アパラチアントレイル最終章 ビバルマントラックの旅 vol.020
昨年のインターナショナル・アパラチアン・トレイルで踵を骨折していました。
この箇所が、ここにきて痛み始めていました。なんとなく足首も全体的に腫れているように見えます。
この区間は、1日に長く距離を歩かなくてもよかったので、早めにシェルターに入り、プラティパスに水を入れて冷やしていました。
そして寝る前にタイガーバウム(温感タイプ)を痛む箇所や熱のある場所に塗り、ファーストエイドの中に入れた三角巾で踵を巻いて寝ていました。
傷みには前兆があったので、あらかじめ町でアスピリンを購入し、飲みすぎないようにコントロールしながら服用していたのです。きっと、急がなくてもいいこの行程が、足には良かったのかもしれません。
オーストラリア人のカップルはMSRのストーブを使っていました。燃料は何を使っているのか尋ねると、シェルライトだと教えてくれました。「それは何?」と聞くとアメリカでいうコールマンフューエル(いわゆる日本でいうホワイトガソリン)だと。話を聞くとカップルの男性は、アメリカ人でオーストラリアに移住してきたそうです。オーストラリアでは、シエルライトがコールマンフューエルに相当するそうで、ホームセンターには必ず置いていて、1Lで10ドルほどだそうです。
なるほど、ガソリンもホワイトガソリンも、国が違うと呼び名が変わる事が完全に頭から抜けていました。
彼がアメリカ人で良かった。英語も聞きやすいし、ホワイトガソリンの問題も解けた。ホワイトガスも無いはずがないと思っていたのに、まったく出会えなかった…。店員さんも燃料ボトルを見せたり、使用用途を話しているのだからだいたい察しがついていたのではないかと思うんですけどね。
そして、ノースクリフの町を過ぎたところから、やっとひとりの歩みは始まりました。
このエリアは、ペンバートンからウォールポールまでの9日で予定を組んでいました。しかしまだ、半分ほどの地点にいるので、予備日として取ってある3日はそのまま後半にあるコーストエリアの不確かなルートのためにとっておきたいと思っていたのです。
そんなこともあり、ノースクリフからはちょっと無理をしないといけないスケジュールの日が1日残っています。
それをいつ決行するかが問題でした。ノースクリフを出て2日目、僕はこの日先に進もうと考えていましたが、湖近くの湿地帯エリアのぬかるみと川のようなトレイルに手を焼いていました。
ブーツを持って1時間。時には股下ギリギリまでの水を渡ります。湖手前のシェルターにたどりついた時、足の痛みで気力がなくなっていました。
この先も、同じような状況に見えたからです。今日42km行くか? 明後日に43km歩くか? それが、ダブルハットする一番短い距離の行程でした。
足の痛みを考えると、今日は足を休めた方がいい。無理をしないと決め、シェルターでゆっくりしていると急に雨が降り出して、それが暴風雨に変わり、翌日の朝はシェルターの半分が濡れている程の激しさでした。幸い、夜中の暴風雨で目が覚め、すぐに雨のあたりにくい場所へ移動していたので事なきを得ました。
翌日もやはりトレイルはかなりの距離が水の中でした。ガイドブックでは見ていたのですが、この季節にまだこれだけトレイルに水が残っているのは、やはり異常気象の証拠かもしれません。
毎日のようにサンダルで水の中を結構な距離を歩いているせいか、足の痛みは随分少なくなってきていました。次の日も後半の1時間はほぼ水びたしのエリアでしたが、炎症が収まったのか足の痛みもなく、43kmを午後3時半には歩き終えていました。すると、シェルターにはなんとロンがいたのです。ウォールポールで歩き終える予定だと話す、同じ方向に歩く女性もいて久々に会話をしながらシェルターで過ごすことになりました。「MASA電波が入る場所を見つけたよ、来いよ!」ロンはいつも知らない間に携帯の電波の入る場所を探してきてくれます。3人でシェルターの裏の山を登って開けた場所に出るとびっくりするほど電波状況がいい! しかし強風が吹き付ける寒さ…。そして見晴らしの良いこの場所からは、これから歩くだろうインド洋がうっすらと見えるのでした。
明日、Mtカレンに着けば、明後日の午前中にはウォールポールに着く。そしてもうすぐシーサイドエリアに入ります。
つづく
【Profile】斉藤正史
山形県在住
LONG TRAIL HIKER
NPO法人山形ロングトレイル理事
トレイルカルチャー普及のため国内外のトレイルを歩き、山形にトレイルを作る活動を行う。
ブログ http://longtrailhikermasa.blog.fc2.com/
山形ロングトレイル https://www.facebook.com/yamagatalongtrail