「現代の人間は、自然の循環の輪からはずれている」
探検家・関野吉晴さん
アマゾン川源流での長期滞在、人類が拡散したルートを人力で遡る「グレートジャーニー」などを行なってきた探検家。本誌で、『現代の冒険者たち』を連載中。
―ずばりテーマはなんですか?
生き物たちの循環です。「持続可能な社会」という言葉がはやっていますが、本物の持続可能な社会を実現するために大切なのは循環で、そこで大活躍するのが、うんこと死体とそれらを食べにくる生き物たち、いわゆる鼻つまみ者たちなんです。
―映画を撮ろうと思ったのは?
私は50年前からアマゾンのマチゲンガ族とつき合っています。彼らの家に泊めてもらって気付いたのは、彼らが出すうんこ、ゴミ、死体がすべて森に還されるということ。それらは虫に食われ、土になり、その土のおかげで植物が育ち、それを動物が食べ、さらに人間が食べてまたうんこをする。彼らは野生動物と同じように自然の循環の輪の中にいるんです。しかし私たち現代人は循環の輪から完全にはずれている。それどころかゴミや死体を焼いてCO2を出しまくっています。だからこそ循環を撮りたいと思いました。
―主役を鼻つまみ者に夢中な3人にしたのは?
私はウジムシやシデムシが愛おしいし、尊敬しています。そういった鼻つまみ者たちの大切さを世に訴えようと取り組んでいるのが、50年間野糞をし続けている糞土師の伊沢正名さん、玉川上水の野生生物と生態系のつながりを調査している保全生態学者の高槻成紀さん、死体食いの生き物たちを描いている絵本作家の舘野鴻さんです。本作では、彼らの活動を通して循環の意味を描いています。
―見どころを教えてください。
野糞をして1か月後、うんこは影も形もなくなって土になっていました。その土を私が食べるシーンがあります(さわやかな味がしました!)。あるいは、たぬきの〝ため糞〟の中のタネを食べるために鳥がやってくるシーンや、64種類もの虫たちが繰り広げる死体をめぐる攻防と協力。…などなど見どころはたくさんあります。多くの方に観ていただき、気付きのきっかけになることを願っています。
『うんこと死体の復権』
(配給:きろくびと)
●監督/関野吉晴
●製作/ネツゲン、クリエイト21
●8/3〜ポレポレ東中野ほか全国順次公開
野糞の重要性を説き続けている糞土師の伊沢さん(写真左)。21世紀に入ってトイレでうんこをしたのがまだ13回という。
糞虫の一種センチコガネ。動物の糞や死体をエサにする。マウスの死体のトラップに大量に出現して、死肉を貪り食べていた。
マウスの死体に現われたヨツボシモンシデムシ。死体を肉団子の状態に加工して土の中に埋め、そこで子育てをしていく。
※構成/鍋田吉郎
(BE-PAL 2024年8月号より)