9月9日、土星が地球を挟んで太陽と正反対側にやって来ます。この状態を「衝」(しょう)といいますが、今年いちばん土星が見やすくなる時期です。ところで、最近は土星の環がかなり細くなっているのですが、なぜでしょうか。
2025年3月、土星の環が消失?
真夜中の空はすっかり秋の星座。明るい星の少ない季節を迎えますが、南の空にはみなみうお座の1等星フォーマルハウトと、もう一つ、少し黄みがかった明るい星があります。こちらが土星です。みずがめ座のあたりにあります。
9日に土星が衝を迎えます。地球を挟んで太陽の正反対に来るタイミングです。地球からも近く、観察の好機です。今、土星で注目されているのは環の角度です。実は、環の角度は毎年、少しずつ変化しています。こうした変化が土星の魅力を増している一因でもあるでしょう。
土星の観察は双眼鏡ではむずかしく、天体望遠鏡が必要です。100倍くらいの倍率なら、視野に入れることができるでしょう。望遠鏡の性能によりますが、100倍くらいだと環の角度の違いはわかりますが、土星本体の縞模様を見るのはむずかしいです。
現在、土星の環はやや上から見るような形です。来年に向けてどんどん角度が小さくなり、来年3月ごろには環をほぼ真横から見る形になります。環は薄いので、真横になると、もう見えません。「環の消失」と呼ばれます。
次の「環の消失」は2025年3月に起きます。ただこの時点では土星は太陽の向こう側にあり、観察することはできません。
その後、今度は土星を下から見るような角度になります。どんどん環が大きく開いて見えるようになり、そしてまた角度が小さくなって、環が真横になり、「環の消失」を迎えます。
もしも自転軸が傾いていなかったら?
なぜこのように変化するのか。理由は、土星の自転軸が約27度傾いていて、その分だけ環も一定の方向に傾いているからです。この傾きと軌道の関係で、地球から見える土星の角度は少しずつ変わっていきます。さまざまな環の表情が見られるのは、この自転軸の傾きがあればこそ。
土星はおよそ30年かけて太陽を一周します。そのため、およそ15年ごとに環の消失現象が起きることになります。
土星は環があるから楽しい——と思われるかもしれませんが、だんだんと細くなっていく環を見るのは今がチャンスです。次に同じシチュエーションが見られるのは15年後ですから。
土星は環の見え方の変化によって自転軸の傾きがよくわかる惑星です。他の惑星はどうでしょうか。たとえば最大の惑星、木星の自転軸の傾きは約3度とわずかです。そのため天体写真で見る木星の縞模様はほぼ真っ直ぐですし、大赤斑はいつも同じ高さのあたりに位置して見えます。
自転軸が90度傾いているのが天王星です。地球から見ると横倒しに自転しています。なぜこんなに傾いているのでしょうか? ふだん感じることの出来ない自転軸の傾きを楽しみながら、土星の環を観察してみてください。
構成/佐藤恵菜
星空案内人 天文系ライター。株式会社アストロアーツで天文ニュースの編集などに携わる。天文学の歴史も研究していて、パリ第7大学で古代インドの天文学を 扱った論文で博士号を取得。星のソムリエ®の資格を持つ案内人でもある。アストロアーツより、宇宙の不思議に出会うモバイルアプリ「星空ナビ」が好評発売中。