監督が思う「ドキュメンタリーが持つ力」とは
――動物と如何に協働するか?映画にはそんなテーマが描かれ、「ペットがいると健康にいい」という話も出てきます。監督自身、動物は好きですか?
「好きですよ。いまネコを3匹飼っています。自閉症の子や、人との関係性を築くのが苦手な人も、家にペットがいるといいという研究結果もあります。
僕はベジタリアンも続けていましたが、消化器系に問題があって、小麦や牛乳がダメで。それでは栄養学的に問題があるだろうと、魚だけはまた食べるようになりました」
――ウサギの養殖場を訪れ、その飼育環境を前にしたベラが、「ここに来たら、90%の人がウサギを食べるのを止めるはず」と言ったのが印象的で。
「それはある有名なミュージシャンの言葉を引用していたのですが、別の場面ではこんな会話もありました。動物保護の活動をしながらベジタリアンではなく、お肉を食べるという人がいて。そこに疑問を持ったベラとヴィプランが理由を尋ねると、‟自分が生きるために生物が殺されることを受け入れられないというのはよくわかる。
でも何かの死があって、自分が生かされる、それが生物のライフサイクルで。そうして生きものは続いていくのだから、それ自体を否定してしまったら、エコロジー全体を否定することに繋がる。
動物の肉をより少なく食べるとか、いかなる動物も正しい扱をされなければいけない、そこには同意するけれど、全部を否定することは自分をも否定することになるよ”と。二人とも、考え込んでいました」
――監督自身はパリから80キロほど離れた小さな町に暮らし、裏庭で野菜づくりをしているとか。映画に登場するような、パーマカルチャーを実践する農場をいつかやってみたい、そんな希望はありますか?
「あれほどのパーマカルチャーを実践しようとすると、大変に多くの時間をかけなければいけません。一日の大半をそれに費やすことは自分には無理なので、裏庭の菜園くらいが自分にはちょうどいいようです(笑)。
この先の十年で、世界には大きな変動があるでしょう。それに備えるという意味も含め、自分で野菜を育て、お水は近くから供給し、ソーラーパネルでエネルギーを供給し、周囲に小さなコミュニティがあってお互いに助け合える。近い将来に起こりうる危機に備え、ちょっと環境を整えている感じです」
――『アニマル~』は前作『TOMORROW パーマネントライフを探して』と地続きのようにも思えました。現時点で、次回作の構想は?
「既に複数のプロジェクトが動いています。一つ目はエコロジー問題は急を要するもので、それに対処するにあたり、民主主義を描くものです。二つ目は十年後を描く6話からなるフィクションのミニシリーズで、3つ目は小説の実写化。ドキュメンタリーが1つと、フィクションが2つですね」
――監督はドキュメンタリーもフィクションも、雑誌の編集やエッセイも手掛けられます。そんななか、ドキュメンタリーの持つ力をどのように感じていますか?
「強く感じるのは、それはドキュメンタリーに限らずですが、映画の持つ力です。映画というのは、それを通じて何かを語り、人びとに力強いものを感じさせることができます。しかもエモーショナルだったり、知的だったり、理学的なものだったり。
さまざまなことについてあらゆるレベルでいろいろなことを感じたり、登場人物に自己投影して感動したり学んだりできる。それでフィクションでは自分と距離を感じてしまうこともあるかもしれませんが、今回のようなドキュメンタリーなら、リアルな人物を通じてより強く、自分も行動を起こそう!と思える。そういう意味で、映画が持つ力は大きいと思うんですよね」
『アニマル ぼくたちと動物のこと』(配給:ユナイテッドピープル)
●監督/シリル・ディオン
●6/1~シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021
https://unitedpeople.jp/animal/
取材・文/浅見祥子