雨が止み日差しが照りつけると夏日のように暑く気温も上がります。
この時期、私が観察している鹿児島県南さつま市笠沙の海中では黒潮が接岸し水温がグンっと上がり今シーズンは1日で21℃→24℃まで一気に上がりました。
水温が上がると海の生き物たちの繁殖行動が活気付いてきます。
繁殖行動は夜明け前から活発に動く生き物たちも多くいます。
今回は皆さんにもきっと、馴染みのある魚、キビナゴの繁殖行動についてお送りします。
5月中旬の海の中へ!
夜明け前の騒がしい海中
日の出時刻が早くなってきた5月中旬、日の出前の薄暗い海中を潜ります。
眠たい目を擦り、起きたことを忘れるぐらい早朝の海に入ると目が覚めます。
海底へ近付くと、忙しく泳ぐキビナゴの群れが、目に付きました。
昼間に回遊しているキビナゴの群れは、中層をキラキラして優雅に泳いでいますが、下層を泳ぎ慌ただしく通り過ぎていきました。
真っ白な海中、その正体は
海底を進んでいくと、すでに海中は雲に覆われたように真っ白で、霧の中にいるように視界が悪いです。
でも、その先の海底には、細長い小さな魚が動いているのが見えました。
白濁でモヤモヤした海底に顔を近づけると、忙しく動くキビナゴの群れが見えました。
キビナゴの大産卵が行われていたのです。
群れの一部を見ていると、体に黄色の線が入るメスが体を小刻みに動かし砂に卵を産み、
そのまわりに白色の煙のようにオスたちがメスに寄り添い精子を出し砂をまぶしているようでした。
白濁の中、どこを泳いでもキビナゴだらけです。
海中が白濁し白い雲のようなものは、実は全部キビナゴの精子だったのです。
この日は海底に広がる砂地を100m×200m程を泳ぎましたが、
全てのエリアがキビナゴの産卵場になっていたのです。
狙われるキビナゴ
周りには、産卵しているキビナゴを狙う捕食者も多く集まっていました。
すでにお腹が大きく膨れたオオモンハタの姿が目につきました。
キビナゴの産卵は、きっと特別なご馳走なのでしょう。
もうお腹いっぱいという姿ですが、キビナゴを捕食しようとジッとしていました。
こちらにもキビナゴを捕食しようと狙うウツボです。
口を大きく開けて、今にもキビナゴを食べてしまいそうです。
他にもマダイやイサキ、ツバクロエイなど見かけました。
捕食者がいようと、周りを見る余裕も無さそうなキビナゴたちです。
この日は、早朝に2時間程観察しましたが、日差しが出て海中が明るくなるとキビナゴの産卵は小規模になっていきました。
それでも、キビナゴは昼間も産卵を続けているエリアもありました。
驚いたことに、早朝のキビナゴの産卵がなんと5日間も続いたのです。
海底の広い砂地は一面キビナゴの卵だらけになっていました。
忙しいキビナゴの姿は、見らなくなり産卵が終わり静かな海底へ戻っていきました。
少し寂しく感じ、産卵直後の海底の砂地を見ると、通常の砂地とは違い、キビナゴの卵がまぶされて砂が少し固まっているのが分りました。
よく見ると、卵径0.8mmぐらいのキビナゴの卵を確認することができるこができました。
海中が明るくなり、魚たちがソワソワと起き始めました。
キビナゴが産卵していた砂地をつつくイトヒキベラの群れを見かけました。
キビナゴの卵を美味しそうに食べているようでした。
まわりではナガサキスズメダイやクマノミも砂地をつついていました。
1週間後、海底のキビナゴの卵の様子を見てみました。
よく見ると小さな目が2つ見える卵が分りました。
卵の中で小さな目がキュルキュルと動いています。
もう少しでハッチアウト、広い海へ旅立つのでしょう。
回遊するキビナゴの群れ
成魚になっても全長10cm程のキビナゴですが、日頃は大きな群れになり回遊しています。
今回は大産卵を見ることができ、産卵中や産んだ卵も、多く捕食されるキビナゴですが、
それだけ海の生き物たちを大きく支えているんだと思います。
たくさんのキビナゴたちの力強い大産卵のシーンに出会えた経験をいかし、今後も海と向き合い観察していきたいと思いました。
今回、産卵した卵がどのぐらい成魚になるかは分かりませんが、少しでも多くの命が巡るといいなと思います。
☆☆☆
鹿児島県では郷土料理として知られるキビナゴです。
鹿児島本土では6〜8月に旬を迎え、刺身や揚げ物、南蛮漬けなどで頂き親しみのある魚です。
陸編
先日、九州南部も梅雨入りが発表され雨の日が続きます。陸上では道端の紫陽花が咲き始めます。