ここでは目にも涼やかな「阿寺ブルー」も見に行ける、長野県・阿寺渓谷キャンプ場で、至福の時を過ごしてきた二人の体験をご紹介しよう。
阿寺渓谷キャンプ場の水辺でリラックスステイ…極楽!
私たちが行ってきました!
「レジャーズ」店主 桜井貴教さん(トップ画像左)
今年4月にオープンした安曇野のアウトドアショップ「レジャーズ」店主。特に軽快なキャンプやロングトレイルに特化した厳選商品を扱う。愛車スーパーカブで来場!
右:アウトドアライター 森山伸也(トップ画像右)
エアコンのない越後の山深い沢沿いに暮らすもの書き。著書に『北緯66.6° 北欧ラップランド歩き旅』(本の雑誌社)。テレマークスキー同人誌『FREE HEEL BOOK』編集長。
市街地との温度差 –4度C
水温 13.6度C
長野県
阿寺渓谷キャンプ場
住所:長野県木曽郡大桑村野尻
電話:070-4228-0881(阿寺ブルー)
営業:4月中旬〜11月上旬
予約:2か月前からキャンプ場予約サイト「なっぷ」にて https://www.nap-camp.com/
テントサイト:30
その他の宿泊施設:0棟
モデル料金:12,400円(川がもっとも近いサイト27の場合)
※モデル料金は、大人2名+子供2名+車1台で1泊利用した場合のレギュラーシーズンの金額です。
電波と電気がないだけで避暑になる!?
車ですれ違うのがやっとの林道を進み、ようやく辿り着いた阿寺渓谷キャンプ場は、電波が圏外だった。しかも電気が通っておらず、街灯は見当たらない。夕方になると管理人さんは「今日は貸し切りです。何かあったら受付の衛星電話で連絡してくださいね」と優しく言い残し、街へと下りていった。「何か」って?渓谷の風と相まって、体が急に冷えてきた。
ここは江戸と京都を結んだ中山道の一部、木曽路の宿場町が点在する木曽川へと流れ込む阿寺渓谷。サファイヤロードと呼ばれる林道のドンツキにあり、標高は765m。上流に民家がないため水の透明度は高く、誰もが「おー」と驚くほど深淵は青い。スマホでやや加工された写真がSNSで広がり、昨今は『阿寺ブルー』と称され国内外から観光客がやってくる。
取材当日も多くの外国人の姿を見かけた。混雑する夏休み期間(今年は7月13日~9月1日まで)は、一般車両の通行規制が敷かれ、入渓には送迎バスを利用することになる。面倒くさい?ご安心を。キャンプ場利用者はそのまま自家用車で阿寺ブルーへ入る特権を得ている。
「電波と電気がないって、それだけで避暑ですねー。こんな希少なキャンプ場があったとは」
安曇野から原付でやってきた桜井くんがスマホをバッグにしまいながらいった。なるほど熱を帯びるバッテリーがないだけで、軽やかでクール。さらに燃費100㎞/ℓのスーパーカブ50という彼の移動手段もどことなく涼しい。数字が表わす気温だけじゃない涼しさは、意外と身の回りに転がっているんだなと場内を散策しながら思う。
キャンプ場の山側から清水が湧き出し、丸太を切り抜いた水槽に注がれあふれている。手ですくってゴクゴクと飲み、ソフト水筒にたっぷり汲む。精肉などが入った段ボールにこいつを入れておけば簡単には傷まない。
予約した渓谷沿いのサイトは、玉砂利が敷かれたヒノキ林の中にあった。水際までは徒歩10秒の好立地。上流からの川風が汗を一気に気化させ、体温を奪っていく。沢の轟に導かれ、河原に下り立つやいなや、顔と腕を洗い、岩でプールをこしらえビールを泳がす。周りを見渡すとチラホラ確認できる流木。これにて幸せな2日間は約束された。
寝床を整える前に腹ごしらえだ。バーナーで湯を沸かし、信州蕎麦をぐつぐつ茹でる。コッヘルを収納してきたメッシュ袋に蕎麦をドバッと開け、沢水で揉む。13度Cに冷やされた蕎麦が喉を走ると、体が内側から冷えていくのがわかる。体がこの土地に馴染んでいくようだ。
「やっぱり渓谷のお昼は麺に限るね。明日はそうめんだね」
DAY 1
陽光が差し込むと深い淵が紺碧に色づく阿寺渓谷。阿寺ブルーと呼ばれ、国内外から観光客が訪れる木曽路の新たな観光名所となる。
肌もキレイになる信州の名水!
山肌から止めどなくあふれる天然水は美顔水といわれる。昔ここで働く山師の奥方が色白美人で、訳を聞いたところ朝夕この水で顔を洗っていたことから命名。
冷たい湧水を入れたソフト水筒は食糧の保冷にも一役買う。たびたび水を入れ替えれば、氷だって必要ない。
13・6度Cの沢水ではビールをキンキンに冷やせないが、麦芽の旨みをじっくり味わいたい人には適温だ。
涼しく過ごすテクも紹介
1.居住空間に風が通るレイアウト
渓谷を上がったり下がったりする空気の動きで涼を得るため、テントの入り口は下流か上流へ向ける。テントは本体がメッシュ地のものを。流木も水の流れと平行にくべるとよく燃える。
2.水温13度Cを体に取り込め!
バーナーで沸かした清水で茹で、沢水でしめた信州蕎麦。メッシュ袋で湯切りと揉み洗いを兼務。ボトルタイプの浄水器があれば沢水をそのまま飲んでもOK。
3.冷めても美味しい食べ物を!
白米とミートボール、キャベツを混ぜ合わせた丼が桜井さんの定番キャンプ飯。保冷バッグと缶ホルダーは化繊綿を封入したネイキッドラボ社のもの。「冷やしても旨い」
4.濡れ手ぬぐい まきまき作戦
手ぬぐいを沢水でたびたび濡らし、首や手首に巻くのが森山の涼テク。頸動脈を冷やすと頭も体もスッキリする。特に盛夏の渓流釣りには欠かせない。
渓流のせせらぎと風に耳をくすぐられて
サイト内にちょうどいい間隔で立つヒノキがあったので、寝床をハンモックとする。ヒノキの葉が青空を覆い、夜露の心配はなさそうだ。タープなしで蚊帳を頭に被って寝ることにする。
陽がどっぷりと暮れ、焚き火とせせらぎが主役となる世界が空から落ちてきた。
「最近、YouTubeで怪談話をよく聞いててさ」
焚き火に照らされたカメラマンの矢島さんが怪談をはじめた。ゾクゾク寒い。僕も一話披露した。
「あ、誰かいる!」
桜井くんが下流のほうを指差した。貸し切りのはずなのに。
「こんばんはー」
差し入れの地酒を手にしたキャンプ場代表の河合さんだった。いろいろな要素が体感温度を下げ、涼しいを通り越して、もはや寒い。ダウン、ダウン。
貸し切りという特別感、同郷桜井くんとの嬉しい再会、美味しい地酒で気づけば24時を回っていた。よし寝るぞ。ハンモックにゆらゆら揺られて目を閉じる。渓谷のせせらぎと風が絶え間なく耳をくすぐる。まるで渓谷をどんぶらこと下っているような爽快感。本流の木曽川へ流れ込み、恵那峡で岩にぶつかり、伊勢湾で太平洋へ。そんな川旅をイメージしていたら夢に落ち、攻撃的な朝日に叩き起こされることもなく気持ちよく寝坊した。
水が美味しい=お酒も美味しい
中山道の旅人に愛される西尾酒造の地酒「美麗水」。冷やすと爽やかな香りととろっとした米の旨みが引き立った。
見上げると樹間に星。耳をすませばせせらぎと薪がはぜる。携帯も圏外。宿泊は僕らだけなのに、近づいてくる足音が。「ケモノか?」とガクブル!
DAY 2
キャンプ場から2.7㎞下流にある赤彦駐車場から吊り橋を渡って阿寺渓谷探勝路へ。往復1時間ほどのゆるい渓流ハイクを楽しんだ。
サンダルを持参すると、さらに涼を感じられる。河原へ下れるポイントがいくつかあって、阿寺ブルーでチャポチャポできるぞ。
ハイクで火照った体を赤彦吊り橋の下でクールダウン。13.6度Cの沢水が速攻で人間の体温を下げ、イワナの活性も上げていた。
阿寺渓谷探勝路にある六段の滝。水量が多く、落差も大きいので吹き下ろす風がすごい。飛沫が舞い上がり、盛夏でも長時間滞在できないほどの避暑ポイントだ。
水辺の虫対策テクも紹介
アブやブヨを遠ざけると噂のおにやんま君。
水気を含んだ流木の煙は蚊除けに。
キャップの上から蚊帳を被る就寝スタイル。
水辺キャンを楽しむコツ
1 水に近いサイトを選ぶべし
2 川風を味方につけるレイアウト
3 水と仲良くなる
※構成/森山伸也 撮影/矢島慎一
(BE-PAL 2024年8月号より)