虫屋は夜、宿で何をやっているのか? | 自然観察・昆虫 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2024.07.04

    虫屋は夜、宿で何をやっているのか?

    ビーパルOB・宮川 勉が、40歳前後で目覚めた「昆虫採集」の楽しみをご紹介。今回は、泊まりで昆虫採集に出かけたときに、宿で夜どのようにすごしているのかについて。至福のひとときをご紹介します。

    上の写真はミヤマクワガタ。クワガタには興味がないので、駐車場にいる少年少女らにあげると喜ばれます。

    「虫の宿」は夜が本番

     虫屋は宿泊施設で何をやっているかという話。

     それはとんでもなく充実した時間なのです。

     私の場合、大浴場で汗を流したあと浴衣に着替えて、食事とビールを楽しみます。

     

     ここまでは当たり前。この先がふつうの宿泊客と少し違います。

     食事が終わると、部屋に戻って、浴衣から昼間の正装に再び着替えます。

     汗臭いズボンと長袖シャツ、手拭いを首にしっかり巻いて、キャップをかぶり長靴を履きます。

     最後にヘッドライトを装着し、カメラと網を持ったら、いよいよ本日二度目の出勤です。

    長竿捕虫網。これはまだ短いほう。カミキリ屋のなかには13メートルを誇る猛者がいる。

     

     山ぎわの宿には、灯火を求めてたくさんの昆虫たちがやってきます。

     勤勉な虫屋たちは、珍しい虫がいないか、常に調査を怠らないのです。 

    夜の屋外灯は「虫屋の水族館」

    外灯には群がる虫で一番多いのは、粉のように小さいガ類。

     駐車場の外灯のまわりは、水族館の水槽をかき混ぜたようです。

     大小さまざまな虫たちの共演が繰り広げられているのです。

     粉のような細かい虫、小さく地味なガ、不器用に一直線に飛ぶクワガタなどの甲虫類、大きいガはたまにきては、大きく旋回してまた明かりの届かぬ闇に消えていきます。

     

     オオミズアオという大型のガは、水族館のマンタのように、悠揚迫らぬ姿で泳いでいます。

    オオミズアオ

    オオミズアオ。駐車場の外灯は水族館。雑魚に混じって優雅にオオミズアオが泳ぐ。

     壁に止まった姿はよく見られますが、こんなに優雅に、泳ぐように飛ぶのかと驚く。

     

     中型のシルエットは何だろう。

     捕虫網に入れて、ゆっくりと竿を倒す。網の中には、後翅の黄色と胴体の鮮やかな紅色の蛾がいる。原色の美しいガ。ジョウザンヒトリです。

    ジョウザンヒトリ

    ジョウザンヒトリ。派手なヒトリガ。お腹まで真っ赤。最初見たとき、うれしかったなあ。

    ジョウザンヒトリ

    ジョウザンヒトリ。派手なヒトリガ。

     捕虫網は9メートルほどの長竿で、こんなとき、しみじみ持ってきてよかったなあ、と思います。

     虫たちはあまりにいっぱい飛んでいるものだから、網を灯りに近づけるだけで、虫は勝手に入ってきます。入ったらするすると竿を短くして、何が入っているのか確認します。

     至福の瞬間です。ヒメコガネの仲間が色とりどりの宝石のように入っていました。

    ガ

    不明。ガも哺乳類の子どもみたいに毛深くかわいい。

     日帰り温泉に来たおばちゃんが、洗面器を抱えて「何採ってるの」と訊いてくる。

    「蛾? 気持ち悪うい」

     とまあ、このあたりが反応としてはふつうでしょう。

     なかには、一緒になって、どんな珍しいクワガタが飛んでいるのだろうと、外灯を見上げる人もいますが、やがてガを狙っていると知ると、静かに離れて行きます。

     

     毎晩、同じ黒猫だけは一緒に外灯を見上げています。

    白熱電球とLED、虫が好きなのは?

    外灯にあつまる虫

     虫屋にとってはこの駐車場も天国でした。

     「でした」と過去形で語らなくてはならないのが悔しいです。そう、近年は、どうも虫の数が少ないのです。

     そこで支配人に訊いてみました。案の定、外灯を白熱電球からLEDに変えたそうです。昆虫は紫外線を夜間飛行する際の目印としています。白熱電球には紫外線が含まれていますが、LEDには含まれていません。LEDの光は昆虫には見えないのです。

     そのため、虫を寄せ付けないように外灯をLEDにする宿が増えています。

    チズモンアオシャク

    チズモンアオシャク この見事なデザイン。

     かつては、毎朝起きると、玄関まわりをチェックしてさまざまなガや甲虫を拾っていました。

     虫の死骸を放棄で履いている宿のスタッフに、

    「おはようございます、どうですか?」と聞くと、

    「今朝はきれいなのがいませんね」という会話を交わしたものでした。

     ひそかに虫屋の間で「虫の宿」として重宝されてきた宿も、だんだんと姿を消していきます。

     

     でもLEDになっても、まったく昆虫が来ないかというと、そんなことはありません。

     また自動販売機やコンビニなどではまだ白熱電球を使用している箇所もあるようで、意外なお宝がふつうに歩いていたり留まっていたりします。

     この夏、手間要らずの夜間採集に挑戦してみてください。

    ガ

    宮川 勉さん

    水彩画家・文筆家

    BE-PAL編集部OB(ビーパル小僧)。小学館で「BE-PAL」などの雑誌編集者として勤務後、「新 幼児と保育」を創刊し乳幼児保育関連の編集を担当。画家としては2024年に初の個展「中山道のリアル」展を開催。これまでに2冊、私家本をつくる。1冊は『黒猫と街灯を見ている〜昆虫イラストエッセイ〜』(完売)、もう1冊が中山道歩きをテーマにした『中山道のリアル〜エッセイのある水彩画集〜』。次回作品のテーマは奄美大島の文化と自然を予定。

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