こんな気候で雨に打たれながら歩くほどの苦痛はありません。
小雨の中を歩いていると、反対側から歩いてきた、おばさんハイカーに声を掛けられた。「日本人の…えーっと…名前は何て言ったかしら?」Facebookで見て知っていると言って声を掛けてきたのでした。おそるべしFacebookです。
彼女が言うには、明日から1週間強い雨が降る予報らしい。それ以降も天気は安定していないという情報でした。これは、僕がコリーで検索した天気予報とは随分違っていたのです。町の間隔から考えると、彼女が予報を見たのは4日前で、僕がチェックしたのは2日前。
僕の情報の方が最新だと思い、気にせずに歩いていました。
しかし翌朝起きてみると、いつもと違う、もやっとした気温から急に雨は降りだしたのでした。そして、この雨は降ったりやんだりを繰り返す、やっかいな雨に変わったのです。
5日目、当初バリンガップの町では無料で泊まれるキャンプサイトに滞在しようと考えていました。しかし、降り続く雨の中、テントで過ごす気になれずにいました。町の宿泊所は、昨年ホステルが閉店したので軒並み100ドルを超える値段です。
しかし、探せばあるもの。バリンガップの手前2kmのビバルマントラックからほど近い場所に、オリジンセンターという寄付で泊まれる施設があったのです。
水は雨水、電気はソーラー。洗濯機もないエコな施設でした。(※Wi-Fiなんてあるはずもありません)。しっかり生ごみもコンポストとして使っており、幼児や親御さんが集まるイベントなども行なわれていました。もちろんトイレもバイオトイレです。
不便ですが何とも心地いい空間。オーガニックバナナケーキなどをご馳走になりながら、ゆったりとした時間は過ぎていきました。
町まで2kmの道のりは、ビバルマントラックを歩いてくのが最短コースでした。食材店に行ってみると、食材が割高で、スーパーのように野菜なども調達できなかったので、食事はインスタントラーメンで済ませることにしました。
1日中降り続いた雨は翌日の朝になってもやむことはありませんでした。ゼロディを取るか…どうするか…。
悩んだあげくこの町に滞在しても食材を減らすだけと判断。18kmのシェルターを目指すなら雨でも何とかなると思い、出発することにしました。
ミストのような雨は、やがて本降りになり、そして標高の高い牧草地へ。そして木のない山を歩くころには、暴風雨に変っていきました。
台風の様な暴風雨に、「頼むやんでくれ」と叫んでる僕がいました。やがてその声は、早くシェルターへついてくれというつぶやきに変わっていったのでした。
どの位の時間を暴風雨にうたれていたかは覚えていません。ただ木々のないはげ山を登り、暴風雨に吹かれながらも、しっかり目を凝らすとようやく先にシェルターが見えてきたのでした。
僕は、寒さに震える体を一刻も早く温めたくて、急いでシェルターの入り口に向かいました。そしてシェルターの中に避難すると、その恐ろしい光景に愕然としました。
シェルターの中は、暴風雨で水浸しで、2段になっている寝床の壁側僅か60cmほどだけが少し乾いているだけでした。そして2つある2段の寝床の隅で、寝袋にくるまり必死に暴風雨の寒さに耐えている女性の姿を発見したのでした。
午前11時。次のシェルターまでは18km。僕に選択肢はありませんでした。この防雨風で濡れたシェルターで本当に過ごすことが出来るのだろうか?僕はただ立ち尽くすしかなかったのです。
つづく
【Profile】斉藤正史
山形県在住
LONG TRAIL HIKER
NPO法人山形ロングトレイル理事
トレイルカルチャー普及のため国内外のトレイルを歩き、山形にトレイルを作る活動を行う。
ブログ http://longtrailhikermasa.blog.fc2.com/
山形ロングトレイル https://www.facebook.com/yamagatalongtrail