実は、もともとフリースは、化学繊維ではなく、天然素材でできていたのです。そこで、本来のフリースの特徴をいかし、現代のライフスタイルで心地よく着られるように進化させたのが「プリスティン」です。
さらに今シーズンは、「ナナミカ」とタッグを組んで、特別なリアルフリースのアウターが登場します。
ウールを使用した生地こそが本物のフリース
そもそもフリースとは、現在多く出回っているポリエステルを使用したものではなく、1頭分の刈り取られた羊の毛が絡みあい1枚のシート状になったものです。そこで、「アバンティ」が手がけるオーガニックコットンブランド「プリスティン」では、ウールを使用した生地で作られてこそ本物のフリースと考え、2年の開発期間を経て、2019年秋に、その名も「リアルフリース」を発売しました。
表地はウール100%、肌側には、オーガニックコットン100%の天然素材で作られています。その後、2020年の冬からは、表地のウールパイルを短くし、より軽い素材の「ライトリアルフリース」へと進化しています。生地を触ってみると、本物の羊のようなふわふわ感でずっと触っていたくなります。
リアルフリースは、表側にウール、内側にオーガニックコットンと、縮率が違う天然素材を使用するというプリスティンにとって初めての試みで作られたアイテム。ということは、いつも生産している工場にとっても初めての作業になります。フリースという生地の特性から、綿毛布の製造をお願いしている和歌山県高野口にある「松岡織物」に相談し、糸から開発したといいます。
「むずかしそうで、初めてのことであっても、『やってみましょう。できますよ。』って、作り手のみなさんが言ってくれるんです」(株式会社アバンティ代表取締役社長 奥森秀子さん)
原料、糸、生地、製品をつくる農家や工場に足を運び、顔が見えるものづくりを続けているからこそ、人にやさしくて、地球にやさしいものづくりを共有しているチームができているのだと感じました。
ちなみに、原料のオーガニックコットンはもちろんですが、アニマルウェルフェアの観点からウールにもこだわり、自然なままに育てられた羊から刈り取られたノンミュールジング・ウールのみを使用しています。
アバンティが創業したのが、1985年。まだ、現在のように環境に配慮したものづくりを多くの人が意識していなかったころから、地球にも人にもやさしいものづくりを行っていたからこそ、羊たちにとってもやさしい飼育法で育ち、トレーサビリティが明確なものだけをプリスティンでは使用しています。
天然素材100%のリアルフリースにこだわるわけとは
原材料から、製造工程まで徹底的にこだわり、新たな技術が生まれ、伝承されていくことはすばらしいですが、そこまでしてリアルフリースにこだわるのは一体なぜなのでしょうか。
「マイクロプラスチックが海洋汚染につながるからです。繊維の中で生分解性の高いのがコットンです。ポリエステルは長期にわたって分解されません。そして、フリースは誰もが持っているアイテムで、家で洗濯していますよね。
日本人はきれい好きで、よく洗濯します。しかも、フリースは毛が抜けやすいです。すると、洗濯のたびにマイクロファイバーが流れ出し、小さいがために汚染処理場のフィルターも通り抜けて海へと流れていきます。それなら、生分解性の高いものでフリースを作ればいいねということになり開発しました。」(奥森さん)
フリースにこだわったのは、多くの人が好むアイテムだからだったのですね。そして、ウールを使用したリアルフリースは、なんと家で洗えるのです。これは、助かりますね。
また、海洋汚染を少しでも減らすものづくりを研究するのは、地球温暖化の防止につながるからです。海洋の廃プラスチックが日射の影響や水中での劣化が進むと、メタンやエチレンという2種類の強力な温室効果ガスが放出されるという研究成果が、米ハワイ大学マノア校海洋地球科学技術学部の研究チームによって公表されました。そのことが、海を汚さないものづくりへの思いを強くしたといいます。
ダブルネームで登場のリアルフリース
今シーズン登場するリアルフリースアイテムは、コートとプルオーバーの2型です。デザインは、「ナナミカ」によるもの。ナナミカファンなら、「あれっ!」と思うかもしれません。というのも、昨シーズン、ナナミカからリアルフリース素材を使用したアイテムが登場していたからです。違っているのは、今シーズンはダブルネームで登場すること。
「プリスティンの考えに共鳴してくださって、今年はコラボという形で作りたいと、ナナミカさんからご提案いただきました」(奥森さん)
今までのプリスティンにはなかったデザインを見たいという思いと、ナナミカへのリスペクトから、デザインはお任せしたそう。ダブルネームのタグは、プリスティンのいつもの黒ではなく、ナナミカのネイビーになっています。
試着してみると、軽くて暖かい。プリスティンでは、今までなかったリバーシブル仕様など、コラボだからこそ生まれたデザインになっています。ほかにも「私たちには思いつかなかった」とプリスティンが表現した、こだわりが詰まったデザインのお話をナナミカに聞きに行きました。
海を守るという思いが重なったコラボ
ナナミカは、機能性のあるファッション性の高いブランドで、キャンパーたちに愛用されています。メンズ、もしくはユニセックスアイテムの印象が強いですが、3年前からウィメンズ企画も正式にスタートしています。そのデザインを手掛けているのが、今回のリアルフリースをデザインした植木寛子さんです。
植木さん自身、以前からプリスティンが好きだったこともあり、リアルフリースの素材に興味を持っていました。昨シーズン、リアルフリースの生地を購入する形でアイテムを作っています。それなら、今年も、生地を仕入れてデザインすることもできたのではないかと聞いてみると、
「買って、使うだけでは意味がないと思いました。ポリエステルのフリースには、マイクロプラスチックの問題があります。天然素材を使用すると、価格や大量に作ることができないなどの問題が出てきます。以前からプリスティンのものづくりの姿勢に共感していたこともあり、今回はダブルネームでリリースしたいと提案しました。」(植木さん)
ナナミカとは、七つの海の家という意味。リサイクルポリエステルも使われているとはいえ、海を守るには、天然素材にはかなわない。海を汚したくないからこそ、多くの人に取り組みごと伝えるためにコラボという形にこだわったそうです。プリスティンは、心地良い毎日のウィメンズ中心のブランドで、ナナミカは、アウトドアなどアクティブに活動するメンズ中心のブランドという違ったイメージを持つ両ブランドでしたが、海を守るという同じ思いを持った相思相愛でのコラボ実現だったようです。
機能的であり、ファッションを楽しみたくなるデザイン
アウトドアで活動しやすく、ファッションコンシャスでもあるリアルフリースアイテムのそれぞれの特徴をご紹介します。
・リアルフリースコート
リアルフリースコートは、コートの内側のライナーをアウターにできるリバーシブルタイプ。
「ミリタリーテイストを取り入れたコートは、ブランドの特徴でもあるのですが、スポーツテイストやアウトドアウエアの機能を取り入れています。前の打ち合いを深くすることで暖かく、リバーシブルになっています。」(植木さん)
リバーシブルで縫い目部分が気にならないようフラットシーマを採用するなど、着心地に徹底的にこだわっています。ポケットは、表側と裏側で独立しているにも関わらず、もたつかず、すっきりしているのも快適でした。
動きやすさを考えて採用された肩のダーツは、デザインとしてアクセントになっています。こちらは、今までのプリスティンでは考えたことがなかったらしく、コラボだからこそのデザインのひとつです。同カラーのスナップは、肌にやさしいYKKのエコテックススタンダード100のスナップを採用しています。開閉もスムーズでした。
ウィメンズではありますが、ゆったりサイズということもあり男性も着られそうです。
・リアルフリースプルオーバー
ジップアップのプルオーバーは、デイリーにもキャンプにも出番が多そうなユニセックスデザインです。袖口は、MA1でも採用されている編み立てのリブ。
「1960年代から70年代は、内側にボアというのが人気でした。フリースの方を内側にすることで、懐かしいと感じてもらえると思います。」(植木さん)
フリースを内側に着たときに、ロゴを外に出すことを想定してデザインされています。ロゴのプリントカラーがネイビーになっていたのも納得ですね。こちらのファスナーは、再生ポリエステル製で、限りなくサステナブルな素材が採用されています。
リアルフリースという素材でリバーシブルということもあり、デザインの指示書で伝えても、縫製工場からイメージ通りにはでき上がってこず、どちらのデザインも数回の試作を繰り返し、ようやく誕生したというコートとプルオーバー。フリースと聞いて価格だけを見ると高価に感じますが、この価格でも、まずは知ってもらうためとぎりぎりの設定にしているのだとか。それだけ、天然素材でフリースアイテムを作るということは、むずかしいのですね。
「化石燃料は枯渇しますが、コットンは翌年種をまくことができます。天然のものを使用し、無染色でデザインした洋服は、着ることでカーボンニュートラルになります。このように地球の未来を考えることも大切ですが、今、生きる人もハッピーでいられるものづくりをしたいと思っています。」(奥森さん)
「環境配慮素材を着ることによって、循環していることを感じてもらいたいです。天然のものを着ていることがいいと思われるような世の中になればいいし、機能だけでなく、ファッションの楽しさが伝わるといいなと思います。」(植木さん)
2つのブランドのお話を聞けば聞くほど、ものづくりで求めるベクトルの方向が同じであるのだと感じました。今回だけでなく、今後もさまざまな化学反応を起こした新作が登場しそうですね。まずは、リアルフリースの着心地のよさを、ぜひ体感してもらいたいです。