『深海世界 海底1万メートルの帝国』
深海はラストフロンティア。アビスの楽園に迫る脅威
スーザン・ケイシー著 棚橋志行訳
亜紀書房
¥3,080
その昔、怪物がひしめく場所として恐れられてきた深海の世界。映画にもなった沈没船タイタニック号や全長15mにもなるダイオウイカなど、深海にまつわる発見やストーリーは今も未知と不思議にあふれている。深海の定義は水深200m以深の海域。地球表面の約65%を覆い、なんと海洋空間の約95%を占めるという。我々日本人に海は身近な存在だが、普段見ているのはほんの一部に過ぎない。
海底にはヒマラヤ山脈をひっくり返したような海溝があり、奇妙な姿をした生き物たちがいる。頭の透き通った魚や光を点滅する幻想的なクラゲ、大きな目玉と牙剝き出しのホウライエソ。そして、深海の堆積物には類まれな生命が満ち、既知の分類に当てはまらない生物も多いと、近年明らかになってきた。新種ではなく生命の樹の全く新しい枝もあるというから心躍る。
だがそんな深海には豊かな金属も眠っている。深海採鉱が進みつつあり、深淵の開発事業が環境や生物に与える影響は大きいと研究者たちは警鐘を鳴らす。著者も開発を推進する背景や事業者の実態を詳らかにし、海を守ろうとしている。深海は一体誰のものなのか?
深海の歴史、存在の大きさ、未来……。うだる暑さの盛夏、深海の世界にどっぷり浸ってみては。
『おひとり農業』
自給農で生き抜く術を身に付ける!
岡本よりたか著
内外出版社
¥2、200
「食べるものの一部でいいから作ってみてほしい」著者のそんな思いで綴られた本書は、農業の根源を探れる指南書。そもそも土って何?野菜って何でできてるの?水はどうやって自然の中を巡っているの?
第1章は縄文時代の話からスタート。自然の摂理に倣い、数々のそもそもを知ることで、野菜作りの根幹をまずは捉えるところから。タイトルには「おひとり」を冠しているものの、決して孤独が趣旨ではない。「買う」の一択だったものが「作る」ことで選択肢が増える。ひいては自分で食べ物を作れるという自信は暮らしやすさにつながると著者が背中を押す。
※構成/須藤ナオミ
(BE-PAL 2024年9月号より)