昆虫観察をして博物画にチャレンジ
その道の達人 水彩画家 宮川 勉
虫は「二度おいしい」
宮川さんは本誌の元編集者。子供のころから虫や絵が好きで、自然絵本作家の松岡達英さんの担当をしているうちに熱が再燃、40代から虫の絵を描き始めた。上手に描くコツは、「とにかくよく見ること」だとか。
「だって風景や人物と違って拾った虫や標本は目の前にあります。しかも動かない。どちらかといえば絵というよりも図。写すつもりで描けばいいんです」
とはいえ、彼には、「図」を超えて、鑑賞に堪える「絵」にしたいという欲もある。ゆえに博物画では本来不要な背景(植物や虫の下にできる影)も描く。
「描いた絵は飾ります。客観的に見えるので、おかしな点がわかります。また家族の辛辣な批評を仰げますからね(笑)」
虫は、出合って感動、描いて感動、二度おいしいという。
「指先ほどの小さな体に神がつくった色や形がつまっています。描くということは、それを愛でる楽しみなんです」
下描き
鉛筆の芯はBを使用。やわらかすぎるとこすれて濁り、硬すぎると消しにくい。
完成
博物画は観察対象を記録するためのものだが、植物も描くとサマになる。
パレットは洗わない
チョウは展翅(翅を伸ばして針で固定)すると描きやすい。「チューブから出したままよりパレットに残った色と混ぜたほうが深くいい色になる」
初心者はチョウ、ガから
甲虫に比べて平面的なので描きやすい。これは博物画の基本形として虫の下の影や植物はなし。翅は表と裏で色が違うので両方描く。
翅脈は影を入れて立体的に
翅脈は人の血管のように浮き上がっている。翅脈沿いに濃い色を入れるとそれらしく見える。
白抜き
甲虫を立体的に見せるには、白で光の反射を表わす。紙にマスキング液を塗って紙の白地を生かしている。
白載せ
これは白い点をたくさんつけている。上2点は虫の下に影を描いているので、さらに立体的に見える。
街にあふれる「おもしろ樹木」を探そう
その道の達人 樹木医 岩谷美苗さん
ブログ「街の木コレクション」で、ちょっと笑える樹木を日々公開している。著書は『子どもと木であそぶ』(東京書籍)など。
今なら“キリ鉄”をしてみては?」と岩谷さん。
「キリの種は軽くて翼があるので、風で舞い上がって思わぬところで発芽します。とくに電車の風で運ばれるようで、駅のホームや線路沿いでよく見られます。飲食店の室外機の脇もねらい目です。生長が速くて昔は娘が生まれたときに嫁入りタンスの材料として植えたほど。秋までに切られることが多く、今が好機。紫の花もきれいです」
おもしろい木を見つけたら、その後も追いかけるのが大切。
「樹木医としての勉強でもありますが、枯れかけた木が生きていたり、元気な木が切られたり…。その急展開はサスペンスドラマ以上です」
くいこみ木
異物とこすれると傷ができて腐ってしまうため、いっそ異物を固定しようとする。食い込んだからといって枯れるわけではない。
こぶケヤキ
剪定あとにこぶができるのは病原菌が入らないよう傷口をふさぐため。根元にこのコブができた原因は不明。こぶがあってもわりと元気に育つ。
↓
すきまキリ
キリは発芽後に泥をかぶると腐りやすいようで、コンクリートのすきまが好きらしい。大きな葉が目印になる。
足湯
囲いが作られたときに内側で根が切られ、その根からまた根が伸びて太くなったと思われる。
トコロジスト的バードウォッチングのすすめ
その道の達人 (公財)日本野鳥の会 箱田敦只さん
東京都稲城市の自宅近くで自然観察を実践、「城山トコロジストの会」を結成し、観察会を行なう。著書『トコロジスト』(日本野鳥の会)。
トコロジストとは、“その場所の専門家”のこと。“鳥だけ”や“虫だけ”ではなく、自分のフィールドの生き物や地質、歴史、文化を総合的に知ろうという考え方です」
やり方は簡単。箱田さんは通勤や散歩で同じコースを歩き、無料アプリ「スーパー地形」に気づいたことを記録していく。
「最初は自分がわかる鳥から始めればいいんです。鳥以外のことも地図に記録していくと、その鳥がなぜその場所にいるのかわかってきます」
何年も続けると、地域の環境保護の大きな根拠となる。
「なによりも地域に愛着がわき、毎日が楽しくなりますよ」
アナログ派
地形図コピーとペラの記録用紙
見た鳥を順番に記録、その番号を地形図に記載。1枚のルーズリーフに記録すれば、綴じるときに順番を変更できて整理しやすい。
土地利用を色分けするとわかりやすい
地形図にセキレイ4種の分布を記載。色を塗ることで4種それぞれの生態がはっきりする。
デジタル派
「スーパー地形」に気づいたことを入力
+を押すと地形図に赤いアイコンが立ち、備考欄に記録できる。データをパソコンに取り込めば編集も簡単。
※構成/大塚真(DECO) 撮影/矢島慎一(トコロジスト) 写真/井上瑞穂(セキレイ)
(BE-PAL 2024年7月号より)