スイスで避暑というと違和感があるかもしれませんが、もはやそれほど珍しいことではありません。今回は涼を求めて訪ねたサース・フェーの魅力を紹介します。
サース・フェーでの滞在を決めた「3つの理由」
今回ここを選んだ理由は3つありました。一つはもちろん避暑目的。この村は標高1800mのところにあり、四方を4000m級の山々や氷河が囲んでいます。そのため夏でも最高気温は20℃ほど。そして夜は冷え込み寒いぐらいです。
サース・フェーはスキーリゾート地として知られていますが、それ以外にもハイキングや登山、マウンテンバイク、ボルダリングなど様々なアクティビティが楽しめるので、アウトドアスポーツ好きには天国!
ところで、サース・フェーは2010年南アフリカ・サッカーW杯前の日本代表チーム合宿地。ここにはテニスコートや陸上競技用のトラックなどもあり、競技の練習ができる環境にあります。酸素濃度が薄いことから、さまざまな身体機能が鍛えられるとトレーニングに励む人たちの姿もありました。
またここではガソリン車の乗り入れが禁じられています。そのため排気ガスもなく、空気は爽やか。通りを歩いていると、電気自動車が横を静かに走っていきました。
ただ一つこたえたのは太陽の強い光。建物や木の陰に入るとヒンヤリしますが、そうでなければ太陽光線がバシバシ皮膚に突き刺さってきます。帽子や日焼け止め、サングラス等は必須です。
そしてここに来た「2つ目」の理由、それは標高2869mのレングフルー(Längfluh)展望台からフェー氷河を間近で見るためでした。サース・フェーには三方の山々へ行けるロープウェイ乗り場がいくつかあるので、さっそくそのうちの一つ、年季の入った小さなロープウェイ乗り場からレングフルー目指して出発!
途中シュピールボーデン(Spielboden/標高2448m)でゴンドラに乗り換え、そしていよいよレングフルーへ。レングフルーには一瞬で到着しました。
ゴンドラを出るとひやっとした空気に歓迎されました。気温は8℃。しかし太陽光がさらに強さを増していたので、寒さと暑さが混在したような体感です。
フェー氷河は長さが5キロメートル、幅は6キロメートルあります。スイス最大の氷河でユネスコ世界遺産にも登録されているアレッチ氷河に比べれば小さいですが、それでも眼下に広がる氷河には圧倒されました。
展望台にはレストランもあります。氷河に囲まれながら楽しむ食事はきっと美味しいだろうな。
氷河に感動した後、再びゴンドラに乗ってシュピールボーデンまで戻ってきました。というのもここにはサースフェー探訪「3つ目」の理由があったからです。それはサース・フェーに住むマーモットにエサをあげること。
スイスの山岳地帯には野生のマーモットたちが多く生息しており、その中には人間に慣れていてエサをあげたりできる場所もあります。サース・フェーもその一つ。そのため私もマーモットたちにエサをあげたり交流したりしたかったのでした。
ところでスイスドイツ語でマーモットは「ムームリ(Murmeli)」という愛称で呼ばれます。また「ムームリになる」なんて表現もあり、これは「食べ過ぎてマーモットみたいに肥える」とかなりストレートな意味に。
レストランの横に「マーモットの小道」の標識があったので、そこから急斜面の細い道をそろそろ下っていくと、そこここにマーモットの巣穴がありました。隠れやすそうな岩が多い草地にマーモットたちはいます。さてマーモットたちはどこかな?
すると遠くに恰幅の良い大きなマーモットがのそのそ歩いているのが見えました。慌ててそこまで急いだものの、マーモットはすでに姿を消していました。
マーモットに会いに来たのは我々だけではなく、若いカップル、殻付きピーナツがたくさん入った袋をそれぞれ手にした、おばあさんとお孫さんらしき高齢女性と小学生の女の子など10人ほどがいて、同様にマーモットを探していました。
しばらく探し回ったのですが、結局マーモットにはその後会えず。運が悪かったようです。
マーモットのために持参した“お土産”のリンゴとパンは同行した夫のおやつとなり、失意のまま再びロープウェイでサース・フェーまで引き返したのでした。
ホテルに戻り少し休憩した後、今度は別のロープウェイ乗り場からハニック(ハンニック/標高2336m)へ。ここでもいろんな野生動物が見られるという情報を聞いたからです。
展望台からは、さっき行ったばかりのフェー氷河が遠くに見えました。
さらに大きなブランコも発見。アニメ「アルプスの少女ハイジ」のオープニングシーンが頭に浮かびましたが、見晴らし抜群、オープンすぎる空間の中で乗るのはちょっと怖いような…。
その時カランカランとにぎやかなベルの音が近づいてきました。音のする方を見ると、ヤギたちが隊列を組んでやってきます。飼い主らしき姿はなく、ヤギたちはそれぞれ自由行動に。
やがて何頭かのヤギたちがこちらへ歩みを進めてきました。「エサが欲しいのかな?」と見ていると、ヤギたちは目の前で立ち止まり頭をぐいっと私の方へ突き出してきました。何を要求しているのか良く分からないまま、頭と額をさすってあげると嬉しそうな顔をして、今度は私にすりすりと体を擦りつけてきました。
マーキング?それとも体が痒くて私を“孫の手”代わりに?と呆然としていたら、背後でその様子を見て笑っていたロープウェイのスタッフの女性が「ヤギは社交的な動物なので、あなたに愛情表現を示すため挨拶をしたのですよ」と教えてくれました。
こうして結局3頭のヤギに“体にすりすり”挨拶をしてもらったのでした。
突然「ワンワンワン、ワンワン!」と犬の鳴き声がして、一頭のヤギが必死の形相で走って来るのが見えました。その後ろから追う牧畜犬の横には自転車に乗ったヤギの飼い主らしき青年がいます。散らばっていたヤギたちも青年と犬に追い立てられ、あっという間に去っていきました。
今回は残念ながらマーモットに遭遇できませんでしたが、思いがけず気さくなヤギたちと遊べて満足でした。とはいえ次回こそは野生動物たちに会えるよう、サース・フェーをリベンジ再訪したいです。
1998年~2009年までアイルランドで暮らした後、2009年からスイス在住。スイス始め欧州の国々のさまざまな興味深い情報を雑誌やウェブサイト、ラジオ等のメディアにて発信中。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員