ドキュメンタリー映画『アニマル ぼくたちと動物のこと』のシリル・ディオン監督が来日。映画について聞きました。
生き物の世界と人間との新たな関係性を2人のティーンエージャーの目線で描く
――映画に登場する専門家の「6度目の大量絶滅が、現実に起こっている」という言葉に衝撃を受けました。ご自身はそれを聞いて、どう思われましたか?
「もちろん怖いと思いましたし、ひとつ前の大量絶滅は恐竜が絶滅したときだなんて驚きますよね。まるでアポカリプス、キリスト教の黙示というか世界の終末のようなビジョンで。そんなショッキングなことを聞いたら、行動を起こさなくては!と思うのも当然で」
――『アニマル ぼくたちと動物のこと』で、なぜ二人のティーンエイジャーを中心に据えたのですか?
「新しい世代を象徴する人の視点を通じて物語を描きたかったからです。‟未来は閉ざされている”と失望していた二人に、この物語を通じて新しい人生の意味を、最終的には生き物の世界と自分との新たな関係性を見出してほしくて」
――ベラとヴィプランは年齢を超えた知性を持ち、自分というものをしっかりと持っています。それでいて目の前のことに素直に反応するのが印象的でしたが、二人を選んだ理由は?
「いろいろな意味で異なる二人を選んだほうが、多様な視点が得られるだろうと。そこでひとりは気候問題について、もう一人は野生動物、生物多様性に興味を持つ人に出演してもらいたいと思いました。
ベラはSNSで気候問題に関する投稿をする若い人をフォローするうちに見つけました。彼女は野生動物に関する投稿もしていてとても面白かった。比較的裕福な家庭の出身で、幼いころからよく農場に行ったりして。物事に対して感情豊かなアプローチをします。
一方ヴェプランはスリランカからの移民の少年で、どちらかというと貧しい家庭で育って。科学的な視点を持ち、気候問題に関心が高かった。都会育ちで動物がちょっと苦手だったりして、二人はさまざまな面で異なるバックグラウンドを持っていました。ともに成熟した一面もあり、いいキャスティングだったなと思っています」
――ベラは映画のなかで「動物を知ろうとして、人間について学んだ」と語ります。監督自身が、この映画づくりを通して得た学びとは?
「気候変動の問題を先に解決しようとすると、生物多様性を壊すことに繋がってしまう。けれどその逆はありえない。生物多様性を先に解決しようとしても、気候変動の問題を悪化させることにはならないということです。
なぜかというと、気候問題を解決しようと石油の使用を止め、炭鉱を掘ったり森林を伐採したりすれば、海や川の汚染や公害の問題がまた起きてしまう。まず生きものを守る、生物多様性に視点を置き、他の種も存続出来るように考えると、多くの種が共存するためには空間がなければいけないし、二酸化炭素を減らす必要がある。
プライオリティのなかのプライオリティは? と考えると、やはり生きものをまず保護することが大前提で、気候問題ではない。そのことに気づきました」
――フランスを始め、いくつかの国では既に公開されていますが、映画の反響にはどのようなものがありますか?
「この映画を観てベジタリアンになったとか、肉や魚の消費を減らしたとか、プラスチックを回収する活動に参加したとか。
前作の『TOMORROW パーマネントライフを探して』のときは、観たあとに希望を持ち、行動を起こそう!という意欲がたくさん湧いたという声が多かったですが、今回は特に若い人が、こうした問題を考えるきっかけになったと。深く考えさせられたし、物の見方を問い直さなければいけないと思うようになったようです」
『アニマル ぼくたちと動物のこと』(配給:ユナイテッドピープル)
●監督/シリル・ディオン
●6/1~シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021
https://unitedpeople.jp/animal/
取材・文/浅見祥子