今夏も気温が高く暑い日が続き、海も高水温が続き海中にはどのような変化があったでしょう。
高水温の影響で白化するシコロサンゴ
私がいつも観察している鹿児島県南さつま市笠沙の沿岸では、シコロサンゴの大群生が見られます。下記は昨年、シコロサンゴの白化現象、産卵をまとめた記事です。
今年も高水温の影響で8月上旬には浅場でシコロサンゴの白化現象が起こってしまいました。2年前も大規模な白化現象を確認しましたが、その年よりも1か月程早く白化しているのを確認しました。
※白化現象とは海水温の上昇などによりサンゴに共生している褐虫藻が失われ、サンゴが白くなる現象です。
7月中旬から浅場の水温が30℃近く、高い時は水面下33℃まで上がりました。浅場のソフトコーラルが溶けていき、シコロサンゴも少しずつ白化していきました。
シコロサンゴの白化現象はエッジ部分(先端)から白くなり、徐々に表面が斑らに白く色が抜けていきます。
今年に限ってこのようなことが起きたのは気候変動のような壮大な話ではなく、台風が来ず、深場の冷塊水と浅場の高水温の水が混ざらずにサンゴ礁が生息する浅場の環境の均衝が崩れてしまったことに起因しているように感じています。
まわりで泳いでいる魚たちはサンゴが弱り、白化していく様子をどう思っているのでしょうか。
白化するシコロサンゴの産卵
今年で6年連続、シコロサンゴの産卵を確認しているのですが、2年前の高水温で大規模に白化し、弱ってしまい、今年もすでに白化が始まり、果たして産卵を以前のようにできるのか、心配していました。
産卵予定日、ダイバーの皆さんと不安と緊張の面持ちで、まだ暗い深夜の海中へ潜水します。
真っ暗な海中でライトに照らされて浮かびあがるサンゴからモヤモヤと揺らめく白濁に気が付きました。
シコロサンゴの産卵です!
これまでの産卵よりも、ほんの少し早いスタートで、今までの経験上、大規模な産卵になるかもしれない、と思いました。
程なくして、海中はあっという間に真っ白なシコロサンゴの放精放卵に包まれていきました。まだ寝ている魚たちもびっくりして寝ぼけながら中層に浮き始めているのを見かけました。
少し浅場へ移動すると……
なんと、白化しているシコロサンゴから勢いよく放卵しているではありませんか。
白化しているエリアも大産卵でした。見た目は真っ白で死にそうなサンゴも健在だったのです。高水温という劣悪な環境から動くこともできずに寡黙に耐え続け、力強く命を繋ごうとする姿に心打たれました。
産卵の様子を見ていると、サンゴの隙間から出てきていた黒色のカニを数個体見かけました。よく見ると白化したシコロサンゴの放卵を食べている様です。
海中は放精放卵で真っ白になり、日頃、海底にいる魚たちも、さすがに逃げ場がなくなったのか、中層や水面近くまで泳いでいるのを沢山見かけました。白化現象で心配していたシコロサンゴの産卵ですが、数年ぶりに大産卵を見ることができました。
海中が少しずつ明るくなり、タンクの空気も少なくなったので水面から顔を上げると、美しい朝焼けが見られました。産卵の余韻に浸り、朝焼けもいつもより美しく見えるような気がします。
休憩をし、大産卵後どのように日常の海へ戻るのか気になりシコロサンゴのエリアへ潜ることにしました。
大規模な産卵により白濁した海中に朝の日差しが入り、神秘的な景色が広がっていました。まるで森の木漏れ日のように優しい日差しが広がり、お疲れ様、ありがとう。と声をかけたくなるような思いになりました。
シコロサンゴの力強い産卵を確認した2日後、数年ぶりに大きな台風が接近しました。数日間は海には潜れず、台風が去り穏やかな海へ潜水してみると、産卵を確認したシコロサンゴ群生の一部は台風で砕け、ぐちゃぐちゃになっている部分がありました。高水温を耐え、力強く命を繋ぎ、台風で破壊され、シコロサンゴの壮絶な生き様を目の当たりにしました。
それでも懸命に生き抜く姿はかっこよく、同じ生き物として大事なことを教わったように思います。
陸編
知人に教えてもらった、数年前に台風で打ち上がったシコロサンゴです。真っ白になった骨格に美しい緑色の野草が生えていました。
死して尚、陸上の生命の礎になる姿は偉大だなと思いました。人間も苦しい事や辛い事もいっぱいありますが、シコロサンゴのように逞しく力強く生きていきたい、自分もそうなりたいと思いました。