みなさん、五右衛門風呂に入ったコトは、ありますか? ひと昔(もしかしたら、ふた昔? )前のお風呂。私は時々、無性に入りたくなる。子どもの頃、いとこの家が五右衛門風呂だったから。今回の宿「古民家ゲストハウス 汐見の家」(以降、「汐見の家」)では、なんとなんと、その五右衛門風呂に入れてしまうのです! しかも、自分で薪をくべて!
サイクリストの聖地として世界的にも有名な瀬戸内に浮かぶ島々“しまなみ海道”。その、すぐ近くに“ゆめしま海道”と呼ばれる6つの島があるコトをご存知ですか? “しまなみ海道”を制覇したサイクリストたちが、未知の場を求めて訪れる島々。観光客は今のところ、さほど多くはない穴場エリアだ。その中のひとつが「汐見の家」のある佐島。2年ほど前まで、観光とはあまり縁のない島だった。が、「汐見の家」ができたコトで旅人の流れが変わった。佐島を素通りせず「汐見の家」に1泊滞在するという人が少しずつだが、たしかに増えている。
ココは、もともと、オーナー・ノブコさんのご先祖の家だった築約70年の古民家。誰も住まなくなり数十年。売りに出そうと島へ訪れた時、瀬戸内の多島美ときらめく海の美しさに心をつかまれてしまったノブコさん。ココを自分の力で存続させたい! 瀬戸内の景色がノブコさんの考えを180度変えてしまった。そして、考え至ったのが「ゲストハウスとして、建物に再び息を吹き込むコト」だった。ノブコさんが島に来るのは月に2日間ほど。日々の宿の管理してスタッフ2名にまかせ、ノブコさんは主に東京でむちゃくちゃ地道に宿の営業活動をし、絶賛後方支援中だ。実は、ノブコさん、本職は東京でolさん。そして、3人家族の母親でもあるのだ。パワフルな二足のわらじ状態。けれども、そんなライフスタイルが、私はちょっとうらやましい。
さて、そんな「汐見の家」は、佐島港の目の前の集落にある。細~い路地を入ったトコロに佇む平屋の古民家。大きな看板等はなく、入口が飾られているわけでもなく、知らなければふつうの民家だと思って通り過ぎるほど、その佇まいは島の景色に溶け込んでいる。約70年間、島を見続けてきた家だからこそなんだろう。そして、その空気感を壊すコトなく自然体のままに改装されているトコロに、ノブコさんの島と建物への想いが表れているように思う。
入口の門をくぐり手入れされた庭に入るなり、目に飛び込んできたモノがある。井戸のレトロな手押しポンプと薪風呂釜だ。
「夕食後に、薪をくべて五右衛門風呂に入りましょうね」
そう話すのは、スタッフのけいこさん。シングルマザーで、ちいさな子どもをふたり連れ、「汐見の家」のオープンとともに、スタッフとして移住して来たのだそう。保育園帰りのゴウくんとココちゃんが、きゃっきゃっと庭で砂遊びをはじめる。
「この井戸、現役なんですよ。佐島や、この近辺の島々は、昔から雨が少なくて水不足が問題なんです。だから、各家ごとに井戸を持ってるいるんですよ」
もう一人のスタッフ・みえさんが教えてくれた。北海道出身の彼女は、暖かいトコロに住みたくて南下中、サイクリストご用達となっている今治のゲストハウス「シクロの家」のスタッフとして数年間勤めていた。その後、けいこさんと同じく「汐見の家」のオープンとともに移住して来たのだ。
薪で炊く五右衛門風呂に、現役の井戸。憧れの生活道具が突如目の前に現れた驚きとしあわせに、身体中のわくわく度が、どんどん上昇する私。
「入る! 入る! 薪くべて五右衛門風呂に入ります~! 」
ゴウくんとココちゃんに、負けず劣らずのきゃっきゃっぷり。ひとり、小躍りしまくっていたのだった。
佐島には、飲食店がない。スーパーもない(産直市場的なものは1軒ある)。どちらも橋を渡って隣の弓削島まで行かないといけない。つまり、「汐見の家」でのごはんは、必然と自分で出来合いのものを持参するか、食材を持参して作るか、もしくは、みんなで一緒に作るシェアごはん形式となるのだ。シェアごはんを仕切るのは、スタッフのみえさん。使う食材は、島の野菜がメインだ。みえさんに何をするか聞きつつ、各自、材料を切ったり焼いたり、盛り付けたり…。
「私、ニンジン苦手なんで、小さく切ってもいいですか?」という女子大生ゲストに
「え!? ニンジン、おいしいのに~! 」と、みんなで突っ込む一幕も。