さて今回の旅で訪れたのはモーツアルト生誕の地としても有名な「ザルツブルク」と、その東に位置する「ザルツカンマーグート地方」(オーバーエステライヒ州とザルツブルク州とザルツブルク州またがるエリア)です。これ、全部タイトルに入れるとB’zの「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない」みたいなK点越えの話になるので、便宜上【ザルツブルクとその周辺旅】としています。
【オーストリア・ザルツブルクとその周辺旅vol.1】この日の旅は「秘境」への「廃墟ツアー」!?
さてさてそんなザルツブルク旅もいよいよ最終日を迎えました!なんで【ザルツブルクとその周辺旅vol.1】が旅の最終日の話から始まるのかというと、2024年9月末で終了するイベントもこの中で紹介したいからです!
その日の朝、我々海外プレスツアー(メディアツアー)一行は「トラウンキルヒェン」という街に向かいました。ザルツブルクの東、列車を1回乗り換えて最短約1時間半の場所です。
素晴らしい旅を予感させてくれる好天です。
前日の朝軽いギックリ腰を発症して背筋が鉄板のように固まっている私には、うらやましくてたまらないかったですが。笑
絶好の探検日和の中、いよいよ上陸!
そんなこんなで到着したのが湖の対岸。
ここは「カールバッハ(Karbach)」という場所なのですが、グーグルマップなどで検索しても出てきません!しかもグーグルマップでは「トラウンキルヒェン」からここまでの「航路」も表示されない!
ただ単に湖をわたっただけなのに「秘境」というよりもまるで「異次元世界」に迷い込んだような話ですが…理由はのちほど判明します。
じつはここの山は石灰岩の採掘場下にある処理場跡である模様。ということは「廃墟ツアー」ということなのでしょう。
すぐに我々一行は「安全確保のため」という理由で蛍光色の安全反射ベストとヘルメットを着用させられました。するとなぜか空模様まで「仕込んでいるのか?」と疑いたくなる絶妙のタイミングで荒れてきました。まさに「風雲急を告げる」状態。
アートに彩られた異世界へ
安全ベストとヘルメットに身を包んだ我々は探検隊気分でさらに奥地に進みます。
棄て去られた「廃墟」感がさらに増します。いったい我々はどこに連れていかれるのでしょうか。
ガイドさんの案内があるとはいえ、「入っていいのか? 倒壊しないか?」という疑問が。「ああ、そのためのヘルメットか」と一瞬安心しかけたけど、倒壊されたら焼け石に水。
ちなみにこのあたりでは朝の「好天」から一変して、嵐のような強く冷たい風が吹きすさぶ「荒天」になりました。「廃墟ツアー」らしいおどろおどろしい雰囲気を高めてくれるのはいいけど、マジで倒壊しないか心配。
次に我々が向かったのは採掘した石灰岩をトロッコだかベルトコンベアだかで運ぶトンネルの中。
「廃墟にアート」の驚くべき理由が判明!
…いや、待て待て待て。ちょっと待て。さっきからなんで廃墟にアート?奇妙で独特の雰囲気を醸し出しているのはわかるのですが…。あとなんで建物内の施設は埃をかぶってないの?疑問点は素直にガイドさんに訊きます。
「いや、ここ廃墟じゃないですよ~。今も使われている施設です」。なんとも意外な返事が来ました。詳しく訊くと「現在も山の上では実際に石灰岩の採掘が行われていて、これらの施設も使われているんです」とのこと。
「いやいやいや、そんなところに入ってきていいんですか?」。作業の邪魔でしょうし。
「月曜日から木曜日は作業員たちが来て仕事をしますが、金曜日から日曜日まではアート鑑賞を兼ねたツアーを行っているんです」
確かに訪れたのは土曜日です。
「とはいえ今だけ限定なんですけど。そして上陸できるのは基本的にはツアー参加者だけです」。この上陸ツアー、2024年5月19日から9月29日まで限定とのこと。「しかも安全上の理由から自由に歩き回ることは許されなくて、必ず我々ガイドとともに定められたルートを進んでもらっています」
グーグルマップに地名も航路も出てこないのにはそういう理由があったのです!ちなみに当然月~木曜日は採掘場の作業員たち限定で乗船できるとのこと。
じつは今回のプレスツアーは「バート・イッシュル/ザルツカンマーグート」が今年「欧州文化首都」に選ばれたので、それを紹介するという意図で招待を受けたもの(バート・イッシュルはザルツカンマーグート地方の中核都市)。「欧州文化首都」というのは欧州連合(EU)から指定を受けた都市が、一年間にわたり文化行事を展開する制度です。近年は毎年2~3都市選ばれるのが常とのこと。
そして「欧州文化首都」はテーマを決めてそれに関する展示やらイベントやらを行うのですが、「バート・イッシュル/ザルツカンマーグート」のそれは「塩」。というのはこのあたりは7000年前から岩塩の採掘がおこなわれていて、昔は特に内陸部では塩は貴重なものであったため、非常に栄えたことからこのテーマが選ばれたとのことです。ちなみにザルツカンマーグートやザルツブルクのザルツ(Salz)はドイツ語で塩の意味。
さて「塩がテーマなのになんでまた石灰採掘場?」という素朴な疑問が頭に浮かんだ人もいるかもしれないが、訊くのはヤボというものです。…はい、すみません。私、聞きそびれました。とにかく。
そっかあ。廃墟じゃなかったのか。笑
そういえば上陸直後に結構新しめで「廃墟」感などどこにもなく、「現役で使われている」感満載のパワーショベルを背景に自撮りしたことを想い出しました。
今後もずっと公開し続けてほしいという願いを込めて
だがしかしです!せっかくこんなにユニークな施設があるのだから「期間限定」でしか公開しないのはもったいない。こうした石灰採掘場兼処理場に足を踏み入れる機会はそうはなく、ワクワクする人も多いはず。
願わくはもう少し道を整備して山頂方面にある採掘場を見ることができるようにすれば、アトラクションとして人気を呼ぶでしょうし。
ちょっと偉そうにすると「ジャーナリストの使命」って「事実を書く」ことだけではなくて、「こうしたほうがいい」と提言することだと私は信じているのでそんな話をガイドさんにしていたところ、目の隅に不思議な光景が。なんと誰もいない道をトレッキングポール片手に歩いている男性を発見したのです。
「ああ。年に一度マラソン大会があって、その試走で訪れているんですよ」
なんだ、来ることはできるのか。まあ、湖の対岸ということは陸続きだし。というわけで興味がある人はぜひ。
「島」ではないし「廃墟」でもありません。でも「船でサクッと渡れる異世界」ということで、私はここを「オーストリアの猿島」と呼ぶことにしました。それで猿島くらい人気の観光地になったらいいな。
【柳沢有紀夫の世界は愉快!】シリーズはこちら!
オーストリア政府観光局
欧州文化首都バート・イッシュル/ザルツカンマーグート(同観光局)