普段から学んでおきましょう。
ナノタオル
ヘッドライト
アウトドア座布団
防水バッグ
ライフジャケット
レインウェア
※構成/大石裕美 撮影/川村峻介(ギア活用術)、鈴木佳世子(料理術)、安藤 眞(子育てスキル)
イラスト/長谷部雅一(DIY術)、鈴木みき(山のスキル)
(BE-PAL 2024年5月号より)