キキョウとは?
キキョウ科の多年草。北海道から九州まで分布。日当たりのよい山地、原野に生える。6~10月、高さ30~50㎝の茎の上に直径4~5㎝ほどの青紫色で鐘型の花を咲かせる。中国では古くから根を薬用に使い、咳止めや痰を出しやすくする効果があるとされる。日本で最初に「桔梗」の名が登場するのは、733年完成の『出雲国風土記』。『万葉集』に詠まれる「あさがほ」はキキョウのことであるといわれている。
野生のキキョウを最後に見たのは、29年前の秋、小高い森の草地でのことだった。
キキョウは秋の野草のひとつとして知られる人気の野草だが、いま見られるキキョウのほとんどは園芸種で、野生のものは見られなくなった。野生植物の数が減り、いまにもなくなりそうなものを「絶滅危惧種」と呼ぶが、だからといって誰も手助けはしない。
絶滅を危惧される野草の一種に、タコノアシという面白い野草があるが、湿地や池などに育つこの野草も、宅地造成などのせいで次々に消えている。花弁のない花が連なって、まるで吸盤の並んだタコの足のように見えるための名前だが、よほどの花好きでもないかぎり見たことがないだろう。
秋には大量の粉のような小粒のタネができるから、数年前に深めの鉢受けに土を入れて、タネを蒔いてみた。0.5㎜ほどのこのタネは、なんと、ほとんどが芽を出した。込み合う芽の間引きを繰り返して、ポリ樽に土を敷き、水を張って、丈夫な株を移植したら、夏の間に育ち、9月には花を付けてくれた。
「なんだねこの花は?」と、花好きのお隣さんが欲しがるので、半分ほどを分けてやった。けっこう丈夫な多年草だから、来年はお隣さんでも花を付けることだろう。
キキョウの場合もタネを手に入れて実生させることができるだろうか、と思ったのだが、29年前の9月に山梨県某所の小高い森の草地で出会って以来、野生のキキョウを目にすることができないでいる。
タコノアシのタネ、葉、花をご紹介
0.5㎜ほどのタコノアシのタネ。
5月1日、どんどん育つタコノアシ。
ポリ樽の中で丈夫に育ったタコノアシ。
9月2日、次々に花を付けたタコノアシ。
イラスト・写真・文 おくやまひさし
おくやまひさし プロフィール
画家・写真家・ナチュラリスト。
1937年、秋田県横手市生まれ。自然や植物に親しむ幼少期を過ごす。写真技術を独学で学んだのち、日本各地で撮影や自然の観察を開始。以降、イラストレーター、写真家として図鑑や写真集、書籍を数多く出版。
イラスト・写真・文 おくやまひさし
(BE-PAL 2024年10月号より)