CINEMA 01
老夫婦の一年を娘が記録。瞑想へ誘う静かな叙事詩
『SONG OF EARTH/
ソング・オブ・アース』
(配給:トランスフォーマー)
●監督/マルグレート・オリン
●9/20~TOHOシネマズ シャンテ、シネマート新宿ほか全国公開
©2023 Speranza Film AS
ノルウェー西部の山岳地帯オルデダーレンに暮らす老夫婦を、ドキュメンタリー監督である娘が一年かけて追う。フィヨルド、山、氷河。季節によって姿を変える自然の美、動植物の鮮やかさをじっくり記録──。
アカデミー賞国際長編映画賞ノルウェー代表選出作。全編を貫くのは圧倒的静けさ。雄大な自然をときに鳥の目線で捉え、老いた父のかさついた皮膚をぐっと近づいて凝視する。雄弁な映像、氷河の水滴や焚き火のはぜる音を捉えた洗練のサウンドデザイン。そこに「大切なのは幸せを自分のものだけにしないこと」と微笑み合う夫婦による、実感の伴ったシンプルな言葉が置かれる。思慮深い瞑想のような時間が構築され、永遠のような気配が漂う。
あまりの静けさに観る者の感覚まで研ぎ澄まされ、心に響く音までが聞こえるよう。自然は美しく、人生もまた美しい──。娘の父母への尊敬と愛情の眼差しが映画を観るこちらの心にまで染み入って胸を打つ。
CINEMA 02
武家の若者がアイヌと和人の共生の道を模索
『シサム』
(配給:NAKACHIKA PICTURES)
●監督/中尾浩之
●脚本/尾崎将也
●出演/寛 一郎、三浦貴大、和田正人、坂東龍汰、平野貴大、サヘル・ローズ、藤本隆宏、山西 惇、佐々木ゆか、古川琴音、要 潤、富田靖子、緒形直人
●9/13~TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
©映画「シサム」製作委員会
江戸時代前期。松前藩の孝二郎はアイヌとの交易に蝦夷地、北海道へ。同行した兄が荷物の横流しを画策する人物に命を奪われ、自身も重傷を負ってアイヌの村人に救われる。非暴力、自然を尊ぶ彼らと暮らすうち、復讐を誓う孝二郎の侍魂が揺らぐ。一方アイヌの間で、和人(シサム)への不満が蓄積していた……。
西部劇を思わす古典的構造の歴史スペクタクル。自然との共生の難しさ、異文化同士の民族で諍いが起こる理由。時を経て変わらない人間というものを凝視。
※構成/浅見祥子
(BE-PAL 2024年10月号より)