軽のキャンピングカーで、世界半周ドライブ。まずは、サハリン島を北上しています。原生林を貫く500kmもの未舗装道路を走りきれば、道路の最北端。サハリンの北の果てに、誰も知らない絶景が隠されているのです、たぶん……。
北緯51度の幻のキャンプ場
ロシアでは駐車場に安く泊まれると聞いていたのですが、地元民に尋ねてもみなさん首を横に振るばかり。田舎すぎるのか、みなさん路駐です。晩飯を兼ねて質素な食堂で作戦会議をしたところ、隣のテーブルに日本人顔のおじさんを発見。この近所にどこか泊まれる駐車場ないですかね?って訊いたら、
「キャンピングなら知ってるよ」
Really(まじっすか)?
近所ですか?
「この先だよ」と北を指さすおじさんは、ロシア語8割と身振り手振り。こちらの日本語まじりの英語を理解しているとも思えず、会話というよりテレパシーです。
「付いて来な!」
手招きするものですから、おじさんの車を追いかけました。延々と……。島から出るんじゃなかってくらい。すっかり日が暮れても……。
どこまで行くのか、追っ手を撒くかのように爆走するおじさん。未舗装のダート道を小石を巻き上げ、砂埃をたて、ときには穴に落ちるサバイバルドライブは136km。まさかの2時間半。東京だと軽井沢まで行っちゃう距離で、案内されたのはホテルでした。
おじさん……。ぜんぜんキャンピングじゃない。
ホテルなら、さっきの村にあったじゃん。文句を言える立場と会話じゃないですから、感謝の言葉を固い握手に替え、サービスにハグまでして別れました。キャンピングは諦めて、今晩は雑居ビルの駐車場で寝ます。
「ここに駐車して、寝ていいですかね?(身振り手振り)」
「好きにしたらいいさぁ(テレパシー)」
「お金なんか要らないからぁ(身振り手振り)」
トイレはありませんでしたが、藪だらけということで察してください。
北緯51度。星が綺麗だったかどうかは思い出せませんが、夜中の1時をすぎても、子どもが元気よく遊んでいた駐車場です。
クマさえいない荒野
翌朝、凸凹の砂利道を土埃を舞きあげて、ひたすら北へ。後続車も対向車もほとんど通らない、秘境の森。頭に浮かぶ字幕タイトルは「軽キャンパー、前人未到の孤島をゆく!」
原生林を貫く一本道です。以前、アラスカやカナダをドライブしたときは、鹿、リス、仔ぐまによく出会ったものですが、サハリン島はクマはおろかリス1匹見かけません。動物ゼロ。鳥も飛んでいない世紀末感です。晴れた空、無人の荒野をゆく!車はどんどん汚れていく!
崩壊した橋とガードレール。
釣りでもしながらキャンプしたら楽しそうですが、コンクリートの残骸を見ていると妙に心がざわざわしてくるものでして、先を急ぎます。
極限まで材料費をケチったような、頼りない鉄橋。サハリンの貧乏くささは、異国情緒があります。
廃墟は、屋根も窓もドアも取っ払ったものが多いです。金目のものはぜんぶ売っぱらったんですかね?野花が咲き乱れる、明るい廃墟。