きれいなのに嫌われる美人雑草
これまで、黄色い花が印象的なセイタカアワダチソウ、オオキンケイギクという雑草を紹介してきました。どちらも、花はキレイだけど、実は……といういわく付きの雑草でした。今回は、オレンジの花を咲かせるナガミヒナゲシという雑草を紹介しますが、やはり、キレイだけでは終わらない雑草です。
美しいオレンジ色の花が目印
ナガミヒナゲシの特徴は、何といってもオレンジ色が鮮やかな花です。地域にもよりますが、北関東では、3月後半から4月と結構早い時期から花を見ることができます。花びらは光が透き通るくらい薄くて、繊細な感じです。
1年草なので、種子→発芽→成長・開花→種子をつくる……という具合に増えていきます。ちなみに、多年草の雑草は、種子だけではなく株からも再生することから、株を抜き取らないと、毎年、同じ場所から生えてきます。
園芸種なのか、雑草なのか?
雑草か、それ以外かという問題は、毎回頭を悩ませるところですが、雑草は「人の生活圏内に非意図的に生育する植物」とする定義があります。ナガミヒナゲシの場合、わざわざ植えている人は少なく、勝手に増えている(非意図的に生育している)ので、この定義に従えば雑草ということになります。
ただ、ナガミヒナゲシの花が好きで、庭やプランターに植えている人にとっては、園芸種と言えるかもしれません。実際、オークションサイトで「ナガミヒナゲシ」と検索したら、種子が売られていたので、園芸種としての需要があるようです。
日本にはいつやって来た?
「気が付けば、いつの間にか増えていた」というのが雑草あるあるですが、よっぽど意識をしていないと、雑草の増減は分かりません。
ナガミヒナゲシの場合、昭和36(1961)年に東京の世田谷区で生育が確認されており、100年以上前に日本にやってきたセイタカアワダチソウやオオキンケイギクと比べれば、新参者といえます。
そして、ナガミヒナゲシが増加し始めたのは、1990年代の後半と考えられており、今では日本全国に広く分布しています。
急速に増えた理由は?
簡単にいえば、日本の気候がナガミヒナゲシの生育に適した環境に変化したということですが、ナガミヒナゲシの拡大について調査した論文によると、気温の上昇や、降雨量が影響しているようです。具体的には、年間降水量が1000から1800ミリ、25℃以上の日が2から3ヶ月くらいの地域に多いようです。
ただ、「変化できるものが生き残る」という言葉もあるように、ナガミヒナゲシが自らを変化させることで生き残っているのかもしれません。
ナガミヒナゲシは毒があるので要注意!
「美しい花にはトゲがある」ということわざがありますが、ナガミヒナゲシには毒があります。
美しさに潜む危険!アルカロイド成分とは
ナガミヒナゲシには、アルカロイド性の有毒成分が含まれるため、素手で触るとかぶれる恐れがあります。万が一、かぶれた場合は、市販のステロイド外用薬を使用するか、皮膚科を受診してください。アルカロイドは、微生物や植物、動物など様々な生物によって生産されています。
アルカロイドは、一般的には毒物ですが、ナガミヒナゲシと同じケシ科のケシから、強い鎮痛作用を持つモルヒネが抽出されたように、使い方次第では薬にもなります。
ケシの仲間だけど、アヘンの成分を含んでいるの?
ケシ科には、麻薬である「アヘン」の原料になるアツミゲシやハカマオニゲシなどがありますが、これらのケシは法律によって栽培が禁止されています。ただ、花がきれいなことから、誤って園芸種として流通したり、野生化した個体が見つかることもあります。自治体のホームページ(群馬県「栽培が禁止されている「ケシ」の見分け方」)に写真入りで解説されているので、ナガミヒナゲシと少し違う花を見かけた場合はよく確認してください。
なお、ナガミヒナゲシについては、麻薬となる成分は含まれておらず、東京都保健医療局のホームページでも、栽培が禁止されていないケシとして紹介されています。
毒を含むケシ科の雑草
クサノオウ
ナガミヒナゲシは、ケシ科に分類されますが、ケシ科には毒を含む雑草が多く存在します。例えば、クサノオウという雑草は、茎や葉を傷つけると黄色い乳液が出て、皮膚に触れると炎症を起こすことがあります。
クサノオウは、黄色い乳液が出ることから「草の黄」という説や、薬草としての効果があったことから「草の王」という説が存在します。また、
明治の小説家である尾崎紅葉が、胃がんの痛み止めとしてクサノオウを服用したようですが、毒と薬は紙一重で、知識の無いままに服用することは大変危険です。
キケマン
同じくケシ科に含まれるキケマンという雑草にも毒が含まれており、特に根に多く含まれています。その一方で、解毒、解熱、利尿、駆虫といった薬草としての効果もありますが、クサノオウと同じく取り扱いには細心の注意が必要です。
(参考サイト)東邦大学 薬学部付属薬用植物園 キケマン
ナガミヒナゲシは食べられるのか?
ナガミヒナゲシには毒の成分が含まれるので、食用には向きません。念のため、検索してみると……
ナガミヒナゲシ料理
ナガミヒナゲシの本体ではなく、種子を乾煎りしてから食べている方がいました(野食ハンマープライス 要注意外来生物「ナガミヒナゲシ」の種はめっちゃ美味い)。
香ばしく、味は黒ゴマに似ているとのことですが、ナガミヒナゲシの種子の安全性が確認されている訳では無いので、注意してください。
ケシの種子
ナガミヒナゲシではありませんが、ケシの種子には食べられるものがあります。しかも、コンビニでも入手することが可能です。そう、アンパンです!
アンパンの表面に白いツブツブが付いているものがあり、それがケシの種子です。ただ、実際に食べてみると、ケシの実は、アンパンの味にそれほど影響していないような気がします……。
ナガミヒナゲシを犬が食べちゃったら?
道路の脇にもたくさん生えているナガミヒナゲシなので、犬の散歩中に触れたり、誤って食べてしまう可能性もあります。ただ、ナガミヒナゲシの表面に軽く触れる程度ならば、影響はありません。
また、万が一食べてしまった場合には、中毒や嘔吐の原因になるので、獣医師の診察を受けることが賢明です。
基本的に、ナガミヒナゲシはペットが好んで食べる雑草ではありませんが、散歩の際は、足元の雑草にも注意してください。
生態系への影響と駆除方法
全国各地で生育しているナガミヒナゲシですが、急速に拡大したことから、周辺環境に及ぼす影響が気になるところです。
自治体の注意喚起
ナガミヒナゲシを検索すると、多くの自治体のホームページが出てきます。例えば、宮城県の岩沼市、大阪府の寝屋川市、東京都の福生市などが、ナガミヒナゲシの情報を掲載しています。これらの情報は、ほぼ同じ内容で、①素手で触ると皮膚がかぶれる可能性があること、②種子数が多く、繁殖力が強いので早めに駆除することが書かれています。
実は無実?
これだけ、各自治体が注意喚起を促しているので、ナガミヒナゲシは相当やばい雑草だと思われがちですが……特に法律で規制されている訳ではありません(2024年7月段階)。
以前に紹介したオオキンケイギクという雑草は「特定外来生物」に指定されており、生きたままの移動や栽培が法律で禁止されている上に、罰則まであります。
今後、ナガミヒナゲシが「特定外来生物」に指定される可能性もあるかもしれませんが、今のところは可憐なオレンジの花を自由に鑑賞することができます。
種子に注意
ナガミヒナゲシが拡大した理由の1つに、たくさんの種子をつけるということが挙げられます。個体差はありますが、1つの果実におよそ1500粒の種子が含まれます。その果実が、1個体あたり30から50個つけば、4万5000から7万5000粒になります。環境次第では、1個体で15万粒の種子ができる場合もあるため、毎年、もの凄い数の種子が拡散していることになります。
ナガミヒナゲシの種子をゴマと比較すると、種子の小ささがよく分かると思いますが、この種子が風で飛ばされたり、靴の裏にくっつきながら拡大しています。
効果的な駆除方法と手順
強いといわれる雑草にも弱点があります(弱点がないと、世界が全て同じ雑草だらけになってしまいます)。ナガミヒナゲシは、種子で増える雑草なので、種子をつくる前に刈り取れば拡散を防ぐことができます。
花を見てから刈り取っても十分間に合いますが、花が終わると地味な見た目になるため、刈り忘れないように注意してください。また、その際は、長袖に手袋を着用して皮膚を保護してください。