目指したのは太郎坊山(350m)
コースタイム:5時間
総距離:約7㎞ 標高差:約255m
勝利の神様を祀る太郎坊宮の上にある、太郎坊山こと赤神山。南峰は御神体で登れないが、北峰には登れる。岩戸山とのセットで周回するコースが人気。今回も5座を縦走した。
【行程】
START 市辺駅
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船岡山
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十三仏登山口
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十三仏
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岩戸山
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小脇山
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箕作山
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休憩所
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太郎坊山
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太郎坊宮
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太郎坊宮
入口階段
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GOAL 太郎坊宮前駅
私たちが挑戦しました!
師匠・低山トラベラー
大内 征さん
歴史文化を辿って各地の低山を巡る。ピークハントだけに囚われない、知的好奇心をくすぐる山旅の魅力を発信中。著書に『低山トラベル』シリーズ他。
弟子・低山ビギナー オーイシ
本誌インドア担当と言い続け、早○十年。自然は大好きだが疲れるのはキライ。**とサルはというように、高尾山のリフトが大好き。
低山とは思えない眺めに出会える
「今回登る太郎坊山は、昔から地元の人に“神様が住む山”、“天狗が住む山”といわれている霊峰。登山口から、742段の階段を登ることからはじまります」
と、師匠の大内氏(以下師)。
「え? 階段キライっす。回り道ないんですかね〜」
弟子のオーイシ(以下弟)が物申す。登山初心者にとって初っ端の階段は死活問題なのである。
師:「……OK! じゃあ、隣の駅から行きましょうか」
到着したのは近江鉄道八日市線の市辺駅。かなり太郎坊山から遠ざかったような……。
師:「階段が苦手なら、船岡山から回って行きましょう。登山口までは駅から5、6分。そのあと、岩戸山、小脇山、箕作山を通って太郎坊山へ。ゴールは太郎坊宮前駅! 行きと帰りが違う駅なんて、いいね〜(満面の笑み)」
余計なことをいったばかりにバチが当たった!? さすが霊山。
師:「さあさあ、準備運動して出発しましょう」
愚図る弟子を横目にちゃっちゃか歩きだす師匠。とはいえ、最初の船岡山は標高151m。楽勝である。ムンッ。
師:「岩戸山、小脇山と急な上り坂が続きますが、そこを過ぎれば尾根筋を行くだけだから」
弟:「よっしゃ!!」
希望の光が見えてきた。
師:「この山は、聖徳太子が岩肌に爪で十三仏を彫ったという伝説があるんですよ」
弟:「山の階段ってなんで1.5歩分なんですかね。歩きにくっ」
師:「そういう彫刻や石仏を磨崖仏っていうんです」
弟:「あぁ、お腹すいた。なんか食べていいですかね」
師:「ハイキングは自然の中を歩いて見聞を広げていくことが…」
弟:「あれ、頂上見えてきたー!」
師:「おぉ、いいですね〜」
会話はかみ合わない師弟でも、登頂の感動は一心同体。岩戸山山頂からは、近江八幡の八幡山や比叡山、琵琶湖まで見渡せる。
弟:「低山とは思えない眺めですね。アァァ新幹線!」
師:「いやいや、これぞ低山なんですよ。麓の色彩までよくわかるでしょ。ほら、あれが歩いてきた道。近江線の電車の色まで見えますよ。山によっては、近隣の学校の放送が聞こえてきたりもする。そんな暮らしを感じられるのが低山の魅力なんです」
岩戸山をあとにして、小脇山、箕作山と歩を進める。
弟:「え、せっかくここ(小脇山)まで登ったのに、なんで下るの?」
師:「縦走っていうのは、アップダウンがあるんですよ」
弟:「えー、なんか損した気分」
師:「登山を好きになると、登りが楽しくなってきますよ。高低差があると、見える景色が変わって楽しいんですよ」
ムンッ。その域に達するには、あと何座登ればいいのやら。
師:「お、いいねいいね〜。歩いてきた山の稜線が見えますよ」
うーむ、確かに、悪くない。ふくらはぎはパンパンに張りつつあるが、どんどん太郎坊山が近づいてくる景色も悪くない。
師:「さあ、太郎坊山登頂! いいねいいね〜この景色」
ハイタッチを交わす。師匠のいいねを今日何回聞いたことか。
弟:「確かこの山、3回目っていってましたよね?」
師:「季節や時間帯が違うだけで、山って全然変わる。だから、1回行っただけじゃ、その山の魅力なんて到底わからない。通いながら山心と旅心が磨かれて、登山の経験も積み重なります」
08:30 縦走の全容がここに!
市辺駅に到着〜!
滋賀県で最古級の鉄道。太郎坊宮の最寄りは太郎坊宮前駅だが、縦走のため隣の市辺駅へ。カラフルな車両が可愛い。
09:00 フォームチェック後出発
阿賀神社で登山の無事を祈り、出発。
まずは携帯アプリYAMAPでルート確認。直近の記録を見ると、道の状況などがわかり参考になる。
歩き方講座。上が正解の歩き方、下は間違い。階段を登る時は足だけ上げるのではなく、足の上に全身の重心を乗せると疲れにくい。なるべく小股で。
09:15 船岡山で足慣らし
なだらかな道が続く船岡山で技量を測る。「一歩ごとの高低差をなるべく小さく。腕は振り回すより前で組んだほうが楽だよ」と師匠。
09:30 十三仏登山口から本格スタート!
田畑のなかを抜け、岩戸山十三仏へ。手前に見えるのが岩戸山で、その後方が小脇山。天竺はまだまだ遠いのである。
十三仏までは新四国八十八箇所霊場になっており、不ぞろいの石段が続く。麓は、朝は日当たりがいまいち。
160ほどの石仏が道々に祀られていて、神聖な空気が漂う。巨石に紅白の布が巻かれているのが印象的。
10:20 巨岩に刻まれた十三仏と戯れる
ひたすら石段を登ると、石垣の上にそそり立つような御神体の巨岩が! ふたつの巨岩の間には祠があり、ここに岩戸山十三仏が祀られていて、春の法要のときだけ観られる。
10:30 岩戸山の見晴らし台でしばし鉄道風景を堪能
展望台でひと休み。20分ごとに足を止めて足休めをしてきたので(師匠の配慮)、結構余裕!? 座って電車を眺めながら1分程度休憩。
鉄道見るならここ!
さらに岩の間を進んでいくと、頂上に到着。右手に東海道新幹線、左手に近江鉄道を眺められ、八幡山の向こうには琵琶湖も見える。
11:35 琵琶湖を望む小脇山へ
373.4mの最高峰。ここまでくると新幹線は見えないが、琵琶湖は見渡せる。前方に目指す太郎坊山が見えてきた。
12:00 植物観察しつつのんびり歩を進める
一度下って、少々登ると、尾根道らしい歩きやすい道が続き、周りの植物を観察する余裕が生まれる。
アセビ
白い壺型の小花が特徴。林内や山の尾根などに群生する。
ミツバツツジ
いちばん先に咲くツツジ。花のあとに三つ葉が出る。
ショウジョウバカマ
山地の湿った斜面に咲く春の花。地域によって紫や白も。
12:20 箕作山で尾根筋を振り返る
373mの箕作山到着。太郎坊山まであと一歩。弟「空気が薄い気が…」師「アルプスのような高山じゃないから……」
13:00 念願の太郎坊山到着〜!
一般的なコースタイムより、1時間ほど遅れて到着。まだ日があるので問題なし。この景色は山の神様からのご褒美に違いない!
13:40 太郎坊宮に勝運の神様を詣でる
本殿に向かう際に通る夫婦岩。岩と岩の間は80㎝。
勝運の神が祀られている本殿。
急斜面の岩場に据えられた、高さ13mの舞台。
見渡す限りの階段。下りでよかった!
鳥居がズラッと並んだ表参道の眺めは圧巻!
742段の階段を転げ落ちないよう、疲れた足で慎重に下る。
14:30 太郎坊宮前駅にて縦走完遂〜!
太郎坊山登山口から10分ほど歩けば駅に到着。ヘロヘロでもすぐに帰路に就ける。
ハイクで一句!
山笑う
屁っ放り腰見て
また山笑う
オーイッサ
大内さん流低山の楽しみ方
前日入りして街中から山を眺めるのも一興。立体的に山を捉えることができ、高度やスケール、山と街の位置関係を肌で感じられ旅情をそそられる。
※構成/大石裕美 撮影/作田祥一
(BE-PAL 2024年6月号より)