BE-PAL8月号での紹介記事に加え、Web用にもおすすめの山小屋をセレクト
BE-PAL8月号の特集記事で「シェルパ斉藤が厳選 気楽に行ける涼しい山小屋」と題したページを組んで、7軒の山小屋を紹介した。
選んだ山小屋は次の7軒だ。
☆北海道 大雪山の大雪高原山荘(1260m)
☆長野県 志賀高原の横手山頂ヒュッテ(2307m)
☆長野県 八ヶ岳の山びこ荘(2440m)
☆長野県 上高地の岳沢小屋(2170m)
☆長野県 木曽駒ヶ岳の西駒山荘(2685m)
☆岐阜県 御嶽山の二の池ヒュッテ(2900m)
☆徳島県 剣山の剣山頂上ヒュッテ(1920m)
どの山小屋も標高2000mレベルの高山にあって真夏でも涼しく(大雪高原山荘は標高1260mだが、北海道だから本州の2000m程度に匹敵する)、車道が通じていたり、ロープウェイなどがあったりして無理なく行ける。オンリーワンの個性的な山小屋であることもセレクトの条件に加えた。
誌面の都合と地域バランスを考慮したため、7軒のみの掲載となったが、真夏でも涼しくて気楽に行ける個性的な山小屋は全国にたくさんある。BE-PAL.NETの記事ではバスで行ける乗鞍の山小屋を2軒紹介しよう。
消灯時間なし! 冷泉小屋で大人の時間を満喫
冷泉小屋はあのサラリーマン転覆隊の村田淳一さんが営む山小屋だ。村田さんはクラウドファンディングで寄付を集め、休業状態だった冷泉小屋の再生プロジェクトに着手した。 センスの良さだろう。リニューアルオープンした冷泉小屋は欧州のオーベルジュのように洗練されている。リノベーションされた室内は新築のような仕上がりなのに、以前の冷泉小屋で使われていた梁などの構造材が残っていて歴史も感じさせる。そのバランスが秀逸だ。 ダブルベッドやセミダブルベッド、ツインベッドの個室以外に相部屋のドミトリーもあり、各自のスタイルに合わせて部屋をチョイスできる。
冷泉小屋は夕食のスタイルが一般的な山小屋とは異なる。メニューから選ぶアラカルト方式で、料理の種類が多く、都会のレストラン並みの食事が楽しめる。クラフトビールをはじめ、ワインやウイスキーの種類も多く、優雅なディナータイムが過ごせる。
消灯時間はない。「夜の時間を楽しめるバルのような空間にしたかった」と語る村田さんの思いどおり、従来の山小屋では体験できない大人の時間を満喫できる。
管理人のトークもお楽しみ! 乗鞍白雲荘で山の奥深さを知る
乗鞍白雲荘は畳平のバスターミナルから歩いてほんの2~3分の場所にある。明るく美しい木材で囲まれた建物内部は清潔感があり、受付の壁には乗鞍岳の自然や文化などを紹介した手書きの案内図なども貼られている。小学生でも理解できるやさしい言葉による解説だ。快適なだけでなく、宿泊者を温かい気持ちにさせてくれる。
夕食も豪華だ。A5ランクの飛騨牛を使ったすきやきが食べられるのである。しかも食事中に管理人の小林さんが滑舌のいいトークで乗鞍を解説する。
「乗鞍スカイラインは、戦前に日本軍が山岳航空実験所を建設する目的で軍用道路をつくったことにはじまります。あの鉄人28号は乗鞍研究所で開発した設定になっています」といった雑学や「乗鞍ではホシガラスもよく見られますが、ホシガラスは学習能力が高くて、ハイマツの実がどこにどれだけ成ったか記憶してます」といった話まで、わかりやすく説明してくれる。
さらに各テーブルをまわって、各自が興味ある対象に関する話を掘り下げる。ここは花や鳥、星、写真などを目的に来る宿泊者が多いそうだが、小林さんはどのジャンルにも精通しており、どんな質問に対しても明確に回答する。山の奥深さが実感できる山小屋だ。
シェルパ斉藤、渾身の新刊は山小屋の内部や間取りがよくわかるイラスト付き!
最後に新刊の案内を。
テント泊が得意な僕だけど、じつは数多くの山小屋にも泊まっている。山岳雑誌PEAKSで山小屋の連載を13年間続けたおかげで、全国145軒もの山小屋を泊まり歩いた。
その山小屋連載をまとめた単行本『シェルパ斉藤の山小屋24時間滞在記』が7月17日に発売される。300ページを超える新刊のウリは、全国145軒の山小屋の間取りを描いたイラストだ。
山の地形や自然環境に合わせて建てられた山小屋は1軒として同じ建物が存在しない。それぞれに工夫と知恵がある。その内部や間取りをイラストで描いたらおもしろいはず、との思いから、同行したイラストレーターの神田めぐみさんが秀逸の図解イラスト145点を仕上げてくれた。
一例として、今回紹介した冷泉小屋のイラストをお見せしよう。
山小屋は登頂するための宿泊施設ではあるけれど、僕は非日常を体感する旅の宿として全国の山小屋を巡った。そして建物内部を隅々まで見学して、主人や小屋番たちの話にじっくり耳を傾けた。普通に泊まるのではなく、山小屋の世界にどっぷり浸かった滞在記であり、145軒の山小屋物語でもある。
未経験の読者は「こんな山小屋があるのか」と憧れを抱くだろうし、泊まった山小屋を見て「懐かしい」と山の思い出が蘇る読者もいることだろう。
山を愛するすべての人にこの本を捧げたい。
『シェルパ斉藤の山小屋24時間滞在記』
山と溪谷社 2,750円(税込み)
北海道から九州まで、全国145軒の山小屋に24時間滞在したシェルパ斉藤の最新刊。登頂するための宿泊施設ではなく、非日常を味わえる旅の宿として全国各地の山小屋を描写している。個性的かつユニークな建物である山小屋の立体的な間取りイラストもオールカラーで全軒収録。山小屋大図鑑といえるほどの充実ぶりだ。