入口のモニュメントには「Welcome to the Aboriginal Land of Kakadu National Park」と誇らしげに書かれています。
どうも。オーストラリア在住ライターの柳沢有紀夫です。
【世界遺産「カカドゥ国立公園」旅vol.2】知られざる「天然のプール」で泳いでみた!
ただこの「カカドゥ国立公園」、「アボリジナルの土地」であると同時に「ワニの王国」でもあります。
再び車に戻り、しばらくしてドライバー兼ガイドのデイヴィッドが急にスピードを緩めました。おいおい、またパンクか。そんなふうに心配になったのですが、車は左折して未舗装道路に入っていきます。いや、未舗装というよりも「道なき道」に近い感じ。車は歩くよりも遅いくらいのスピードで進みます。
「この先にある秘密のロックホールに向かうんだよ」とデイヴィッド。「ロックホール」というのは水がせき止められて小さなため池状になった場所です。そこが「天然のプール」になっていてそこで泳ぐというのです。
だけど「秘密のロックホール」? 「うん。さっきのカカドゥハイウェイからこの道に入るのに道標的なものがまったくないでしょ? あとロックホールの名称はLower Ikoymarrawa Fallsっていうんだけどグーグルマップなんかで検索しても表示されないんだよ」。つまりデイヴィドのように通い慣れた人といっしょでなければ決してたどりつけない場所なのです。
駐車場で車を停めて「秘密のロックホール」に向けて意気揚々と歩き始めます。するとすぐにドキッとする看板が目に飛び込んできました。
オーストラリアに棲息するワニには「イリエワニ」と「淡水ワニ」の2種類がいます。特に獰猛と言われているのが体長が最大で6~7メートルにも達する「イリエワニ」のほう。英語では「Saltwater Crocodile」、訳すと「塩水ワニ」と呼ばれているので海に住んでいると思われることも多いのですが、淡水でも生息が可能です。
そんなワニに注意せよという看板です。
この先を3分ほど歩いてたどりついたのがこんな場所。
ではなぜそんな天然のプールにワニがいることがあるのか。それは雨が多くあちこちが氾濫状態になる季節にやってきたワニが、水が引いてもそのまま住みつく、というか取り残されることがあるからだとか。でも雨が減り、氾濫していた水が引いたあと、こうしたロックホールにワニがいないかノーザンテリトリー(北部準州)政府がきちんと毎年調べて、ワニがいる場所は遊泳禁止にするそうです。
私がこのあたりを訪れるのはもう5回目くらいです。で、毎回そういう説明を受けてきたのですが…ふと疑問に思うことがありました。「ねえ、デイヴィッド。その調査って100パーセント信用できるの? 調べるったって水の中まではわからないでしょ? まさかイリエワニがいる可能性がなきにしもあらずのロックホールにダイバーを潜らせるわけにもいかないし」
申し訳ないですが懐疑的になり、疑問をぶつけるのがジャーナリストの仕事の一つです。
するとデイヴィッドの答えはこうでした。「ああ。約1ヵ月監視カメラを設置するんだよ。夜間ワニの目は光るんで、いればそれでわかる。ちなみにワニは肺呼吸する動物だから永遠に水の中にはいられないから、ワニがいればそれで絶対に見つかるはず」とのこと。
シンプルでありながら意外と科学的な方法で調べられていました。
そんな天然のプールでしばし泳いだり、のんびりしたり。外は気温30度でも水はひんやりしています。
ここは有名な観光地ではありません。それどころかグーグルマップにも載っていない知られざる場所です。でもここで過ごした時間は一生覚えているだろうな。そんな気がしました。旅とはどれだけ有名観光地を回ったかではない。どれだけお気に入りの時間を過ごしたかだ。ふとそんなことを思いました。
人間の業の深さを感じる場面も
駐車場横のベンチでサンドウィッチを食べたあと、車に戻ります。道中またデイヴィッドがおもしろい話をしてくれました。
「このあたりでいちばん危険だと思われている動物ってわかる?」「そりゃワニでしょ?」「いや、野生化したスイギュウ(アジアンバッファロー)だよ」
巨体ゆえに運転中に衝突でもしたら車も車内の人たちも無事ですみません。そして本来は温厚な動物なので向こうから好んで襲ってくることはないのですが、彼らが不快に感じる領域までこちらが侵入すれば襲撃してくることがあるそうです。だから見つけてもむやみに近づいてはいけないとのこと。
特に子育て中の母親が攻撃的になりやすいそうですが、それは日本のクマなどと同じです。
ちなみのこのあたりではスイギュウだけでなくウマやウシ、そしてブタも野生化し数多く生息しているとのこと。牧場を経営して飼っていた人たちが廃業するときそのままうち捨てたのですが、オーストラリアにはワニ以外の大型の肉食獣がいません。つまり天敵がほぼ不在の状態で、数が増えたのだそう。
そうした野生化した動物たちが増えることは、オーストラリア固有の種の危機を意味します。そのために毎年数千頭規模で野生化した元家畜たちを射殺しているのだとか。
勝手に連れてきて、うち捨てて…まったく人間ってやつは…。
次の目的地は「Bukbukluk」という地名の見晴らし台。「luk」の部分も別に英語の「lock」から来たわけではなく、たまたまだそうです。
ハイキングコースでもデイヴィッドがいろいろなものを見せてくれます。まずはサンドペーパーリーフ(Sand Paper Leaf)。
学びのある旅はおもしろい!
その後、デイヴィッドが「これを見て!」。その言葉にふとアリススプリングスのガイド氏を想い出しました。彼も元気かな? それはそうと。
「こんな小高い丘の上なのに、川にあるような丸い石があるんだよ。なんでかわかる?」
次に見せてくれたのはオレンジの花。「Fire flower」と呼ばれているそうです。
その名の由来は「まさに火のように鮮やかなオレンジ色だから」です。それと同時に「この花が咲くのを見て、野焼きをする時期になったとアボリジナルたちが認識するから」でもあるそう。
アボリジナルたちは文字を持たなかったので西暦のような数字で表した「暦」はないですが、こうした「花の開花」や「渡り鳥や回遊魚の渡来」などを見て、「何をするべき季節なのか」を判断したのだそうです。
こんな話を聞くたびに「アボリジナルの人たち、すげえ」と思ってしまう私。でも彼らにとってこういうふうに季節を読むのは「あたりまえの常識」。それゆえ白人たちにも伝えてこなかったことが、「未開の民族」と勘違いされ続けた理由なのかもしれません。
アボリジナルの知恵について造詣が深く、かつ非アボリジナルの人間が何に興味を持つか理解して解説してくれるデイヴィッドのようなガイドは本当に重要です。そしてこんなふうに「学び」のある旅は本当に楽しいです。
さてそんなこんなで見晴らし台に到着しました。
優雅な高級リゾートと思いきや…
あちこち回り、あれこれ学んだ長い1日。その日の宿泊は「クイーンダロッジ」というリゾート風の施設です。ここには普通のホテル風の部屋もあるのですが、2023年にオープンしたばかりの「サファリ風常設テント」に宿泊しました。
こうしたグランピングスタイルの常設テントは最近オーストラリアでも流行していますが、ここまで広い部屋は珍しいです。
じつは上記の写真を撮影する前に、私は荷物を常設テントの玄関先に置いたまま「クイーンダロッジ」の敷地内を歩いてみることにしました。普段ならまずは一休みするところですけど、これだけアウトドア感満載の宿。夕闇も近づいている中、急いで回ることにしたのです。
たまたま通りかかったデイヴィッドに声をかけられました。「ユキ。あんまりテントから離れないでね~。特に水辺のほうは」「えっ、なんで?」「ワニがいるかもしれないから」
そう私たちはいよいよワニのテリトリーに入ったのです。次回はワニたちに接近遭遇です!
【柳沢有紀夫の世界は愉快!】シリーズはこちら!
オーストラリア政府観光局
https://www.australia.com/ja-jp
ノーザンテリトリー政府観光局
https://northernterritory.com/jp/ja
クイーンダロッジ
https://kakadutourism.com/stay/cooinda-lodge