春のダイヤモンドを見つけてみよう
はじめに春の星座を探してみましょう。
しし座、うしかい座、おとめ座が有名です。しし座の尻尾にある2等星デネボラと、うしかい座の1等星アルクトゥールス、おとめ座の1等星スピカの3つを結ぶと春の大三角になります。
うしかい座のアルクトゥールスから北の方、天頂の方へ目をやると、りょうけん座のコルカロリという3等星があります。りょうけん座はあまり知られていないので、コルカロリも有名ではありませんが、この星をつなぐと、春の大三角が春のダイヤモンドにスケールアップします。
さて、春のダイヤモンドがつかめたところで、おとめ座のスピカから、りょうけん座のコルカロリの間がぽっかりと空いているのが目につくと思います。春の夜空は大三角を形成する星の他に明るい星はなく、案外、閑散としています。
なぜ明るい星が少ないのか。理由は、春の星座がある方向が、地球から見て、天の川からいちばん離れた場所に位置しているからです。
私たちの天の川銀河は円盤のような格好をしていますが、天の川はその中心にあたります。ミルキーウェイと呼ばれるように、白い川の流れのように見えるほど星が密集しています。天の川が最もよく見えるのは夏の夜空で、特に濃く見えるいて座の方向が天の川銀河の中心です。天の川付近には星がたくさんあり、また明るい星も多いので、狭い範囲で星座を作りやすくなります。
一方、天の川から遠く離れたおとめ座方向は星が少なく、星と星の間隔が広くなります。そのため春は大きな星座が目立ちます。おとめ座は全天88星座の中で2番目の面積を持ちます。1番大きいのはおとめ座の下で、うねうねと続くうみへび座。3番目に大きいのは、北の空を回っているおおぐま座です。
1千以上の銀河が連なる「おとめ座銀河団」
おとめ座からかみのけ座の方向にかけては星の密度が低く暗いことが幸いし、天の川銀河の外側がよく見えます。そして、その方向に大量の銀河があるのです。10個や100個ではありません。1500個前後と推測されています。
これを「おとめ座銀河団」と呼びます。おとめ座銀河団は、さらにいくつもの銀河の集団が連なる「おとめ座超銀河団」という巨大なグループの中心部に位置します。私たちの天の川銀河も、おとめ座超銀河団に含まれています。つまり私たちは、おとめ座超銀河団の一員です。
おとめ座銀河団の中心にあるのが、M87という銀河です。
地球からの距離はなんと5900万光年! 天の川銀河の直径が10万光年ですから、いかに遠く、いかに大きいことか。想像するのも難しい遠さですね。
M87は、初めて撮影されたブラックホールの銀河としても知られます。2019年に発表されました。以前からM87の中心に超大質量のブラックホールがあることはわかっていました。しかし、光も通過できないブラックホールゆえ、画像で視認することができずにいました。下の画像は、ブラックホールによって生じた影を電波で捉えたものです。
おとめ座銀河団の隣にあるのが「かみのけ座銀河団」です。冒頭の画像「マルカリアンの鎖」はおとめ座とかみのけ座の間にあります。
かみのけ座は町中では見つけるのが難しい星座です。無理もありません。明るい星がないのですから。その代わり、空の暗いところなら、まさに髪の毛のようにふんわりと広がる淡い光を見つけることができます。全天88星座の中で唯一、星団をそのまま星座にしたのがかみのけ座なのです。
かみのけ座の星団以外にはほとんど星がないため、この方向にも望遠鏡を向けるとたくさんの銀河を見つけることができます。
明るい星が少ない春の夜空ですが、おとめ座とかみのけ座のあたりには、天の川銀河の外側の銀河が密集しています。星が見えない空間に、膨大な星がひしめているのです。
構成/佐藤恵菜