甲虫採り基本のき。生態を理解すれば必ず採れる!
「カブクワ(カブトムシ&クワガタ)採りには自然遊びの基本が全部詰まっているよ。今も最高の遊びだけど、昔ほど簡単じゃない。頭を使わないとね」
こう語るのは本誌でもおなじみの野遊び名人、奥山英治さん(ハローウッズ・スタッフ)。
難しくなっている原因のひとつは、カブクワが好むクヌギやコナラ林の老化だ。以前は炭を焼くため定期的に伐ったり、集めた落ち葉を積み上げ堆肥を作ったりしていたが、そうしたことが行なわれなくなっていった。
「カブクワの集まる樹液は若い木のほうが出る。老木は樹皮が厚いからか、あまり樹液が出ないんだよね」と奥山さん。
周辺農地で長年使われてきた農薬の影響も無視できない。そもそも樹液はなぜ出るのか?
「カミキリムシやボクトウガの幼虫が幹に穴をあけるから。傷から糖を含む樹液がしみ出るわけだけど、きっかけを作るこういう虫も減っている気がするね」
異常気象や幼虫を食べるイノシシの増加なども重なり難しさを増すカブクワ採り。だが、生態を理解すれば必ず採れる。ハナからあきらめずまずは挑戦だ。
樹液はシロスジカミキリなどがあけた穴からしみ出す。発酵臭に誘われたスズメバチなどが傷口を広げることでカブクワも集まる。
ポイント 1 昆虫酒場を探せ!
樹液はなぜ出る?
強いあごでかじって傷口を広げるスズメバチは、いわば酒場の呼び込み屋。
シロスジカミキリなどの幼虫があけた穴からしみ出た樹液は糖を含み、野生の酵母や酸生成菌により発酵。生じたアルコールや酸のにおいが、カブクワをはじめさまざまな昆虫を呼び寄せる。
クワガタのメスは小さなアゴで自ら樹皮を傷つけ吸液する。そのため、樹皮が薄い枝に集まる傾向がある。
甲虫に人気の樹木ベスト7
最近、NHKの自然番組で話題になったのがシマトネリコに集結するカブトムシの謎。"樹皮が薄くカブトが自力で傷をつけて樹液を出せるため"が答えだ。
◉クヌギ
◉コナラ
◉ヤナギ
●ハルニレ
●シマトネリコ
●シラカシ
●サイカチ
※◉はよく集まる。 ●は比較的集まる。
クワガタ限定の技 いなかったら蹴ってみる
幹から樹液が出ていなくてもあきらめないこと。クワガタは前述のとおり、高い枝にいる確率が高い。かかとに力を入れて幹を蹴ると、振動に反応して落ちてくる。
クワガタは危険を感じると脚を縮め落下する(カブトムシは落ちない)。落ちた場所をよく見ておいて拾おう。
1本の木を蹴っただけでこんなに落ちてきた(ノコギリクワガタ)。「蹴りは思いきりね。練習もしておこうぜ」(奥山さん)
涼しい地域に多いミヤマクワガタ。「最近減ってる気がする。温暖化の影響かな」
ポイント 2 産卵場所を狙え!
カブクワの場合、餌場と産卵場が近接している。
「樹液の出る木と同種類の枯れ木があればそこにもいる可能性が高い。カブクワの幼虫は菌類が分解した木質や落ち葉を食べる。羽化する場所と産卵場所がほぼ同じで見つけやすいよ」
クワガタは枯れ木や倒木を産卵に利用する。カブトムシはさらに分解が進んだ朽ち木や腐葉土に卵を産むので、幹だけでなく地面もチェックし、ピンときたら掘ってみよう。掘った後はそのままにせず、元のように戻しておくのがマナーだ。
朽ち木がボロボロになったところを調べるとカブトムシの幼虫の糞が。
棒で掘ると幼虫や成虫が出てくることも多い。
タマムシはサクラ、エノキの木の下で待て!
一度はこの手で捕まえてみたいあこがれの甲虫。それが全身虹色に輝くヤマトタマムシ。
「タマムシの成虫はカブクワと違って生の葉っぱを食べるんです。好んで食べるのがエノキやケヤキ、サクラの葉。よく晴れた日はメスを求めてオスが飛び回るので、そうした木がチェックポイント」
オスは光に反射するメスの背の色を探しているんだそう。
成虫が好む木の近くに同種の倒木や薪があれば、そこも狙い目。「メスが卵を産みに来ます。羽化のタイミングでも出会えます。伐って2年以内の新しい枯れ木が好みだね」
ポイント 3 夜に出撃せよ!
樹液を確認できたのに出会えなかったら、出かける時間帯を変えてみよう。奥山さんはいう。
「カブクワって基本は夜行性なんです。朝や昼にも樹液にいるのは、朝までだらだら酒飲んでるおっさんみたいな個体だね」
確実にモノにしたければ夜の出撃が正解だ。あたりが夕闇に包まれると、雑木林のあちこちからブーンと重い羽音が響き始める。カラスなどの外敵を避けて身を潜めていたカブクワが樹液を求め活動しだした合図だ。
3時間前には何もいなかったクヌギの幹にカブトムシのオスが来ていた。樹液に夢中で人の姿など眼中になし。ついにはケンカまで始める始末!
街灯の下も穴場。夜飛ぶ昆虫は月をナビにして方位を把握する。街灯に集まるのは月と錯覚してしまったため。
発見者に懸賞金を出す地域も
クビアカツヤカミキリってどんな虫?
最近、自治体の広報誌にお尋ね者として登場するようになった甲虫がいる。ユーラシア大陸東部が原産のクビアカツヤカミキリだ。体長は3㎝前後。名前のとおり、光沢のある黒いボディーと赤いマフラーのような首の色が特徴だ。2012年に愛知県で初確認されて以来、全国各地で相次いで見つかるようになった。繁殖力が強く、幼虫はサクラ、モモ、ウメなどバラ科樹木の幹の中で2~3年過ごす。その間の食い荒らしにより木は衰弱・枯死する。バラ科樹木は街路樹や果樹としてまとまって植えられていることが多いため、被害が急拡大しやすい。
在来昆虫や自然植生への影響もさることながら、地域の農業や古くから憩いの場となってきた桜並木への悪影響が懸念されている。決め手は早期発見だ。「成虫の姿や幼虫が出すフラス(糞が混じった木くず)を発見したらすぐに通報を」と、報奨金付きで広報する自治体も増えてきた。
クビアカツヤカミキリは、2018年に有害性の高い種(厳格な管理が必要な種)として特定外来生物に指定され、採集後の持ち出しや飼育などが禁止されているのでご注意!
見つけたらまずは自治体の窓口(環境・農林関係)に連絡を。外来生物対策の決め手は早期発見だ。
ここで…クワガタクイズ!
Q 向かって左はコクワガタ。では右のクワガタの名は?
↓
↓
↓
A
正解はスジクワガタ。コクワガタもスジクワガタも小型種で、普通なら特徴の違いがはっきりしているオスどうしを比べても似ていてわかりにくい。
識別点はいろいろあるが、わかりやすいのは大あごの内側だ。小さな内歯が1本、または無ければコクワガタ。複数の内歯が癒合していればスジクワガタ。
※取材協力/ハローウッズ(モビリティリゾートもてぎ内)
※構成/鹿熊 勤 撮影/柳澤牧嘉 写真提供/永野裕(一般財団法人自然環境研究センター):クビアカツヤカミキリ、奥山英治:タマムシ
(BE-PAL 2024年9月号より)