ワークマンと災害救護専門家の連携で実現した「XShelter」とは
「ワークマン」といえば、働く人々のアイテムが取り揃えられたメーカーです。この働く人というのは、実際に体を動かす人だけでなく、デスクワークの人も含まれ、オフィスへの通勤などにも快適なアイテムを展開しています。今回、新製品の発表会で注目したのが、究極の断熱テクノロジー「XShelter」です。『着る断熱材』や『無感覚ウエア』と表現されるアイテムとは一体どのようなものなのか気になりました。
「寒いと感じるのは快適ではないからです。人間が快適に感じているときは、意識していませんよね。それが無感覚状態です。衣服内の環境を快適で無感覚にするのが『XShelter』です。」(ワークマンバイヤーの牧野康洋さん)
「XShelter」は、ワークマンと日本赤十字看護大学附属災害救護研究所との共同で、約1年半の歳月をかけて様々な実験を繰り返し、ようやく製品化に至ったそう。ただ、ここ数年、冬も日本国内にいるのなら、そんなに寒くならないし、重防寒のアウターは買わなくてもいいかもと考える消費者もいます。なぜ、極寒用のアウターに着目したのか気になりますよね。それは、スペックがただ暖かいというわけではなかったからです。
「XShelter」では、熱エネルギーを遮断する「断熱」機能で外気をシャットアウトし、衣服内の快適温度30~33度をキープ。冬場の寒暖差が激しい時期でも着用できるのです。採用されている断熱シートは、ミクロンサイズ粒子の積層素材で、空洞の粒子が空気を閉じ込め、ポリエステル骨格が粒子を安定させることで、独立気孔断熱を形成します。小さな空気の泡(気孔)が独立して分散しているため熱がそれぞれの気孔に伝わりにくく熱伝導を抑え、高い断熱性が得られるとのこと。ワークマンの「XShelter」は、95%以上の独立気泡率があるそうです。それを、軽量の薄いシートで実現しています。この「XShelterシート」と発熱する「XShelterわた」を表地と裏地で挟む構造になっています。表地には、耐久撥水効果のある生地を採用。また、衣服の内側にはサーモメーターが搭載され、リアルタイムで温度を測ることができます。
構造の話や図を見ても理解が追いつかないと思っていたら(すみません)、「XShelteシート」を使用した実験の体験コーナーがありました。
スチームアイロンをオンにして、「XShelterシート」のミトンをはめて近づけると、暖かくは感じますが、熱いということはありませんでした。ホットプレートに、「XShelterシート」と、同じく薄手の布を置き、氷を置くという実験もありました。ホットプレートの熱さで氷が解けますが、「XShelterシート」の方は、かなりゆっくり溶けていきました。この薄さで、すごい性能だと驚かされました。しかも、断熱だけでなく、溶けていく氷を「XShelterシート」で被うと、なんと蒸気だけが放出されていることもわかりました。汗をかいても、蒸散してくれるという仕組みです。
マイナス20度の冷凍庫に入り無感覚断熱を体験
「XShelter」をより実感できるよう、マイナス20度Cの冷凍庫が準備されていました。最初から「XShelter」のアイテムを着用して入ると、その違いが実感しにくいとはいえ、夏服のままでは寒すぎるため、ジャケットのみ着用して、マイナス20度の世界へ入ってみました。ジャケットを羽織っているため、上半身は大丈夫でしたが、しばらくすると足先がかなり冷たくなりました。
KEENのユニークを履いていたため、足指が痛いほどの冷たさに。上半身は平気でしたが、3分くらいしか入っていられませんでした。その後、中綿2枚の最高スペックの上下スーツとブーツに履き替え、再度、極寒の冷凍庫へ。15分間の体験で、耐えられなくなったら内側から扉をたたいてくださいと言われていたのですが、快適でした。手袋をしていなかったため手の指先は冷たくなりましたが、これが「無感覚」というものなのかと、だんだん楽しくなってきたところでタイムアップ。着ていて暑いとも寒いとも感じない快適で不思議な感覚でした。
普段着ているアイテムが災害時に役立つのがいい
マイナス20度Cの極寒を体験するようなことは少ないかもしれませんが、この「XShelter」シリーズの機能は、災害時に役立つといいます。非常時持ち出し袋を準備し、ローリングストックも行なっている筆者ですが、アウターはうっかりしていました。
「災害時には、逃げるために必要なものと避難してからの生活に必要なものがあります。」(日本赤十字北海道看護大学災害対策教育センター長の根本昌宏さん)
中でも寒さ対策は重要で、深部体温が35度を下回ることで、何かしらの不調が起こりやすくなるとのこと。健康面の不安を取り除くためにも寒さ対策は必須です。
「体温を外に逃がさないように保温が必要です。また、脚も忘れてはいけません。熱を放散してしまうので、ズボンも大事です。手先や顔も保温できるようバラクラバやインナーグローブ、アウターグローブもあるといいですね。」(根元さん)
また、体が濡れると冷却効果が5倍にもなるそうです。雨など、外部からの防水効果も必要ですが、汗をかくことで冷却効果があるため、汗を逃がすことも大切になってくるそうです。必要なスペックを実現したシリーズというわけですね。
災害時に着られるものを準備するのではなく、普段着ているものが災害時に役に立つことが望ましいとの考えで開発された「XShelter」シリーズは、寒い日の通勤時に、駆け込んだ電車内が暑くて汗をかいてしまっても、すぐに放出してくれるます。じんわりと汗をかいてしまう、あの感覚から解放されそうです。天災は、いつ起こるかわからないため、普段から災害を見据えたアイテムを活用することで、自分の身を守ることにつながります。「XShelter」シリーズのラインアップにはシュラフもあり、キャンプでの眠りがより快適になるかもしれませんよ。