ユーザーが次に買うクルマに求めること、第1位は?
ホンダのコンパクトミニバン「フリード」がフルモデルチェンジしたので、横浜の一般道と首都高速道路で試乗しました。
フリードといえば、先代のフリードが発表された時に開発陣諸氏と交わした言葉が今でも強く記憶に残っています。
「フリードを開発するに当たって、最初に取り組んだのは想定するオーナーさんの話を聞くことでした。“次に買うクルマには、何を求めますか?”と、多くの人たちに訊ねたのです。具体的な質問として、“あなたはショールームにクルマを見に行った時に、スタッフに何を最初に質問しますか?”と設定しました」
つまり、現実にフリードを買う気があって、購入後に重要となるであろう機能や装備などを確認しておきたいということになります。
開発陣は手分けして、フリードを買ってくれそうな人たちに全国規模で質問を重ねた結果、1位の回答は、2位を大きく引き離した意外なものでした。
「結果には、私たちも驚きました。フリードを購入対象と考えているお客様からショールームで最も数多く寄せられた質問というのが、“このクルマって、スマホをつなげられますか?”だったのです」
僕がこれを聞いたのは8年前のことですから、調査自体はその前に行われていました。その頃でも、すでに自分のスマートフォンをクルマにコードで接続し、音楽を再生したり、地図をカーナビに映し出したりすることは可能でした。
現在は、AppleCarPlayやAndroidAutoなどを用いて、もっと多くのスマートフォン内のアプリをクルマで活用することができます。接続も、クルマによってはコードが不要となり、Bluetooth接続できたりします。
「フリードの購入を検討してくださっているお客様は若い方々がほとんどなので、車内でもスマートフォンを使いたいという要望がとても強いのだと知って、我々も驚かされました」
若い世代であればあるほど、“車内でも車外と同じようにスマホを使いたい”、“限られた機能だけでも車内でスマホが使えるクルマがあると聞いた。機能が限られるのは仕方がないけど、使えないなんて考えられない”と考えているわけでした。
理解できます。生まれる前からインターネットが存在していたわけですから。
僕ら中高年が若い時に同じ質問をされたら、きっと“このクルマって、最高速は何キロ出ますか?”とか、“このクルマの燃費はどのくらいですか?”と訊ねていたことでしょう。
それだけ、時代によってクルマに求めるものが変わってきているということです。アタマではそう理解していたつもりですが、この“このクルマって、スマホつなげられますか?”という質問がダントツの1位だったという事実の持つ意味の重さに感じ入ってしまったのです。社会とユーザーの変化について、ここからさまざまなことを派生して想像できるのではないでしょうか。
また、顧客やマーケットが何を求めているかに真摯に耳を傾け、そこで見聞きしたことを予断や偏見なく受け入れた開発陣の素直な姿勢にも僕は大きな拍手を送りたくなったのです。
自分の開発リソースを120%製品に込めたがるエンジニアは、その“自信”が往々にして一方通行になりがちです。熱意は冷めにくいからです。それが良い結果をもたらすこともありますが、フリードのようなさまざまなユーザーの日常的な用途での使いやすさや満足感などを実現するためには、一方通行ではなく、ユーザーに寄り添い、眼を見開いて、耳を傾ける双方向からのアプローチが大切なのだと思います。
だから、そこから8年を経過してフルモデルチェンジされたフリードには大きな期待を抱いていました。
キャンプの荷下ろしにも便利な介護対応モデルがある!
新型フリードの開発で重視されたことは、三つありました。
- 日常
- レジャー
- 介護
この三つです。日常とレジャーは先代フリードと変わりませんが、そこに介護が加わりました。介護は重要です。
新型フリードには、「AIR」と「CROSSTAR」の2グレードが設けられましたが、CROSSTARに設定された「CROSSTAR スロープ」では、スロープと電動ウインチを使って車椅子ごと乗車することができます。
ホンダ以外のメーカーで造られているクルマも含めて、従来は車椅子で乗車するためには車検証の改造申請が必要で、そのためにディーラーが陸運局に1台ごとに申請に行かなければなりませんでした。
しかし、新型フリードCROSSTARスロープでは改造申請が不要な型式指定という認証をホンダが取得しました。これによって、ディーラーの負担が減り、販売しやすくなります。販売しやすくなれば、顧客も注文しやすくなり、介護にクルマを使いやすくなります。望ましい循環が起きて、少しでも介護の負担が減らすことができたら素晴らしい。他のクルマの良き見本となって広がっていってもらいたいと思います。
新型フリードに設定された福祉車両は「CROSSTAR スロープ」だけでなく、「CROSSTAR リフトアップシート」も用意されています。
助手席のシートを電動で上下、回転させることができます。車椅子の高さに近付けられるので乗り降りしやすくなります。
高齢化社会に突入しつつある日本では、介護が社会的に大きな課題であることはここで改めて指摘する必要もないほどです。新型フリードに2モデルも福祉車両が用意されているのは、そうした社会の変化を捉えているからでしょう。
スポーティな走りとか流麗なスタイリングとか、クルマは派手な夢の象徴ですが、一方では社会を支える移動手段でもあります。介護に用いられる福祉車両に派手さはありませんが、移動手段として無くてはならない存在です。
地味な存在ながら非常に重要な福祉車両として用いられる新型フリードを使いやすく改めたことを評価したいですね。世の中と顧客の変化を受け止め、それを製品に速やかに反映してきたフリードの姿勢は新型でも保たれていました。
新型フリードを運転してみた印象と気になった点
では、実際に運転したみた仕上がり具合はというと、手堅さを最初に感じました。AIRとCROSSTAR双方のハイブリッド版を1時間ずつ試乗しました。
どちらでも気になってしまったのは、エンジンが回転している時のうなり音の大きさと、掛かるタイミングを把握しづらいことでした。
ホンダ独自の「e:HEV」というハイブリッドシステムは、登場した時はライバルに優っている点が多かったのが、今となってはライバルたちの進捗の著しさが目立っています。
特に、日産のハイブリッド「ePower」はエンジンが掛かって発電するタイミングをクルマ側が見極める賢さを備えていて、静けさを保ってほしい赤信号などの停車時には掛かりません。その巧みな制御に驚かされるくらいです。フリードのe:HEVのパワー感などは申し分ないのですが、新鮮な驚きには及びませんでした。
運転支援機能のLKAS(レーンキーピングアシスト)は、効く時と効かない時の違いがわかりにくく、効いても効き方がモッサリしています。この点は、以前にホンダの別のクルマでも感じた通りで変わっていませんでした。
後席向きのエアコンの吹き出し口は、フルサイズのものが三つ備わっており、温度調節も独自に可能な点も配慮が行き届いています。
シートのクッションが柔らか過ぎて、長時間や長距離の利用では確実に上半身を支えてくれないのではないかとも感じました。
何のための音声入力?
また、音声入力でカーナビの目的地設定やラジオの選局、エアコンの温度設定などを行おうとしたところ、「運転中は安全のために音声入力を使うことができません」とセンターモニターパネルに表示が現れました。
では、何のための音声入力なのでしょうか?
これまでのようにパネルなりスイッチを指で触って操作する代わりに、安全のために音声で操作するわけなのですから、これでは意味がないのではないでしょうか?
念のために開発者に確認すると、これは不具合ではなく、「そういう考え方、仕様になっている」とのことで唖然としました。
Apple CarPlayやスマートフォンのBluetooth接続などもいろいろ試しましたが、時間内には一度もできませんでした。
メーターパネルも実質的な表示面積がケースの大きさの割に小さかったり、切り替えの手間が多かったり、以前のものと変わり映えがしません。使い慣れている人にはすぐに使えて良いのかもしれませんが、他車はもっと大きく見やすく、操作しやすくと先に進んでしまっています。
手堅さを感じたと前述しましたが、表現を変えればフルモデルチェンジならではの目新しさを感じなかったとも言えます。介護用途に着目して重視したところは非常に素晴らしいのですが、それ以外でホンダらしい才気や発想の新しさなどを見付けにくかったのが残念でした。