アマゾン川って、どんな川?
「アマゾン川を下ろう」と決めたとき、私はアマゾン川のことをよく知りませんでした。
いつかテレビで見たアマゾン川は、どんな川だっただろうか?原住民がジャングルの細い隙間をカヌーで進んでいたり。かと思えば、川とは思えないような広々とした水上に海で見るような大きな船が浮かんでいたり。
ポロロッカ現象と呼ばれる河口付近でアマゾン川を逆流する潮流を利用してサーフィンをしている動画を観たこともありますが、海の遊びなのに背景は木が生えた森でした。一体、どんな川を想定してアマゾンへ行けばよいのでしょうか?
「世界最大の川」と呼ばれているくらい途方もない水量を運んでいるのに、世界で一番長い川ではないらしいと知ったときは驚きました。現在、世界一長い川はナイル川。でもこれに意を唱える人たちもいて、実際、アマゾン川の長さは今も少しずつ伸びているようなのです。
例えば、2014年の発表でアマゾン川の長さが従来考えらえているものより77km長いとする説を提唱したのがアメリカの科学者で探検家のジェームズ・コントスさん。今まで知られていたのより遠い源流を見つけたというのです。
ペルーのアンデス山脈の奥深く潜り込んだたくさんの源流がひとつになって流れているアマゾン川は、どの源流が一番遠いのか、今でも研究が続けられています。現在公表されているアマゾン川の長さは6,516km。だけど昔は6,300kmといわれていた時代もあるし、今では7,000kmに近いとする説もあります。
「母を訪ねて三千里」というタイトルから距離がいまいち想像できないように、アマゾン川も数字が大きすぎて実際にそれがどれだけ長いのかピンときません。そもそも専門家ですら、アマゾンの本当の長さを知らないのです。
前置きが長くなりましたが、とにかくどんな川かわからないから、なにを準備すればよいのかもわからない。では、どうするか?
私の答えは、「必要なものは現地調達」です。
旅の相棒は現地で探せ!
アマゾン川の旅、ひとつ目の現地調達は前回の記事でも紹介した木舟。現地で実際に使われている船なら、その川の特性に合っているはず。
次は現地で旅の相棒探しです。
「一緒にアマゾン川を下ろう」なんて言ってくれる友人は、そうそういません。そもそも南米まではるばる行くのは遠すぎる。だけど、すでに現地にいる人なら、一緒に旅をしてくれるかもしれない。
といってもスペイン語が話せない私は、今回の旅のスタート地点ペルーのプカルパにて、英語が話せる外国人が集まっていそうな宿に泊まりながら相棒をリクルートすることに。
宿に到着してさっそく、入り口の門の前ロン毛のお兄さんを発見。髪型からして、いかにも旅人らしい風貌。早速話しかけると、なんと日本語が返ってきました。
お互いにビックリ。まさか日本人に会うなんて。宿の受付に行って、またビックリ。なんとこの宿の宿泊者は全員日本人。
いわゆる日本人宿ではありません。宿のオーナーはドイツ人。掃除などを手伝うスタッフはペルー人。対して宿泊者は私含めて日本人が合計8人。海外にいながら、日本人が圧倒的なマジョリティを占める空間に、私も宿の人も「こんなことは初めてだよ!」。
本当にたまたま同じタイミングで日本人が集まってしまったのです。どうしてみんなプカルパに吸い寄せられてしまったのか。
南米を放浪しながらいくつも宿を転々としてきたけれど、この場所が居心地よくて気が付いたら長期滞在している人。世界の真理に近づくヒントがアンデス山脈に隠されているかもしれない、とアマゾン川の上流を目指して旅している人。アーティストとしてのインスピレーションを磨くために、定期的にこの町を訪れている人。
そんなキャラの濃い人もいれば、私と同じくらいの年齢の女性で、南米の有名な観光地をバックパッカースタイルで巡っているという人もいました。趣味がバラバラのみんなですが、共通していることがひとつ。アヤワスカという植物を求めてプカルパにやってきたのです。
アヤワスカとは、ペルーの文部科学省の傘下にある国立文化研究所が国の文化遺産として認めた植物。
ツルのような植物で、木の断面がお花のようになっており、そのキレイな模様を生かしてアクセサリーなども作られています。
古くはペルーのアマゾン地域の先住民族が特別な儀式の中で使用していて、ほかの植物と調合すると幻覚作用のあるお茶ができるとのこと。
せっかくだから日本の旅人と一緒にアマゾンを下りたい。そんな気持ちが先走って、初対面なのに単刀直入に「アマゾン川下りませんか?」と聞いてみても、やっぱりみんな次の予定がある人達ばかり。そんないきなり誘っても、無理だよね。一人、また一人と日本人は去っていき、ついに私が最後の日本人になってしまいました。
日本語が聞こえなくなって、寂しくないといえばウソになるけれど、そんな感傷に浸るヒマもなく新しい旅人たちがやってきました。女子、女子、みんな女子。今度の宿のトレンドは、女性バックパッカー。宿のオーナーは男一人、またしても圧倒的なマイノリティで肩身が狭そう。
とりあえず、一緒に旅してくれる女の子の旅人が一人見つかりました!
舟を動かすエンジンを現地調達せよ!
人間以外で大切な旅の相棒、それは川下りに必須の木舟。続いて現地調達するのは、船外機(エンジン)です。
あえてカヤックやカヌーみたいな手漕ぎではなく、新しいことに挑戦したくなって、今回の船には船外機を積むことにしました。
旅に使うのは、現地の船と同じタイプの船外機。これは最初から船外機として作られたものではなく、小さいもので5馬力程度の汎用エンジンに細長い棒を取り付けて、棒の先に付けられたスクリューを回転させて進むもの。このスタイルの船は現地で「ペケペケ」と呼ばれていて、理由はそのままズバリ。エンジンの音がペケペケ鳴っているように聞こえるから。
なるべく安いものを探して中古屋さんに行きましたが、店員さんおすすめのエンジンなのになかなかかかりません。ふ、不安だ。
いろいろ意見を聞いて回ると、一致した意見は「ホンダの新品を買え」「ホンダなら壊れない」「とにかくホンダだ」とのことで、現地の人が全幅の信頼を置いているホンダのエンジンを買うことにしました。
こちらが私が買ったエンジンは、9馬力のホンダGX270。ペケペケのエンジンはおおまかに大、中、小とあって、順番に13馬力、9馬力、5馬力程度。
これがエンジンに取り付ける棒。先端のスクリューは思っていたより小さくて、本当にちゃんと進むのか、やや不安が残ります。
はじめてのペケペケ号
私の船の名前は、ペケペケ号。ペケペケを載せているから、ペケペケ号。ペケペケって、かわいいオノマトペみたい。だけど、初めて運転してみると、意外と難しいんです。
スクリューが付いている棒が長くて重いのに、それを操縦する取っ手の方は短いから、テコの原理で余計に重く感じてしまいます。
それにしても、もともとは水漏れで船の底にたくさん水が溜まっていた船なのに、ちゃんと浮かんでいることに感動!
ヨロヨロ運転で向かったのは、ほんの15分ほど進んだところにある森のなかに隠れたとあるお家。
快適な船旅へ向けて、ここでペケペケ号にもうひと手間加えます(次回へ続く)。