水難事故の半数は河川!?流されても溺れない川の危険回避術
令和5年の水難事故の発生件数は、1392件。そのうち死者・行方不明者は743人で、発生場所は海が49・5%、河川が33・4%。ただし、中学生以下の場合、河川が59・3%と半数以上を占めている(※)。
「川のいちばんの危険は、流されて溺れることです。それに備えるためには、まず、ライフジャケットを着用しましょう」
とは、リバーガイド歴30年以上のパイオニア、加藤哲也さん。子供の付き添いだからと油断せず、大人も子供も適切な浮力&サイズのものを正しく着用することがポイントだ。
「基本ベスト型で、頭の重さ以上の浮力が必要です」
次に大切なのは、正しい流され方を知っておくこと。
「流れがあると水圧でなかなか立てません。また、元の場所に戻るのも困難な場合が多いです。ホワイトウォーター・フローティング・ポジションをとり、流されながら流れの先にある着岸点を素早く探します」
ライフジャケットを着ていれば、流れの緩やかな場所を探し、上図のようにディフェンシブスイミングで必死に泳ぐといい。また、遊ぶ場所としては浅く、流れが弱く、足元が見える場所がオススメ。
「強い流れや急な深みのだいぶ手前で、大人が安全を見守るバックアップがとても大切です」
※警察庁生活安全局生活安全企画課の統計データより。
教えてくれた人
グランデックス 代表 加藤哲也さん
埼玉県長瀞や東京奥多摩をベースにラフティングやキャニオニングなどのツアーを企画。
参加者に川の楽しさと安全対策を広める。ODグッズや防災用品の販売も手がける。
川の危険から身を守るポイント3
1 何はおいてもライフジャケットを着用
適切な浮力、適切なサイズが必須。ライフジャケットは海・川・湖共通!
固型式と自動膨張式があるが、川や湖、海などのレジャーで常時水に入る場合は固型式が最適。子供は股下ベルトを確実に締め、体にフィットさせる。垂直方向に引っ張って、ずり上がらないか確認するといい。
左:浮力4〜5kg以上
右:浮力7.5kg以上
2 ホワイトウォーター・フローティング・ポジションを知る
立たずに流され、流れの緩やかな場所へ
ホワイトウォーター・フローティング・ポジション
足や体が水中の障害物に引っかからないよう、ひざからつま先を水面に出し、両手を広げた漂流姿勢。浮力を確保しつつ動水圧から身を保護できる。
フェリーアングル
流れに対して直角に泳ぐと簡単に流されることがある。そのため、流れに対し上流側に斜め45度程度の角度をとると、推進力と流れの力が合わさり、効率的に岸へ移動できる。
ディフェンシブスイミング
足を下流側に向けたホワイトウォーター・フローティング・ポジションのまま、両手でバ
ランスをとり水をかく泳ぎ方。余裕があればうつ伏せになり、クロールなどで一気に泳ぐ。
3 安全を常に見守るバックアップ
大人は下流側で子供をバックアップ
子供を川で遊ばせる場合、大人もライフジャケットを着用し、子供が流されることを想定し、川下側にいる。浅い場所で流れて遊び、受け止める練習をしておくといい。
熱中症&低体温症にも要注意。海&湖の危険は観察眼を養うことで脱出可能!
「海の場合、とくに注意するのは風と潮の流れです。風向きにも注意が必要で、沖向きの風では風速2m/sでも大人が流れた浮き輪をキャッチできないほどの影響があります。風速8mともなれば、白波が立ちますし、湖でも湖面の表情が変わります。海水浴場であれば、遊泳禁止と出たら泳がないこと。管理された海水浴場が安全安心です」
長年、海水浴場でパトロールを行なってきた田村さんは話す。
「登山に行くのと変わりません。現地の気象状況を調べ、出かけるときは、家族や知人に知らせる。もちろん装備も大切です」
海水浴場や湖でもライフジャケットはいまや必須だ。
「泳げると溺れないは別。泳げるから大丈夫、という過信が事故につながります。プールで泳げても、自然環境の中だと、何が起こるかわかりません」
沖に流されてもライフジャケットを着ていれば視認性が上がり、流されても体を保温でき、衝撃からも守ってくれる。また、離岸流が起こりやすい人工物にも近寄らないこと。秒速2mで流されるため、自力で戻るのは不可能。慌てず、いったん岸と平行に泳ぎ、沖に向かう強い流れから脱出する。湖は急に深くなるので、水底を要チェック。
「誰かが見ていることが重要です。ひとりで行かず、子供からは目を離さないのが鉄則です」
教えてくれた人
日本ライフセービング協会
指導員
田村憲章さん
サーフィンやパドリングスポーツが好きで、20年前からライフセーバーを務める。『銚子 KAYAKS』では初心者向けのカヤック体験などを開催。
海&湖で安全に遊ぶための三か条
1 情報 天候、気温、波の高さなど現地の情報を仕入れる
2 周知 誰とどこに出かけるかを家族に伝える
3 装備 ライフジャケット、ウォーターシューズ、ホイッスルは必携
1.アクティビティー中に流されたら118へ連絡
アクティビティー中に流された場合や、事故を目撃した場合は、海上保安庁の「118」に通報を。携帯のGPSが位置情報を知らせてくれる。
2.岸流は沖に向かう流れのことで、海水浴場における溺水事故の約50%が離岸流によるもの。堤防沿いなどは発生しやすいので入水しない。
3.溺れている人には浮力のあるものを投げ入れる
クーラーボックスやペットボトルなど、浮き具の代わりになるものを投げ入れる。仰向けで抱えるか、脇に1本ずつ挟んでもらい救助を待つ。
4.足場が滑りやすい岩場は裸足厳禁
岩場は足場が滑りやすく、貝の殻などでケガをするので爪先が隠れるウォーターシューズを履くこと。遊泳区域の外ならなるべく水に入らない。
5. 流れが複雑な河口付近では遊ばない
河川の流れと海の流れが入り混じり、流れが複雑。海底の地形が変わりやすく、潮の満ち引きにより水深も大きく変わるので立ち入るべからず。
6.意外と気づきにくい熱中症に注意
水に入っていると汗をかいているのに気づかず、知らない間に熱中症になっていることもある。時間を決め、30分に1回は水分補給をしよう。
7.子供からは目を離さず、見守ること
小さい子供は、突然、波に足をとられたり、深みにハマってしまうことがある。水辺では大人はKeep Watchを心がけ、子供から目を離さない。
8. 寒くて凍えそう……は、低体温症のサイン
風が強い海上では、体が冷えて低体温症になることも。そんなときは濡れた服を脱いで乾燥したもので体を包み、温かいものを飲むなど保温する。
9.浜辺に打ち上げられた生き物には触らない
ウニの仲間や浜辺に打ち上げられたクラゲは触手に触れると刺されるので、無闇に触らない。刺されたらすぐに病院へ行き、手当てしてもらおう。
10.海の掲示板は入水前に確認
インフォメーションボードには、その日の気温や潮流、波の高さなどが書かれているので、必ずチェック。ライフセーバーに聞いてもいい。
レスキューされた要因は?
全国220か所の海水浴場で集計したところ、昨年のレスキュー総数は416件。要因は右に挙げたとおり、流されることがほとんどなので、とくに離岸流には注意が必要。ライフジャケットを着用していれば浮いて救助を待つことができる。
●離岸流に流される
●風に流される
●沿岸流に流される
●波に巻かれる
●陥没・急深にはまる
※構成/大石裕美 イラスト/近常奈央 撮影/早坂英之
協力/日本ライフセービング協会 https://jla-lifesaving.or.jp/
(BE-PAL 2024年9月号より)