創業30年!観光地×醸造所ビジネスモデルを確立した「御殿場高原ビール」はなぜコシヒカリラガーにこだわるのか
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    2024.04.25

    創業30年!観光地×醸造所ビジネスモデルを確立した「御殿場高原ビール」はなぜコシヒカリラガーにこだわるのか

    御殿場高原ビールの定番。左から「御殿場コシヒカリラガー」「ヴァイツェン」、「ピルス」「ヴァイツェンボック」「シュバルツ」。

    1995年に醸造を開始した御殿場高原ビール。静岡県御殿場市を中心にリゾート施設を展開する時之栖(ときのすみか)とともに歩み、地ビール時代から30年。御殿場観光になくてはならないブランドになっている。

    食肉加工会社の社員に夢を持ってもらうために

    1994年、御殿場高原ビールを立ち上げたのは、食肉加工会社「米久」の庄司清和社長(故人)だ。1994年の地ビール解禁にいち早く手を挙げた。静岡県の地ビール第一号だ。現在の会社名はGKB株式会社。1998年から御殿場高原ビールを造ってきた醸造家の門倉栄さんに話を聞いた。

    GKBの醸造長、門倉栄さん(右)。ビールに携わって四半世紀、現在はワイナリーでワインづくりも。

    ハム・ソーセージとビールの相性についてはワインとチーズ、ウイスキーとナッツの如く。庄司社長は、食肉加工の本場ヨーロッパを行き来するうちに、ビール醸造への夢を膨ませていったようだ、と門倉さんは振り返る。

    同時に、庄司社長はリゾート観光業「時之栖」(ときのすみか)を立ち上げた。米久は食肉加工業であり、リゾート開発やホテル経営などは畑違いである。それでもリゾート・観光業に踏み出した理由は「社員に加工以外の仕事を。夢を持ってもらいたい」からだったという。社員の夢も膨らませた。

    リゾートとブルワリーの組み合わせは、地ビール時代には珍しくはない。地域活性が重要な役どころの地ビール製造は併設のビアレストランとお土産ショップが主な販路だった。それが30年、続いているブルワリーはわずかだ。現在、国内に700とも800ともいわれるマイクロブルワリーがひしめくが、GKBは歴史の長さだけでなく、醸造量もトップクラスだ。

    なぜGKBは存続できたのか。高い技術が確立できたことはもちろんだが、それだけではなさそうだ。

    現在、本拠地の御殿場にビールブルワリーとワイナリー。東伊豆町にみかんワイナリー、富士市のエスプラットフジスパークにウイスキー蒸留所とワイナリー、浜松市のはままつフルーツパーク時之栖にワイナリーと、4か所の観光スポットそれぞれに、合計6つの酒の工場を持つ。

    時之栖についての説明も必要だろう。御殿場高原ビールのビアレストランやバーベキューレストランを拠点として、ホテルやコテージ、グランピングも含む宿泊施設、サッカー、フットサル、テニスなどなどのスポーツ施設、温泉、そしてチーズやチョコレートの工房などを併せ持つリゾート・観光施設を運営する。

    大手のビール会社を除けば、これだけあちこちの施設でブルワリー&ワイナリー&蒸留所を運営しているクラフトビール会社はないのではないか。

    「醸造所と観光地の組み合わせは相性がいいんですよ」と門倉さんは説明する。

    たしかに観光地には地酒と呼ばれる日本酒や焼酎、ビール、ワインと、何かしらの酒がある。観光と酒はセットだ。リゾートとなればなおさらだろう。

    加えて「時之栖には商品のパッケージ技術があるので、地場産のものをその場でパッケージして販売することができます。製造から販売まで一貫してできる点がアドバンテージになります」と語る。

    ハムやソーセージにしても、チーズにしても、地元産のものが目の前でパッケージされるのを見ると、つい買いたくなる……のが観光地の楽しいところ。とはいえ、基本的に、ビールはおいしくなければ、どんなに優れたマーケティングをしても売れない。ビールの流行廃りを見てきた門倉さんは、もちろんそれを知っている。

    うまさの理由「サークスホース」でタンクから直!

    門倉さんにひとつ御殿場高原ビールならではのうまさの理由を教えてもらった。GKBの中核施設、地ビールレストラン「グランテーブル」で提供されるビールについでである。

    GKBの拠点、ビアレストラン「グランテーブル」。ズラッと並んだ長テーブルがドイツのビアホールを思わせる。

    ビール工場やブルーバーで飲むビールはうまい。貯蔵タンクから直送となれば、なおさらにうまい!

    一般的に、ブルーバーやタップルームのビールは、貯蔵タンクからケグと呼ばれる樽に詰められる。樽のサイズは大小あるが20リットル、30リットルのものが多い。グラスに注がれ、私たちがおいしくいただくビールは、この樽からサーバーを通ってくるビールである。

    一方、グランテーブルでは、貯蔵タンクとサーバーを直接タップにつなぐ「サークルホース」というシステムを採用。その名の通り、環状のホースでブルワリーの1000リットル級の貯蔵タンクとレストランのサーバーがつながれている。

    「ビールは移動するほど傷むので、なるべく移動させたくないのです。仕込み、発酵、濾過、パッケージとビール製造には大まかに4工程ありますが、グランテーブルはパッケージの工程がないので3工程で済みます。1つでも減らすことでビールはうまくなります」と門倉さんは話す。

    パッケージというのは樽詰めや缶詰、瓶詰めこと。タンクから樽や缶に詰め替えるだけ、と思われるかもしれない。しかしビールにとって、それが “移動”であることに変わりはない。移動回数を1つ減らすことで、最終的にグラスに注がれたビールの味が変わる。なんと繊細な飲み物だろうか。

    タンクから直にグラスに注ぐ方法は、ビールがおいしくなるだけでなく、樽に詰め替える手間も樽を置くスペースも省くことができて実に合理的だ。しかし他のブルワリーでサークルホースを採用しているという話は聞かない。

    なぜだろう? 門倉さんに教えてもらったところ、「消費量の規模の問題」がある。1000リットル規模のビールが1日で飲み干される、そうした消費量がなければ、サークルホースでタンクとサーバーをつなぐ意味はない。むしろ樽をつないだほうが合理的である。というわけで、GKBにしても、サークルホースを採用している のはメインのレストラン「グランテーブル」のみである。しかし、ここで飲んだビールのうまさが忘れられないというコアなファンが、御殿場高原ビールにはついている。

     「御殿場コシヒカリ」とめざせWinWin

    御殿場の名産品ブランドになっている御殿場高原ビール。地域とともに成長していきたいと、以前から地場産の農産物を取り入れたビールを造ってきた。

    特に力を入れて継続しているひとつに「御殿場コシヒカリラガー」がある。御殿場産のコシヒカリである。1973年(昭和48年)から栽培され、2021年には「お米日本一コンテストinしずおか」で1位に選ばれるまでに成長した。GKBは毎年、御殿場コシヒカリの中でも食味の高い上位20%を買い入れて、「御殿場コシヒカリラガー」を生産している。

    全国的では知名度がさほど高くない「御殿場コシヒカリ」が、ビールの名に冠されることによる影響は大きい。また、GKBとしても、「御殿場コシヒカリのブランド力が上がれば、うちのビールの認知度も伸びます」(門倉さん)

    御殿場高原ビールと御殿場コシヒカリ。市を代表する2つのブランドがタッグを組んで、人気アップの相乗効果を見込む。地域活性につながるのは間違いない。

    地域の社会課題解決に向き合うブルワリーに

    GKB2017年にワイナリーを立ち上げた。御殿場高原ワイン(GKワイン)である。門倉さんはその代表を務める。

    ビール屋さんがなぜワインを? 

    発案者はやはりGKB創業の先代の庄司清和氏であった。

    「ぶどう畑からつくりなさいと言われました。それも耕作放棄地でつくりなさいと。はじめは耕作放棄地って何? というところから始まりました」 

    ブルワリーで20年、ビールを造ってきた門倉さんにとって、耕作放棄地はそれこそ畑違い。行政の農地担当に何度も相談に行ったと言う。全国的に問題となっている耕作放棄地は御殿場市内にたくさんあり、社会課題となっていた。

    「ワイナリーをつくれという先代の指示は、社会課題解決のためだったのかと。後になってわかりました」

    時之栖の近くにあった休耕田を手に入れた。荒れた土地を天地返し、土壌改良し、ぶどうの樹を植えた。日当たりのいい傾斜地であったことから、ヨーロッパ式の垣根仕立てを採用した。

    ヨーロッパ型の垣根仕立てのぶどう畑。収穫5年目の昨年(2023年)は10トンほどのシャルドネ種が収穫された。

     ぶどう畑は自社で始めたが、ビールの主原料である大麦やホップの栽培の計画も進めている。御殿場高原ビールの創業30年目を迎える今年は、地元の生産者が生産するミカモゴールデンという種の大麦を100%使ったビールを醸造する予定だ。

    実際のところ、日本で地場産の大麦を使うのはハードルが高い。海外産、特にヨーロッパ産と比べて桁違いの価格差に加え、品質の差もあると門倉さんは明かす。歴史の違い、蓄積されたノウハウにはまだ差があるようだ。

    それでもGKBは今年、地元産大麦を“一部使用”ではなく、100%使用して造る。GKBの年間のビール醸造量は約4000キロリットルと、クラフトビールメーカーといっても規模が大きい。そのため地元産の原料を使用したビールは限定醸造にならざるを得ない。

    ホップのテスト栽培も始めている。ここ数年、地域の生産者とホップ栽培を始めるブルワリーが増えている。

    ホップのテスト栽培が始まっている。

    「なるべく地元と連携した商品づくりをしていきたい。ウチは醸造量が大きいため、本気で使うとなると、かなり大規模な畑が必要になります。そのインパクトと農業に与えるストレスのバランスを見きわめていく必要があります」

    GKワインでは東伊豆産のニューサマーオレンジや三ヶ日(浜松市)の三ヶ日みかんを使ったワインを生産している。

    「農業と醸造はもともと隣にあるものなんですよ」と門倉さん。これからも地元の生産者、農産物とできるものを探していきたいと語る。

    また、コンビニと提携して、近隣のパン工場から廃棄されるパンの耳を、ビール原料にアップサイクルする取り組みも始まっている。

    ブルワリーは観光スポットと相性がいい。そして本来、酒造りは農業の延長線にある。GKBのような成熟したクラフトビールブルワリーが地域の社会課題とどのように関わっていくのか。クラフトビールファンも注目である。 

    GKB(御殿場高原ビール) 静岡県御殿場市神山719
    https://www.gkb.co.jp/index

    私が書きました!
    ライター
    佐藤恵菜

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