北海道の海に陶酔した7月
これまで幾度となく北海道をライブツアーで旅してきましたが、今回2024年7月ほど北の大海原での波乗りに没頭した旅はありませんでした。いやもうマジやばかったです、波も、それぞれのロケーションや雰囲気も。近頃の高校生風にいうと「エグかった」です、ほんと。
もちろんね、本分であるライブあってのサーフィンですし、いったいあんたは何しに北海道(しかも大半は僻地)まで行ってるのかと問われれば「当然仕事です」と迷う事なく即答できるのですが、こんなにも波が良いとね、やたらスイッチ入ってしまってついつい海へと寄り道してしまいます。
まあそれは兎も角、今回もまた北海道の僕の旅をいつものように並走してくれるカメラマン、Abechanの写真を交えながら、日本の北の大地に届けられた波のお話とそれにまつわるエピソードをお送りしたいと思います、はい。
Abechan のインスタグラム
https://www.instagram.com/the_day_photography?igsh=MWFkbnRsMno3NnhnOA==
目指したのは十勝南端、広尾町
さてさて僕らのこの度の最初の目的地は、太平洋に面する広尾町でした。
北海道をあえて人の顔になぞらえると、広尾町は襟裳岬という顎の先端から向かって右の頬にかかるあたりに位置する静かで穏やかな田舎町です。ところがこの町には北海道のサーファーならば誰もが一度は行った事があるであろう、あるいはそうじゃない場合は憧れの対象となりうる素晴らしいサーフポイントが点在しています。
例によってポイントの名前は伏せさせていただきますが、最も安定したブレイクがのぞめるリーフはもちろん、サンドバーがしっかりと保たれたビーチ。そしてローカルの方でも滅多にエントリーする事のないパワフルな波が現れる河口のポイントなどなど、一度ウネリが入れば手応えもサイズもしっかりとした極上の波が届けられる夢のようなエリアなのです。
札幌から車でおよそ5時間もかかる場所なのですが、辛抱強い道産子の皆さんにとってそれはどうやら苦になるほどの距離ではないようですね。メインとされているポイントの駐車スペースに目をやると、札幌のみならず北海道各地から続々と来ていらっしゃっているようです、波をサーチしながらはるばるここ広尾町にね。
サーフボードとサーファーにも相性あり
広尾町での初日のサーフィンは、ビジターの僕でも比較的入りやすいビーチのポイントで楽しみました。太平洋に降り注ぐ太陽の光が眩しいくらいのいい天気でね、メインポイントではないので人もほとんどいません。海に入ったのは駐車場で挨拶を交わした方と僕とのほんの数名でしたのでね、終始和気藹々と思う存分波乗りを楽しむことができました。
さて、今回の旅で僕はカメラマンのAbechan所有のニューボードを貸してもらってサーフしたのですが、この板が思いがけず僕に特別な喜びをもたらしてくれたのです。
サーフボードとサーファーにもやはり「相性」というものがあり、好みのサイズ、つまりは長さ、厚み、幅などが微妙なバランスでそれに作用します。僕の場合、相性がいいボードはほとんどの場合ミッドレングス。分かりやすく言えばロングボードとショートボードの間くらいの板がフィットするのです。
小柄でそれほど筋力のない細マッチョの自分にとっては、浮力があってテイクオフが早めに実現するミッドレングスの板がベストチョイスということになります。ただウィークポイントとしては、特にビーチブレイクの場合に必要不可欠なテクニック、ドルフィンスルーが困難な点が挙げられるでしょう。
ミッドレングス以上の長さのサーフボードになると、沖に出る前に波が自分の前方でブレイクした時、サーフボードを白波の下に押し込んで自分の体ごと魚のように潜ってその波をかわすというドルフィンスルーが難しくなります。
板ごとひっくり返るか、無理矢理押し込んでなんちゃってドルフィンでなんとかかわすか、やって来た波を何度かまともに喰らいながら堪えて、海が穏やかな合間を縫うようにゲッティングアウト(波がブレイクするラインより沖に出ること)するしかないのです。
思いがけないサーフボードのチカラ
しかし、この日はポイントの地形が整っていたからなのか、うまくカレント(潮の流れ)に乗れて特に難航することなくゲッティングアウトできましたし、なんといってもAbechanから借りたボードの感触が良かった。
湘南のある著名なシェーパーがAbechanのために削り出したそのボードは、海に入る前、腕の中に抱えた時からただならぬ雰囲気を感じていました。なんというか作り手の程よい緊張感と静かなるメッセージのようなものが宿っているようなね、僕はそんなものを勝手ながら感じてしまったわけです、うん。
素晴らしいサーフボードって、自分の中に眠っている何かを呼び覚ます、そんな力があるような気がしてならなりません、いやほんと。
そしてそれはなんとなく楽器にも通じるものがあるのですよ、僕においては特にギターね。ボディーの厚みや大きさ、ネックの幅そして形状。時間を忘れてずっと弾いちゃうギターって時々出合うのですが、出合ったら最後それは旅の友となり、さらにその道にのめり込むことが約束されます。
だから僕はいつも、音楽もサーフィンもどちらの道においても、それらを始められた方にはね、ある程度できるようになったらなるべく早い段階で、クラフトマンが時間をかけて作った良いギター、あるいはシェイパーが神経を集中させて生み出した良きサーフボードを購入されることをお勧めしています。
ハンドメイドされたものはそうでないものと比べた時に、弾いた時のあるいは乗った時の心地よさや深みみたいなものが圧倒的なボリュームで違うような気がするのです、経験的に。それを感じた時、人はその世界の魅力に自然と気付くことになりますし、その事を契機に人によってはやがて音楽やサーフィンが生涯の友になるかもしれません。良き道具って人生を豊かにしてくれる可能性を十分に秘めていると思うのです、うん。
音楽<サーフィン?いやいや……
広尾町のライブ会場には、ローカルのサーファーの中でもリーダー的な存在の方が来てくださっていて、ライブ後にもお酒を交わしつつ北海道のサーフシーンの話や、ボードと波の関係性、はたまた広尾のポイントの歴史など様々なサーフ四方山話を聞かせてもらいました。
そんな良きご縁をいただいたおかげでね、翌日は朝からローカルサーファーが大切にしているポイントに、ある意味優先的に入らせてもらえることになったのです。こんな時、ほんとうに毎度のことながら自分がミュージシャンであったことを幸運に思います。
ところで僕はこの人生において、ミュージシャンと音楽の話をしている時間よりも、サーファーと波乗りの話をしている時間の方が圧倒的に長いような気がします。これで良いのだろうか、まあいいか。
そしてさらに幸運なことにね、その日は風の影響もほとんどなく、胸肩サイズのファンウェーブがピシャリときまったAフレーム(ピンポイントで立ち上がって両方向に崩れていく、いい波)でブレイクしていました。僕は前日から借りているカスタムメイドの濃紺のあのサーフボードで、入水して1本目、いきなりその日最高の波に乗ることができました。
そのただ1本の波から僕はこれまでに味わったことの無い何かを感じましたし、自分の中にある僕自身も意識していなかった扉をノックされたような気がしたのですって、もうこれエッセイの域を超えた文章になってきましたが悪しからず。
北海道の海をピースに楽しむコツ
さて、ツアーは東川町へと北上し熱いライブを繰り広げた後、南下しつつ西へと走り、浜厚真へ。浜厚真は札幌からもアプローチしやすいロングビーチのポイントですのでね、休日ともなると湘南と見紛うばかりの賑わいを見せます。
ビジターや道外ナンバーもエントリーしやすいポイントではあるのですが、よく観察するとしっかりとローカルゾーンが守られていて、うまいこと棲み分けが成立していますのでね、そこら辺の空気を読みつつ海に入ることが肝要です。
そしてこれもう一つ大事なこと、寒流の影響を受けていますからね、北海道の海水温は夏場でも思わず声が漏れてしまうほど冷たい場合があります。ブーツやグローブまでいかないにしても、トリップの時は温かい季節でも一応セミドライを用意されることをお勧めします。朝イチなんかほんとひんやりしてますのでね。
厚真の波は割と小ぶりでしたが、賑やかなポイントですからね、何人もの友人知人に会えましたのでとても気持ちよくサーフタイムを楽しむことができました。やはり波乗りの醍醐味は喜びを分かち合うこと、これに尽きるのでは無いでしょうか。
さらに湧き上がるサーフィンへの情熱!
とはいえ僕は一方でAbechanから借りた濃紺のミッドレングスの虜になりつつありましたからね、ライブのオフの二日間、もう一度襟裳岬の東側、広尾町方面のエリアまで波を追いかけることにしました。
そしてそこには札幌のドラマーでありサーファー、長年の友人の大ちゃんも加わり、僕らは大人のサーフキャンプを決め込むことになりました、まさにこれぞビーパル的サーフキャンプスタイル。
襟裳岬のすぐ脇のポイントはサイズが足りなくて空振りに終わりましたが、岬特有の雄大な絶景は目に焼き付いています。そこからさらに走りに走って日没間際、僕らは広尾町の手前にある河口のポイントをゲレンデと決めました。
海水は驚くほど冷たかったのですが、めちゃめちゃ良さげな波がブレイクしている割にはこれまた驚くほど人がいません。札幌から来た方がただ一人先に入っていらっしゃったのですが、僕と大ちゃんがエントリーする頃には海から上られたので、すぐに僕らだけの貸切りになっていました。
聞くところによると、このポイントにはローカルサーファーの存在が昔から無いらしく、全国的にも珍しいビジターで構成されやすい河口のポイントなのだそうです。
僕は濃紺のボードよって、自分でも知らなかったもう一つ上のギアにシフトチェンジした感覚でしたのでね、一本一本のライディングをこれまで以上の緊張感と喜びを感じつつ味わっていました。
海から上がった頃には、さらにサーフィンへの情熱が湧き上がっている自分に気が付いたほどです、って熱っ!
北海道といえば、「セイコマ」です
至福の時間は丘に上がっても続きました。BBQをつつきながらビールやワインを飲み交わし、音楽、海、そして人生の喜びについて語り合います。満天の星のもとテントの中に潜り込むと、力強い波の音と時々吠える大ちゃんの愛犬モンタの鳴き声の他には何も聞こえません。
ところで全くの余談ですが、北海道のサーフトリップにおけるお酒の買い出しは、何はさておき北海道オリジナルのコンビニエンスストア、「セイコーマート(ローカルは皆セイコマと呼んでいる)」をお勧めします。
セイコマは元々お酒を扱っていた商店らしく、その名残からかコンビニ展開された今もお酒のラインナップが充実しています。僕のお気に入りはオレンジ色のエチケットが可愛らしいオーガニックワインで、1,000円を楽勝で割ってくる驚くべき価格で提供されている代物です。
そしてセイコマ店内の「ホットシェフ」で手作りされている軽食の中でも、抜群にいけてるオリジナルのフライドポテトも、化学調味料無添加ですのでね、オーガニックワインと合せて買い求めたい品のひとつです。完全にセイコマの回し者みたいになっていますが、単純にファンなのでね。
それにしてもかれこれ20年以上サーフィンを続けて来ましたが、北海道の波とあの濃紺の板のおかげで、若かりし頃よりも今がいちばん波に乗れているし、それに伴ってサーフィンを楽しんでいるような気がしています。
様々な気づきがもたらされたのは、もしかしたらサーフボードのみならず、そこが自然豊かな北海道だったからかも知れません。北海道を舞台としたサーフトリップは、他の場所では味わえない感覚と手応えがあると思います。ぜひ皆様にも一度は経験していただきたいところです。
今回のアウトドアにおすすめの一曲
トム・ミッシュ「Insecure」
ギターリフの虎視眈々とした雰囲気が、まるでテイクオフの時波のフェイスを狙うサーファーのようです。
東田トモヒロNEWS
キャリア20年を超えてますます精力的にライブ活動を続ける東田トモヒロと 熊本を拠点に活躍するシンガーソングライターHandelicによる共作「FREE RIDE」が2024.8.28 Release!
サーフィンを愛する二人の極めてナチュラルなセッションによって生み出されたロックチューンは 音楽によって自由に解き放たれる魂を捉えた、爽快感あふれるナンバーに仕上がっている。
(なお本作は東田トモヒロパート以外はすべて Handelic により演奏とトラックメイキングが行われ さらにはミックス、マスタリング、ジャケットデザインなども Handelic による。)
こちらをチェック!
https://big-up.style/SmtWCDWyGc