はくちょう座もわし座もゼウスの化け姿
夏の大三角は、こと座の1等星ベガ、わし座の1等星アルタイル、はくちょう座の1等星デネブの3つを結んだ三角形です。8月半ばになると、東の空高く昇った大三角が見られます。
夜中になると、天頂近くに雄大な十字形をしたはくちょう座が見られます。ギリシア神話のエピソードでは、大神ゼウスが化けた姿とされています。今回はゼウスの関係者に注目して、夏の夜空を楽しんでみましょう。ギリシア神話のゼウスは数え切れないほど愛人をもち、また数え切れないほど子どももいて、その家系図は複雑きわまりなく、その周辺を含めると夜空はゼウス関係者で一杯になります。
はくちょう座の白鳥は、ゼウスがスパルタの美しい王妃レダに近づくために変身した姿だとされています。そしてゼウスとレダの間にできた子どもは男の子の双子と女の子の双子。このうち男の子の兄はカストル、弟はポルックス。ふたご座の男の子たちです。カストルがスパルタ王の人の血を、ポルックスがゼウスの神の血を受け継いだとされています。
夏の大三角の一角、わし座もゼウスが化けたものです。ゼウスの愛人は美しい女性だけではありません。美少年も大好きです。鷲に化けたのは、トロイの美少年ガニメデをさらうためでした。ガニメデにお酌してもらいたかったからというのですから、ガニメデもいい迷惑でしょう。
ローマ時代五賢帝の勉強にもなるわし座とアンティノウス少年
現在のわし座の絵には鷲の姿しか描かれていません。しかしローマ時代には、鷲が足でしっかり美少年を掴んで運ぶ姿が描かれた絵が残っています。
わし座が運ぶ少年はローマ時代につけ加えられたものです。そして、この少年はガニメデではなく、ローマ帝国の皇帝、ハドリアヌスが愛してやまなかったアンティノウス少年とされています。
なぜ、ゼウスが化けた鷲がアンティノウス少年を運んでいるのでしょうか?
ハドリアヌスは1世紀から2世紀に在位した五賢帝と呼ばれる帝王のひとりです。彼が寵愛していたアンティノウス少年は、若くして亡くなっています。それを嘆き悲しむハドリアヌスを慰めるためかどうか、アンティノウス少年の星座が、わし座の下のスペースに作られたのではないかと推測されます。
わし座の南側には明るい星がなく、ぽっかりと空いています。ここにアンティノウス少年のスペースが作られたようです。そんなわけで、わし座本人のゼウスが見も知らぬアンティノウス少年を運んであげるという奇妙な絵が出来上がったのではないか。
ゼウスは神話ですが、ハドリアヌスは実在した皇帝です。五賢帝のちょうど真ん中になるハドリアヌス皇帝の在位は117年〜138年。この後、二人の皇帝が在位しますがこの頃からローマ帝国の勢力は徐々に衰えていきます……。こんなふうにローマ時代の歴史に触れられるのも、星座の懐の深いところです。
ところで、ゼウスがさらったガニメデ少年はどうなったのかというと、みずがめ座と結びつけられて、現在に至ります。アンティノウス少年が消えてしまったのとは対照的です。
そんなわけでペルセウス座流星群の夜空を見上げると、はくちょう座とわし座で、ゼウスがふたり。みずがめ座のガニメデ青年。西の方角に傾きつつあるヘルクレス座はゼウスの子ども。そして夜中の2時ごろには、これまたゼウスが化けたおうし座が昇り、3時になると、ゼウスの子ども、ふたご座が昇ってきます。
8月13日の未明、ペルセウス座流星群の見ごろを迎えます。ペルセウス座が高く昇るほど、見られる流星の数も増えます。4時には薄明が始まりますので、見ごろは夜中の3時くらいでしょう。流星は全天どこからでも流れるので、ペルセウス座を中心に、なるべく広い視野を確保するのが多く観察するコツです。流星群を楽しみながら、ゼウスをめぐる愛人や子どもたちの系譜もお楽しみください。
構成/佐藤恵菜